戦略編
第1回新連載
企業の顧客接点は年々進化してきたが、2023年以降の生成AIの急速な発展を経て、今後数年間で大きく様変わりすると予想する。これを「顧客接点の近未来」として解説する。また、デロイト トーマツ コンサルティングでは、10年以上にわたりグローバルコンタクトセンターサーベイを実施しており、顧客接点の近未来を勝ち抜くヒントになると考える。連載第1回ではその概要を解説し、第2回以降は個別テーマについて詳述していく。
まずは顧客接点の近未来の前提となる環境変化について触れる。
近年の顧客の大きな変化は、ニーズが多様化し、さまざまな消費行動が出てきたことである。若年層を中心にタイパ(タイムパフォーマンス)重視の傾向が高まっている。無駄を省いて自分が価値を感じることだけに時間を使いたいといった意識と、そもそもそうしないと情報が多すぎて追いつけないという背景が感じられる。
また、年代を問わずデジタルリテラシーが高まり、チャネルを意識することなく、その時に便利な手段でコンタクトするようになった。さらには、入手する情報量が非常に多いので、パーソナライズされた自分向けの役立つ情報は聞き入れるが、そうでなければ簡単にスルーするというような“自分本位な顧客”が中心になってきた。
CXの潮流は後述するが、CXは経営の重要テーマとなり、DXと融合してデータドリブンのCXが本格化している。これらを受け、顧客接点の近未来は、カスタマーサービスを企業ではなく第三者が行うオープン化が進んでいくと考える。
また、生成AIなどの進化によりサービス対応の多くはオートパイロット、すなわち自動化され、結果としてヒトに期待されるのは高付加価値なサービスのみになっていくと予想する(図1)。
顧客動向を把握するため、24年初めに国内のインフラサービスユーザーを対象に年代別のチャネル利用意向調査を実施した(図2)。
興味深い結果として、20代は意外と電話も使うということ、また、チャット(LINEやボット)もかなり使っている。若年層は何か問い合わせやコンタクトしたい時に、そのシーンや内容によって最も便利と思うチャネルを瞬時に判断して行動していると考えられる。
一方で、高齢層は自分でできることはまず企業HPで調べ、不明点は電話で会話しながら納得できるまで確認する。ただし、複雑な内容や急がない用件についてはメールで文面に残すことを望んでいると考えられる。旧来のような、高齢層はアナログ(電話)で、若年層はデジタル(ノンボイス)といった単純なチャネル戦略では立ち行かないことは明白である。
CXの潮流として、近年は多くの企業で中期経営計画の重点戦略に上がるなど、その重要性はますます高まり、ビジネスの中核的な位置づけとなっている(図3)。
CXは、以前はNPS(ネット・プロモーター・スコア:ベイン・アンド・カンパニーおよびフレドリック・ライクヘルド氏、NICE Systems,Inc.の登録商標)を測りながらロイヤルティを高めていく一つの活動のような扱いだったが、いまはCX経営といわれるように経営の重要なドライバーになった。
さらに近年、顧客ベース会計という概念が出てきている。売り上げを既存顧客の維持成長分と新規顧客分にわけ、既存顧客はロイヤルティの高中低で分解する。コストについても新規顧客獲得コストと既存顧客維持コストに分けていく。これによりCXを起点に現在の売上・収益は健全なのか、将来性はどうなのか予測しながら経営のかじ取りができる。
業務に関しては、ここ数年はとにかくDX重視となった結果、顧客視点に欠けるサービスも多く登場したが、その反省からCX起点で考えたDXが主流となってきた。また、EX向上がCX向上につながるという関連性も見えてきており、両面で取り組む動きもある。
ITに関しては、ExperienceデータとOperationalデータを統合することでネクストベストアクションの精度が高まり、また、何より大きいのは生成AIなどの技術進化であり、これにより新たなCXが生まれたことである。
顧客接点の近未来を具体的なオペレーションモデルで示す(図4)。
顧客接点の近未来の1つめのトピックは「カスタマーサービスのオープン化」である。対話型AI検索サービスがさらに進化して普及することで、顧客は検索したり企業のホームページを参照して自分で調べたりするのではなく、知りたいことは直接スマホに問いかけるようになる。例えば「結婚して苗字が変わったけど生命保険の手続きは必要ですか?」のように。そうするとその回答がくる。
ここまでだと従来の検索エンジンと変わらないが、それから「加入している保険会社はどこですか?」「いま手続きしますか?」など対話型AI検索サービスからの問いかけがあり、必要とする場合は保険会社につなげてくれる。よって各企業への一般的な問い合わせは大幅に減少すると考えられる。
また、専門的なアドバイスを期待する場合、各企業に聞くよりも第三者による目的別AIエージェントのほうが豊富な情報を持ち、自分に合った総合的なサービスを得られるため、こういった情報サービスも増えてくると考えられる。このようにカスタマーサービスの主権が第三者に移っていくことをオープン化と呼んでいる。
2つめのトピックは「カスタマーサービスの有償化」である。対話型AIを通じて連絡を受けた企業は、まず自動応対で本人確認を行い顧客の購入したプロダクト(商品やサービス)を認識したうえでカスタマーサービスを行う。ここでの変化は“サービスはタダ”という時代からサービス自体の価値が見直され、同じプロダクトでもサービス付きとサービス無しに分かれていくのではと考える。
これは海外の損害保険では実在しており、補償内容は同じでも事故やトラブルの時にコールセンターで人がサポートしてくれる商品とセルフサービス前提の商品で保険料が異なるような仕組みである。これにより、カスタマーサービスの世界が、いかにコストを下げるかだけでなく、いかに対価を得られる価値を提供するかに転換していくと予想する。
3つめのトピックは「顧客接点・CXの高度化」である。従来のセルフサービスは顧客にお任せであり、タスクを解決できるかは顧客次第であり満足度と引き替えの面もあった。今後はセルフ化においてもAIアバターなどが手続きを手取り足取りガイドし、完了したかどうかをトラッキングし、完了していなければ後からフォローしてくれるようなCXも重要となる。
有償サービスの場合は、一定のコストをかけられるため顧客を理解する担当制のオペレータがベストな対応を行う。音声だけでなく、説明は画像を用いて行い、顧客に画面タッチで選択してもらうなど、デジタルと音声が融合したハイタッチなコミュニケーションが当たり前になっていく。
4つめのトピックは「プロアクティブ型アウトバウンド」である。ここまで説明してきた顧客接点の近未来は、各企業にとっては望ましい世界に映るかもしれない。しかし、オープン化、セルフ化が意味することは、顧客との直接的なコンタクト機会の減少であり、顧客エンゲージメントの希薄化にもつながる。したがって、インバウンドをどうハンドリングしていくかに加えて、次に発生するであろう顧客ニーズを予測して先回りしたアプローチが重要になってくる。
顧客接点の近未来においては、AIの活用とヒトならでは応対をベストマッチすることが、顧客と心でつながるための条件と考える。
デロイト トーマツ コンサルティングは、2024年版のグローバルコンタクトセンターサーベイとして、日本企業60社を含む、グローバル600社のコンタクトセンターのマネジメント層を対象としたアンケート調査を実施した。この調査では、先進的で優れたパフォーマンスを発揮しているコンタクトセンターを“サービスイノベータ”として、その特徴を抽出することで、今後の環境変化の中でも、コンタクトセンターが戦略目標を達成するためにどのような取り組みが求められるかを検討した(図5)。
調査の結果、2024年3月時点で既に生成AIをコンタクトセンターで活用するなど、先進的なテクノロジーを早期導入し、チャネルを統合管理しながら、オペレータの長期定着・育成のためのEX向上に取り組んでいる“サービスイノベータ”は、組織としての戦略目標の達成率が高いことが分かった。
今後の連載では、これらサービスイノベータの特徴を踏まえたコンタクトセンターの取り組みの方向性として、①電話orデジタルから電話×デジタルのハイブリッドへ進化、②カスタマージャーニー全体をカバーするチャネル間の連携、③CX人材を確保するためのEX向上、④業務範囲と提供価値の見直しでAI導入の成果向上──の4点について解説していく。
2025年02月20日 00時00分 公開
2025年02月20日 00時00分 更新