
Part.1 <現状と課題>
顧客対応の自動化が、技術的には現実味を帯びてきた。一方で、多くのコンタクトセンターでは実用化が思うように進んでいない。壁となっているのは、AIが参照するナレッジや応対に必要なデータの未整備、そしてそれを継続的に運用する人材・体制の不足だ。生成AIを活用するには、単にツールを導入するだけでは不十分だ。分散した情報を集め、業務知識として可視化し、更新し続ける仕組みが欠かせない。
生成AIの登場により、顧客対応の自動化は大きく進みつつある。FAQ検索やチャットボットによる定型応答にとどまらず、問い合わせ内容を理解し、必要な情報を参照、自然な文章や音声で回答することも可能になりそうだ。また、後処理の要約やVOC分析、FAQ作成支援など業務支援の領域でも生成AIに対する期待は高まっている。
技術的にはさまざまな活用が可能になった一方、実運用化は必ずしも順調ではない。多くのセンターで共通する課題は、AIが回答や判断の根拠とするデータが整っていないことだ。コンタクトセンターの情報は、CRM、FAQ、マニュアル、応対履歴、メール、音声ログなど、複数のシステムに分散している。
ひとくちに「データ整備」といっても、課題は一様ではない。代表的な課題は、大きく4つ(分散、非構造、正解不足、更新不全)に分類できる(図)。それぞれの課題の本質と解決のアプローチを検証する。

Part.2 <ケーススタディ>
分散し、構造化されず、更新も追いつかない。多くのコンタクトセンターが抱えるナレッジの共通課題に向き合った、4社の取り組みを検証する。参照範囲を絞り込み、マニュアルを作り直す。さらには契約書やメールを読み込ませ、応対ナレッジを一元化する。手段は異なっても、AIで整え、人が確かめ、現場運用に組み込む姿勢は共通する。各社の実践から、AI時代のナレッジ整備と運用設計の突破口を探る。
分散し、構造化されず、更新も追いつかない。ここで取り上げる4社も、複数の課題が絡み合うなかでデータ整備に踏み出した先行企業だ。参照範囲を絞る、マニュアルを組み替える、契約書やメール、応対履歴までさかのぼる──。アプローチはさまざまだが、AIで整え、人が確かめ、現場運用に組み込む構えは共通する。各社の実践から、ナレッジを「使える資産」へ変える設計を読み解く。
全マニュアル投入で正答率低迷
参照範囲を絞り約80%まで改善
同社は、マニュアルやFAQをAIに一括投入し、オペレータへ回答候補を示す取り組みを進めた。だが、情報量を増やしても正答率は上がらず、初期はわずか15%にとどまった。原因は、AIが参照する範囲の広さとナレッジの形式にあったという。
そこで商材別・フェーズ別にマニュアルを整理してタグを付与し、図解や現場判断もQA化。現場が「是正シート」で回答を検証し、原因を切り分けながら改善を重ねることで、正答率を約80%まで引き上げた。
Excelマニュアル1000超を再構成
現場が使えるナレッジ基盤へ
同社は、複雑な契約条件をExcelマニュアルで管理してきた。ファイルが1000件を超え、最新版の判別も難しく、担当者ごとに形式もばらばらだった。
そこでExcelをAIに読み込ませて整形し、人が確認・補正する流れで再構成を開始。オペレータが条件を選択すると必要な項目にたどり着く形式へと切り替え、これまでに約300件の整理が完了した。参照したナレッジをURLとして記録し、案内内容との照合にも活用している。
契約・技術・法務文書をナレッジ化
AI番頭がメール履歴から背景まで提示
用船仲介などを手がける同社は、契約条件や交渉経緯など多岐にわたる情報を、独自AIツール『AI番頭』で参照できるようにした。
想定問答は10万件を超える規模になるためFAQ化を避け、契約書やメールを直接参照させる設計を選択。約700隻分の用船契約書はOCR前処理で整え、契約に至るまでのメールも結び付けることで、条文が残された経緯までたどれるようにした。業界特有の略語は辞書化し、契約日をもとに新旧文書を判別する仕組みも備えた。
FAQ主体の応対ナレッジをマスター化
KPIを含め意思決定を支えるDBを構築
同社は、電話・メール・FAQ・チャットボットに分散したナレッジを、電話応対用ナレッジをマスターとして一元化する構想を進める。チャットボットが参照するFAQは条件分岐型が多く、外部SaaS利用という制約もあり、AIが読み取りやすい形への整備が難しい。
チャットボットはコストも踏まえ、自己解決に至らない顧客の受け皿と位置づける。ナレッジ整備は現場にとどまらず、経営判断を支えるKPIマネジメントの質向上にも及ぶ。
会員限定2026年07月20日 00時00分 公開
2026年07月20日 00時00分 更新