ネクスト・コンタクトセンター・サミット2025秋

2026年1月号 <Discussion/座談会>

座談会 <ネクスト・コンタクトセンター・サミット2025秋>

生成AI時代の「理想のマネージャー像」
変容する役割と資質の再定義

生成AIの実用化が進み、コンタクトセンターは「AIと人が共創するフロントライン」へと役割を変えつつある。そこで、生成AIを活用した業務改革の推進、中堅マネジメントの育成に取り組む3者に、マネージャーが身につけるべきスキルと今後の組織像について議論してもらった。

<出席者>(順不同)

中村 康人 氏
中村 康人
カインズ
コーポレート本部 カスタマーサービス部 部長
2022年、カインズに入社。カスタマーサービス部 戦略企画室 室長に就任し、コンタクトセンターの組織改革とDXを推進。2025年、同部 部長に就任。現在、コンタクトセンター領域だけでなく、全社の生成AIプロジェクトをリード。
牛丸 潤一 氏
牛丸 潤一
DMM.com
プロセスデザイン本部 カスタマサポート部 部長
営業会社での経験を経て2015年にDMM入社。オペレーター、SV、マネージャーを経て2022年より部長職に従事。多様なサービスを支えるCSの運営、AIによる業務効率化、VOCを活かしたCX向上、カスハラ対策などCS改革と品質向上を進める。

<モデレータ> コールセンタージャパン編集部

山田 和弘 氏
山田 和弘
メルカリ
Japan Region Trust and Safety Ops&OpsProgram , Director
2014年4月よりメルカリにてCS及びTnS(不正検知)の責任者として組織を立ち上げ。2021年より同グループ会社にて複数の新規事業立ち上げに従事。現在は日本事業全体における不正対策のプログラムマネジメントを担う。

山田 生成AIを活用して業務効率化や品質向上において大きな成果を上げるコンタクトセンターが増えつつあり、いままさにパラダイムシフトの入口にいると感じます。本日はカインズの中村さん、DMM.comの牛丸さんと一緒に、生成AI時代のマネージャー像について、考えていきたいと思います。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

中村 ベイシアグループのホームセンター事業を展開するカインズで、20〜30席規模のコンタクトセンターの運営と並行して組織改革とDX推進を担当してきました。現在は、全社の生成AI活用プロジェクトもリードしています。

牛丸 DMM.comのカスタマサポート部の部長として、金沢と札幌の2拠点・約70名体制のサポートセンターを統括しています。

山田 フリマアプリを提供するメルカリで、オペレータからSV、センター企画、新規事業の立ち上げなどを経て、現在は国内事業における不正対策と業務基盤づくりを担当しています。ここからは進行役としてお話していきます。

要約、評価、VOC
「得意領域」から活用

山田 最初に、生成AIの活用状況をお聞かせください。

中村 電話でのお問い合わせが多いため、電話応対業務において「通話の自動要約」と「応対品質評価」に活用し、それぞれACWを半減し、1件あたりの応対評価にかかる時間の半減にもつながっています。まず、自動要約は、1つの通話から「構造化された要約」と「お客様の発話を抜き出す要約」の2種類をアウトプットしています。

山田 2種類の要約はそれぞれどのような目的で使われるのですか。

中村 前者は応対履歴登録の省力化、後者は「ママチャリ」のようにお客様の表現をそのまま残しており、VOCとして関連部署に共有しています。一方、応対品質評価では、通話全件を対象に、定量評価できる7項目を5段階でスコアリングし、評価の根拠となる具体的な発話とともにフィードバックも生成させています。通話終了から約1分で生成されるので、応対の合間のセルフチェックとしても機能しています。

山田 モニタリング&フィードバックにおいて、公平性や納得感の面でランダムサンプリングは課題となります。全件を即時に一定のルールで評価できることは、まさに劇的な変化ですね。ただ、AIに評価されることに対して、よい印象をもたない人もいるのでは。

中村 できるだけよい印象を残す工夫として、「AI採点」というカラオケ採点のようなゲーム性のある名称にして浸透を図りました。結果、現場は評価をポジティブに受け止めていると感じています。

牛丸 当社は「AIが得意そうな領域」という観点で、2022年ごろから「ACW削減」「VOC分析の効率化」「応対評価の自動化」の3つの施策に取り組みました。これらの導入効果を受けてさらに取り組みを進め、現在は「自動応答」「VOC集計・分析の高度化」「KCS(Knowledge-Centered Service)のAI補助」の3領域に挑戦中です。

山田 KCSのAI補助とは、ナレッジ作成・管理サイクルの自動化という意味合いでしょうか。

牛丸 現状、多数のマニュアルが点在しているため、それら(ナレッジ)を1つに集約し、ハブとしたうえで、さまざまなAI機能をつなぎこみ、シームレスに活用できる環境を目指しています。オペレータから見て、「苦労して探さなくても必要な情報にたどり着き、自動でやることがどんどん生まれるような状態」を目指しています。

山田 メルカリでも今まさに挑戦中の領域です。これが本格的に稼働するようになると、業務マニュアルやFAQが自動で更新され、オペレータの対応ツールに応対要約や対応方針のレコメンドが出るようになります。さらにその少し先の未来形としては自動応答も考えています。こうした取り組みを進めるうえでは、社内の推進体制をしっかり築くことが不可欠です。実用とチャレンジの両方が進んでいるDMM.comでは、どのような体制を敷いていたのでしょうか。

牛丸 当社の特徴とも言えるのですが、「なんでもやれるDMM」という挑戦を推奨する文化が根付いており、「これをやる」と決めたことは比較的身軽に実行できる環境があります。生成AIの取り組みについても、エンジニアと協業しながら、PoC(概念実証)を実施して、一気に作りあげていく流れでした。現在は、全社横断型のAI DX組織を立ち上げ、取り組みを進めている状況です。

効率化による「負担増」を防ぐ!
新たな働き方を実現するIT活用

山田 ここからは、生成AIの浸透がセンター組織やマネジメントにどのような変化をもたらしているかをお聞きしたいと思います。

中村 業務の変化という視点では、効率化が進みAIでできることが増える一方で、オペレータ1人あたりの作業量は減らず、むしろ高度化しながら増えているというのが率直な実感です。というのも、マネージャーとしては、効率化によって創出した時間で、新しい業務に取り組んでもらい付加価値を創出するよう促す責務があります。「元の業務+新しい業務」を1人でカバーできる環境をいかに整えるかという課題があります。

山田 どのような環境の整備をお考えですか。

中村 まず、オペレータ支援チャットボットのようなツール導入が欠かせません。そのためには、まずマネージャーが学習データを構築し、オペレータが応対で使うなかで生成した回答の妥当性をチェックし、それをもとに、マネージャーが改善を重ねる、というサイクルが不可欠です。これに加え、各自が、生成AIの特性を理解したうえでよい回答を引き出す質問力、さらに生成物の妥当性を見極める目を養うための教育体制の整備が求められると思います。

山田 マネージャーに求められる資質も変化がありそうですね。

中村 マネージャー側には、「判断力」「仮説思考力」「AIコラボレーション力」の3つが必要になると考えています。変化の激しい環境で瞬時に意思決定し、仮説と検証を繰り返しながら、AIと対話・協働して成果を最大化する──これを実践できる人が組織改革を担えるのだと思います。

牛丸 私は、マネジメントとは「ビジネスの将来や外部環境を踏まえ、方針を描き続ける仕事」だと考えています。外部環境の変化でいえば、たとえば生成AIについては、すでに細かい指示がなくても期待以上の結果が返ってくるレベルになっています。今後も、生成AIが連続的に進化していけば、現在の仕事は奪われるはず。これを前提として組織やメンバーの未来を考えていくことが、マネージャーに求められるようになる。従来、「マネージャーは何をしていたのか」を起点に資質を考えると、「意思決定」「知識」「育成」の3つに集約され、これらは今後も変わらないと思います。

山田 生成AIが入った後の“To-Be像”では、3つの「中身」が大きく変容するということですね。

牛丸 意思決定は、必要な情報の収集・整理のプロセスをAIで代替できます。大事なのは、意思決定をするために「どう問いを立てるのか」。そして「情報を取捨選択」するための軸を持つことだと思います。知識に関しては、「方法論」「ノウハウ」など周囲にあふれる多様な情報を「どうつなぎ合わせられるか」が、より重要になってきています。育成は、従来の「手取り足取り」、あるいは「俺の背中を見て育て」といったスタイルが主流でした。しかし、現在はメンバーがAIを使って自発的に自己学習することを支援をし、フィードバックすることで伸ばすことが重要になると考えています。マネージャーに求められるのは、自分の組織に合ったAI導入を設計し、活用するための環境や文化を形成していける「AIリテラシー」、共感・倫理観・ビジョン提示といったAIに代替できない価値となる「人間らしさの強化」、そしてAI代替への不安を和らげる「心理的安全性の設計」だと考えています。

図 生成AIにより変化するセンター組織、マネジメント
図 生成AIにより変化するセンター組織、マネジメント

AIリテラシーは必須の資質
「小さく試す」から身につける

山田 お二人とも、今後必要な資質にAIの特性理解やリテラシーを挙げていますが、多くのマネージャーにとって、生成AIは「初めて出会うテクノロジー」です。どこで、どのように身につけていくのが理想だと思われますか。

中村 まず大前提として、本人が興味を持たないと身につかないと思います。プログラミングやExcelと同じで、「仕事だから」だけではなかなか伸びません。業務を離れて「どんな使い方ができるだろう」と自分ごと化できる人が必要だと感じています。

牛丸 私も同感です。私自身は、実務への投入を通じて学んできました。最初は小さな業務からAIに任せてみて、「思った以上に使える」と実感して、自分のリソースをどう渡していけるかを考える。それを「細かく小さく試す」ということを繰り返すことですね。

山田 実践的な情報を研修などで得られるようになるのはもう少し先になりそうですし、今は他社事例を参考に、「これはどうやるんだ」と考えてみたり、それを社内の多様な役割の人と連携しながら、自発的な情報の収集や共有が必要だと思います。もう1つ、生成AIならではの難しさとして「AIはときどき嘘をつく」という問題があります。メルカリでは、現状は、リスクも学びつつ、AIを「考えるパートナー」と位置づけ、最終判断は人が行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の仕組みで担保するという考えです。

牛丸 ここはまさに「リスクリテラシー」が問われる部分です。セキュリティや著作権、各LLMベンダーのスタンスなど、きちんと勉強しないと判断できないテーマが多い。最終的に「使う/使わない」を決めるのはマネジメントの役割なので、リスクについては改めて向き合う必要があります。

山田 生成AIの活用は、コンタクトセンターの業務や組織を確実に変えつつあります。のちに訪れる本格的な生成AIへの「リソースのスイッチ」を見据え、メンバーの働き方や組織設計を描いていく──それこそが、生成AI時代の理想のマネージャー像と言えるでしょう。

2025年12月20日 00時00分 公開

2025年12月20日 00時00分 更新

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