カオスな組織の率い方「心地よい職場のレシピ」 第1回

2025年3月号 <カオスな組織の率い方「心地よい職場のレシピ」>

池田浩一

実践編

第1回新連載

反発・反抗・嫌がらせ──
“自己中化”したベテランオペレータの導き方

近年、カスタマーハラスメントが大きな話題を呼んでいますが、コールセンターで働く多くの人たちにとって、もうひとつの大きな悩みの種になっているのが「センター内の人間関係」です。多様な人々が集う労働集約型組織では避けては通れない問題。今回は「ベテランオペレータの中にいる、やりづらい人・難しい人」をどう導いて、円滑にセンター運営をしていけばよいかを見ていきます。

PROFILE
ブランニューデイ 代表取締役
池田浩一
コールセンター専門のコンサルタントとして、300社以上のセンターの立ち上げや業務改善を支援。コールセンター従事者のためのeラーニングサービス「BIZTEL shouin」、無料ビジネススクール「BIZTEL大学」の講師としても活躍する。

 これまで300カ所を超えるコールセンターに足を運んでいますが、一部のベテランオペレータとの関係で悩むSV・管理者は、ほぼすべてのセンターでいらっしゃいます。同じ職場で同じ業務を長年続けていると、どうしても仕事に“慣れ”が出て、上司や同僚と接する際も緊張感がなくなりがちです。

 中には、自分の都合を強く主張して感情的に振る舞う人も出てきます。大体5年以上、同じセンターで働くとこうしたケースが見られますね。指導したら反発されたり、オペレーションを変更したら反対派を結成されたりと、私もかなり手を焼いたものです。

 とくにひどい場合は、気に入らない同僚や新人に嫌がらせをして退職に追い込むようなこともありました。辞める人は波風を立てず、理由を言わずに去っていくので、なかなか表に出てきません。ここまでの域に達してしまった人のことを、言葉は悪いのですが、私は「自己中化した」と形容しています。残念なことに、多くのセンターで“自己中心的”になってしまった人を見てきました。自己中化したベテランがSVにも牙をむき、対処に困って心を病んだ若手SVが辞めてしまう事例もありました。

 自己中化させないのはもちろんですが、貴重なベテランを上手に導くことはとても重要な問題です。

やりづらく思える
ベテランたちが抱える事情

 では、どういう人がやりづらいベテランになったり、自己中化しやすいのでしょうか。私は次の5つに分類しています。

 ①コミュニケーションを過剰に大切にする人。自分にだけ連絡がきていない、挨拶がないなど、やりとりのちょっとしたズレが許せず、文句を言いたくなってしまいます。②年齢や職歴を気にする人。新人や自分より後から着任したSVに対して厳しい傾向があります。③ルールや規律・習慣・マニュアルを重要視し過ぎる人。少しでも間違いがあると指摘せずにいられません。④自信過剰・自信肥大な人。年齢が高くなるとこの傾向が強くなります。⑤加齢による心身の不調を感じている人。年齢が高くなると、病気などによる身体の不調や、家族とのお別れといった心の不調が頻発する時期に差しかかります。すると、30〜40代の頃は仕事ができ後輩に慕われていた人が、豹変することがあります。

 こうしてみると、周囲からやりづらく思われてしまう場合でも、実は本人も苦しみや問題を抱えていることが分かります。この苦しみに寄り添いながら、円滑なセンター運営に貢献してもらえるよう導くのがSV・管理者の役割です。

ベテランたちと管理職
両者に必要なのは“教育”

 ベテランたちが周囲に良い影響を発揮できるよう導くには、どうしたらよいのでしょうか。ぜひ取り組んでいただきたいポイントを5つ紹介します()。

図 ベテランを正しく導く「5つの方法」
図 ベテランを正しく導く「5つの方法」

1.コミュニケーション:オペレータに常に声をかけ、誰がどういう強みを持っていて、何が苦手か把握し、褒めることが大切です。常にコミュニケーションがとれていれば、オペレータ同士の人間関係や気持ちの変化にも気づけます。

2.公正な指導:ベテランだからといって腫れ物扱いや過度な気遣いは要りません。指導する管理者の姿をオペレータは見ています。誰に対しても公平に、違うものは違うと指導します。

3.定期的な配置転換や席替えなどのローテーション:定期的に視点を変える習慣を持たない組織は確実に澱みます。センター運営がしっかりしている大手の銀行や保険会社は、ローテーションを組んで5年以上、同じ業務をさせないようにしています。

4.キャラクター、コンディションの分析:エゴグラムなどの性格診断をみんなで楽しく行い、互いのキャラクター(個性)と心地よい接し方を把握します。ちなみに、このキャラクター分析は個別面談をする際もかなり重要です(個別面談の仕方については、今後の連載で詳しく紹介します)。また、ストレスチェックも実施し、メンタルケアにも気を配ります。

5.教育による刺激:実はこれが最も重要です。入社時は誰しもが高いモチベーションを持って仕事を学びます。向上心を持って勉強しているうちは、他人よりも自分に意識が向くものです。ところが、一通り業務をこなせるようになると学習意欲は低下しだし、謙虚な姿勢を忘れ、他人のあらが気になりやすくなります。社内外の研修や他社センターと交流して、常に刺激を与える必要があります。

 また、教育はオペレータだけでなくSV・管理者にも絶対に必要です。オペレータをまとめ、牽引する立場を任されるからには、コミュニケーション術や組織論の基本は学んでおきたいところです。

 今は便利な時代になり、コールセンター向けのeラーニングを活用する企業も増えてきました。私も「BIZTEL shouin」というeラーニングを監修していますが、ベテランの継続的な学習に加え、SV・管理者向けの教育プログラムも組み込まれています。手軽に始められるので取り組みやすいと思います。

 本来、スキルの高いベテランはコールセンターの宝、財産です。せっかくの宝物が周囲と協調してもっと活躍できるよう、オペレータも管理者もともに学び続け、高め合える仕組みを作りましょう。

2025年02月20日 00時00分 公開

2025年02月20日 00時00分 更新

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