2020年5月号 <特集>

特集扉

先駆者に聞く
チャットセンターの運用テクニック

Part.1 <実態調査>

「何を」「どこまで」対応するのか
効果を生む絶対条件、“コンタクトリーズン”の分析

「個人情報をやり取りしない」「FAQの範囲内でのみ回答する」──チャット対応において、早くも暗黙のものとされつつあるルールだ。しかし、これでは“問い合わせ窓口”として十分に機能し、顧客満足を高めることは難しい。リスクを過度に恐れた結果、チャット窓口が電話の“劣化版”と化す。これでは、CS/CX向上は絶対に不可能だ。チャット対応の「リスク」と「失敗」について検証する。

 この数年、多くの企業がチャット窓口を開設した。「コールセンター白書2019」によれば、20%以上の企業がチャット対応ソリューションを導入済みで、チャットボットを導入、あるいは導入を検討している回答企業は約70%に達している。

 しかし、セキュリティやコンプライアンスについては極めて慎重な姿勢が目立つ。チャットでは「個人情報をやり取りしない」「FAQの範囲内でのみ回答する」といったオペレーションルールが、あたかも当然のように採用されている。これが顧客の期待とマッチしたものなのか、いま一度、検証すべきだ。

 編集部では、チャット窓口を運用する企業を対象にアンケートを実施した(有効回答数42社)。ミスを防ぐ方法としては、「FAQやスクリプトをベースに対応する」ことを実践する企業が多くを占めた()。これによってミスを防げる一方で、FAQが不十分、またはスクリプトが適切でなければ、CSを損なうことになる。ミスを防ぐというだけではなく、解決率やCSを上げるという視点でも、対応ログを常に分析してナレッジの改善を進める必要がある。

 個人情報やコンプライアンス順守といったリスク対策はもちろん重要だ。しかし、運用に不慣れな新たなコミュニケーションチャネルに対して、曖昧な根拠で過剰なリスク管理を行った結果、“不便なサービス”“役に立たない窓口”として捉えられてしまっては、その運用は失敗といえる。

 「チャット対応はクレームになりにくい」と言われるが、電話では思わず口から出てしまう不満も、わざわざテキストに打ち込むほどではないと判断する顧客が多いことが理由とも考えられる。テキストコミュニケーションは、顧客の本心を察知することが難しいチャネルだ。例えば、電話やメール、アンケートなど他のチャネルで、チャットでは解決できなかった顧客や、チャットで解決はしたが不満が残った顧客が何をチャット窓口に求め、どのような対応であれば満足したのか、それを追いかける仕組みが必要だ。そのうえで、窓口のありかたを再設計していくことが、CS向上には不可欠といえる。

 本誌では、調査結果とヒアリングをもとに、『チャット対応のリスクと失敗』について検証している。

図 ミスを防ぐためのルールや制度(複数回答あり、n=28)

図 ミスを防ぐためのルールや制度(複数回答あり、n=28)

※画像をクリックして拡大できます

Part.2 <Q&A>

設計からマネジメントまで
先進事例/専門家が答える『16の疑問』

「対応範囲外の問い合わせが多数入ってきてしまう」「個人を特定した対応を低リスクで行いたい」──チャットセンターを構築、運用するなかで生じる多くの悩み。実は、各社共通するものも多い。経験豊富なチャットセンターのマネジメント、および専門家であるコンサルタントに、Part.1で実施したアンケートに寄せられた、16個におよぶ不安や疑問に対し、具体的なアドバイスを得た。

 この数年、CX(顧客体験)と効率化の観点から、チャット窓口の構築が相次いだが、いまだ確立されたマネジメント手法は存在しない。品質管理もリソースマネジメントも、電話と比べ未成熟な印象が残る。

 例えば、メールのように定型のあいさつ文が並ぶと読みづらく、CS(顧客満足)を損ねるとされるが、ビジネス文書である以上、洒脱すぎる文面は不適切だ。現場は、顧客の期待値を見極めながら、表現のバランスに苦慮している。

 また、チャットは短文のやり取りであることから、顧客の状況や真意を理解するにも苦労する。CXを追求するうえでは、手軽さやスピードといったチャットの優位性を保ちながら、適度に踏み込んだ対応で顧客の真意を捉える必要もある。

 パフォーマンス管理でも課題がある。電話と異なりアバンダン(放棄呼)が発生しない仕組みであるうえ、解決や終話が判断しにくく1件あたりの対応時間を把握することすら難しい。それゆえ、電話のような緻密なリソースマネジメントを実践することが難しい。

 ひと口にチャットといっても、問い合わせの履歴が顧客の手元に残らないWebチャットと、スマホにやり取りが保存される一方、受信と既読にタイムラグがあるLINEでは、提供できるCX(顧客体験)も運用の課題も異なる。

 このように、新たなチャネルであるチャットは、顧客の期待値も定まらず、運用は手探りとならざるを得ない。多くの企業が、さまざまな不安、疑問を抱えながら、最適解を目指している。

回答者(順不同)

加藤 快 氏
 三井住友銀行
 リテールマーケティング部リモートマーケティンググループ

岸 ひなた 氏
 富士通コミュニケーションサービス
 チャットコンサルタント・ナレッジコンサルタント

早瀬 美樹 氏
 KDDI
 カスタマーサービス推進部メッセージ企画G グループリーダー

東峰 ゆか 氏
 Me-Rise コンサルタント

河田 裕司 氏
 SBI証券 カスタマーサービス 部長

土生 香奈子 氏
 BIGLOBE コンシューマ事業本部 オムニチャネル推進室 室長

木下 睦子 氏
 freee パートナー&ミッドユーザー事業本部
 Support Excellence Group Fastest Customer Support
 マネージャー

大西 美佳 氏
 インサイト コンサルタント

2024年01月31日 18時11分 公開

2020年04月20日 00時00分 更新

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