現場を守り、離職を防ぐ
「カスハラ/難クレーム」対策
Part.1 <現状と課題>
グレーとグレーが重なったら黒!
組織で下す「顧客ではない」という判断
「カスタマー・ハラスメント」の事例はさまざまなメディアで報告され、社会問題化している。コールセンターもまた、例外ではない。多くのオペレータの離職の原因となるばかりか、その評判が拡散し人手不足に拍車をかけている。企業(センター)が果たすべきは、「現場を守る」ことであり、それが「一般の顧客を守る」ことに繋がる。カスハラ対応のポイントを整理する。
「お客様が、神様ではなく“王様”になってしまった」──日本菓子BB(ベタービジネス)協会の常務理事、天野泰守氏は近年の風潮をこう指摘する。
店員への土下座強要、罵声、脅迫などがメディアで取り上げられ、「カスタマー・ハラスメント(カスハラ)」という言葉が生まれた背景のひとつには、「消費者と企業の関係の変化」がある。2000年以降、さまざまな企業の不祥事が重なり、一方でネット(とくにSNS)が普及、消費者は大きな発言力を得た。結果、高品質のサービスがもてはやされる「過剰サービスの時代」が到来。消費者の期待が高まり続け、「やってもらって当然」という王様然とした態度が生まれ、数々のカスハラ案件を招いたといえる。
被害者は、店員だけではなく、コールセンターのオペレータにも及んでいる。顔が見えないだけに、より辛辣で人格を否定するような言葉を投げかけられる事例も数多い。今回、コールセンターのオペレータ経験者を対象にアンケートを実施したが、対応難易度の高い難クレームから極めて悪質な事例まで、実にさまざまな体験が寄せられた。
本特集では、識者や事例各社の取り組みから「カスハラ(理不尽クレーム)の判断基準例」を示すととともに、アンケートで得られた回答にその基準を照らし合わせてみた。さらに、「マネジメントとして対応を検討すべき要素」をまとめている。
図1 アンケートから見た「カスハラ案件」
※画像をクリックして拡大できます
Part.2 <ケーススタディ>
罵声、暴言、繰り返し──NG行動を明確化
“ボーダーライン”を共有する先進2社の取り組み
長時間にわたって大声で威嚇し、かつそれが複数回におよぶ──コールセンター勤務者に対するアンケート結果からは、こうした難クレームに苦慮する現状が垣間見える。現金や商品の強要というタイプはさして多くはないが、感情を爆発させ、かつ粘着質な「難クレーム」にどう対応するか。独自のガイドラインを作り、全顧客接点で共有、組織対応を徹底している2社の取り組みを検証する。
CASE STUDY 1:ファンケル
店舗でガイドラインを共通化
“ボーダーライン”を具体例で示す
化粧品や健康食品を販売するファンケルはこのほど、コールセンターと店舗、共通の難クレーム対応用ガイドラインを策定した。
お客様センター センター長の大泉 智氏は、「通販と店舗、両方をご利用になるお客様が多いので、対応を連携するため、それぞれにあった既存ルールをベースに共通のガイドラインを作成しました」と説明する。
ガイドラインは、難クレームの判断基準(図2)や難クレームだと判断した場合の具体的な対応例、エスカレーションの仕組みや組織体制、関連する法令をまとめた冊子だ。これを難クレームの発生時や対応の見極めに活用している。
同社における難クレームに対する基本的な考え方は、(1)会社に過失がないにも関わらず不当な要求や通常とは異なる態度を取られた場合、(2)会社の過失があったとしても、不当な要求やかなり悪質な態度を取られた場合──の2つを難クレームと捉えている。悪質な態度とは、オペレータ(および販売員)に対する攻撃的な態度も指す。具体的には、大声で怒鳴ったり、暴言を吐いた場合などだ。
図2 クレームの種類
CASE STUDY 2:カルビー
真摯かつ迅速な対応が通用しない
「お客様は神様」ではない!
「ご指摘をされたお客様の95%をファンに変える」と言われるカルビーのお客様相談室。
コーポレートコミュニケーション本部お客様相談室 室長の駒田 勝氏は、「ご指摘に対する対応のゴールは、ご満足いただくこと。社内的には改善すべきところは真摯に反省し改善を重ねてゆくことを目指しています」と話す。
それでも、悪質クレームに発展することはある。
ジャガイモなど自然食材を工場で大量に加工する場合、稀に商品に芽や皮も入ってしまう。これを「虫やカビではないか」と心配する問い合わせがある。混入しているのは芽や皮であり人体に影響が少ないことや、工場の設備に限界があって芽や皮の混入を100%防ぐことは不可能であることを伝えるものの、顧客の中には、工場の機械設備に関する自らの知識を持ち出したり、高すぎる品質基準を求めてどうしても納得していただけないケースがあるという。
悪質と判断した場合は、毅然とした態度で接する。反社会勢力とのつながりをほのめかされる場合は法務部門と連携、不当要求は顧問弁護士に相談するなど、お客様相談室だけで対応できないケースに備えた体制も敷いている。
商品の不具合などの指摘については、全国7カ所にある地域お客様相談室と連携し訪問対応も行っている(図3)。「お客様の不満を怒りに変えないためには、スピードが重要」(駒田氏)といい、原則として2時間以内の訪問、もしくは訪問のアポイントを目指す。
SNSなどに「虫が混入している」などの投稿があっても、その商品のファンが「芽や皮が混入することがある」というカルビーのホームページを紹介し、炎上を防いでくれるというケースも多い。
「会社、そしてファンが現場を守ってくれる」という安心感は、オペレータの精神的安定をもたらしているといえそうだ。
図3 顧客対応手順を分単位でルール化しているカルビーのお客様相談室
※画像をクリックして拡大できます
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