コールセンター
従業員同士が、感謝や称賛を伝え合うサンクスカードやピアボーナス制度。従業員満足度やエンゲージメントの向上を目的に導入しやすい施策であるが、形骸化しやすいとの声も多い。定着する企業としない企業では、何が違うのか。有識者の見解と2社の事例から見えてきたのは、制度の仕組み以上に重要な、組織が大切にする価値観と「何を称賛するのか」の明確化だった。
従業員満足度(ES)を高める施策として、取り入れやすいとされるのが、サンクスカードやピアボーナス制度だろう。従業員同士が感謝や称賛を伝え合うことで、職場のコミュニケーションを活性化し、エンゲージメント向上や離職予防につなげる狙いがある。
しかし、施策は始めたものの、次第にメッセージが送られなくなり、思うような効果を得られず形骸化することも少なくない。“取り入れやすいはず”の施策が、なぜ定着しないのか。
店舗サービス業向けDXツールなどを提供するHataLuck and Person 代表取締役CEOの染谷剛史氏は長年、組織設計に携わるなどES施策への造詣も深い。その知見をもって、サンクスカードを、「ただ『ありがとうを送りましょう』では続きません」と語る。成否を分けるのはツールやインセンティブの有無ではなく、その前提となる“組織の価値観”だと指摘する。実際、長く施策を継続する企業を見ると、それぞれ異なる方法で「何を称賛するのか」を明確にしている。
第一生命保険のコンタクトセンターでは2024年末、「ありがとうPost」を開始した。
Microsoft Formsを利用した内製ツールで、感謝を伝えたい相手や所属、カテゴリなどを選択してメッセージを送る。個人だけではなく、部内の横断グループなども対象に送付できる。
出発点となったのは、組織ビジョンの浸透だった。コンタクトセンターは部門内のみで業務が完結するのではなく、支社や営業職員、IT部門、関連会社など、多様な組織との連携で成り立つ。そこで、日常業務に存在する「ありがとう」を可視化し、組織ビジョンを体現する行動を共有しようと考えた。組織ビジョンは毎年、”ありがとう”を取り入れた内容にしている。
コンタクトセンター統括部コンタクトセンター企画課ラインマネジャーの藤河勝也氏は、「感謝を受け取った人がうれしいと感じ、今度は別の誰かにありがとうを伝える。そんな好循環をつくりたいと考え、始めました」と説明する。
そこで、“ありがとう”に10種類のカテゴリ(図1)を設けた。カテゴリには、組織として期待する行動が落とし込まれており、ただ感謝を伝えるだけではなく、どのような行動を称賛するのかを示している。

メッセージを送ると、受け取る本人だけでなく、その上司にも内容が共有される仕組みにしている。「管理者が把握できないところでも、他者を支援していた、他部門との連携に貢献していたといった、普段は見えにくい行動を把握する狙いです」(藤河氏)。
SVを務める東京コンタクトセンター チーフの髙橋仙実氏は、「普段あまり関わりのない人やオペレータたちにも意識して送り、交流を生むツールとして利用しています」と現場の様子を語る。施策をきっかけに接点が生まれ、その後、「業務で困ったときにも声をかけやすくなるなど、関係構築にもつながっています」(髙橋氏)。
2026年の投稿件数は前年同期比140%(2026年8月末現在)で推移しており、110%の目標を超える利用状況となっている。しかし、投稿数の拡大を、ゴールにはしていないという。「目指しているのは、こうした仕組みがなくても『ありがとう』があふれている状態です」(藤河氏)。
形骸化を防ぐためには、「泥臭くやり続けること」が重要だと藤河氏は考えている。
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2026年09月20日 00時00分 更新
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