デジタルでのおもてなし術── Web接客とコミュニケーション 第5回

2026年10月号 <デジタルでのおもてなし術── Web接客とコミュニケーション>

榊原隆之

基礎編

第5回

AIによるWeb接客【前編】── 敵にも味方にもなる存在
人間と置き換えるのではなく、補完するパートナーへ

生成AIの進化を背景に、ECサイトでもAIチャットボットの活用が広がっている。24時間対応などのメリットがある一方、人の接客はAIに置き換えられるのかという議論も尽きない。重要なのは、AIの得意・不得意を見極め、人とどう役割を分担するかだ。今回は、化粧品ECでの実践をもとに、AIを「人間を補完するパートナー」として活用し、育てていくWeb接客のあり方を考える。

PROFILE
アルビオン 国際ブランド推進室参事
榊原隆之
1991年アルビオン入社。全国の化粧品専門店・百貨店営業を経て、EC事業の立ち上げを推進。自社サイトは4サイトをShopifyで立ち上げ運営。「アナスイコスメティクス」など複数ブランドの国内販売責任者を担い、カスタマーサポートを軸にブランディングを提唱。

 EC業界でも、AIチャットボットの導入が加速しています。「人間の担当者は不要になる」「AIがすべて対応してくれる」──そんな声すら聞こえてきます。AIは、働く私たちやお客様にとって、敵なのでしょうか、味方なのでしょうか。

 当社のANNA SUI、PAUL & JOEのECサイトでも、AIチャットボットの導入に取り組みました。商品情報や過去のやりとりなどを学習させて運用を開始しました。

 夜間や土日でも、お客様からいただくご相談にはできる限りお答えしたいと思い、導入しました。すると、昼夜を問わず、お客様からAIチャットボットにお声掛けをいただき、想像を超えるご相談をいただくこととなりました。

AIが得意なこと、苦手なこと

 すると、運用を通じて、AIの得意なこと、苦手なことが明確になりました。

得意なこと
・よくある質問への迅速な回答(送料、配送日数、返品ポリシーなど)
・商品スペックの正確な情報提供(成分、容量、価格など)
・複数商品の比較(「AとBの違いは何ですか?」など)
・24時間365日の初期対応

 これらは、知識ベースの対応であり、感情や文脈の深い理解を必要としません。AIは疲れることなく、正確に、瞬時に答えることができます。

苦手なこと
・あいまいな悩みの聞き出しと整理
・お客様の感情への寄り添い
・複雑な状況判断(「肌が荒れてきたのですが」など)
・ブランドの世界観を伝える繊細な表現
・提案の「背中を押す」最後の一言

 とくに印象的だったのは、あるお客様とのやり取りです。「最近、肌の調子が悪くて……」とチャットで相談されました。AIは、肌荒れ対策の商品リストを提示しましたが、お客様からの返信は途絶えました。そこで翌日、有人担当者がフォローアップをしたところ、そのお客様は、実は「季節の変わり目でいつもの商品が合わなくなったのでは」と不安に思っていたことが分かりました。その担当者は、ていねいにヒアリングし、季節に応じたケア方法を提案したところ、お客様は安心して商品を購入されました。

 AIは「肌荒れ=対策商品」という短絡的な対応しかできませんでしたが、人間(担当者)はお客様の「不安」という感情を読み取った背景があると思います。「季節の変化」という文脈を理解し、寄り添った対応ができたのです。

 私が確信したのは、AIと人間は「敵対関係」ではなく「共働関係」であるべきだということです。まずお客様は、質問内容やその時間帯などによって、AIにたずねるか、スタッフにたずねるかを選択されます。また、同じ質問であっても、AIにたずねる方もいれば、スタッフにたずねる方もいます。どちらも、AIという窓が1つ開いていることで、相談のチャンスは増えていると感じています。

 一方で事業者がAIにすべてを任せようとすれば、お客様の複雑なニーズに応えられず、満足度は下がるでしょう。

 AIをまったく使わなければ、深夜や土日の問い合わせに対応できず、機会損失が生まれます。理想的なのは、AIと人間が役割分担をすることです。AIが初期対応やシンプルな質問を担当し、複雑な相談や感情的なケアが必要な場合は人間が引き継ぐ──このハイブリッド型こそが、これからのWeb接客の形だと考えています。

 このような設計にはしていますが、平日の昼間でもAIに質問される方もおられれば、土日であっても「スタッフ対応」を望まれることもあります。誰に聞きたいかは、お客様が決めることで、選択肢は多いほうがよいと感じています。

AIを「育てる」という発想

 もう1つ重要なのは、AIは「導入して終わり」ではなく、「育て続ける」という姿勢です。

 これはスタッフ育成とほぼ同じです。私たちは毎週、AIの対応ログをレビューし、改善点を洗い出しています。「この回答は分かりにくかった」「この質問パターンが増えている」「このお客様は、本当はもっと別のことを聞きたかったのでは」といった気づきをAIの学習データに反映させていきます。

 ある時、AIが「この商品は当サイトでは販売終了しています」と回答したところ、お客様から「残念です」という返信がありました。AIの回答は事実として正しかったのですが、お客様の落胆を生んでしまいました。

 そこで、AIの回答を「当サイトでは完売いたしましたが、ほか店舗での在庫を確認してスタッフからご連絡いたします」と変更しました。結果として、商品を見つけられないことも多いです。しかし、お客様の思いに対して、最大限の努力をしたい気持ちは伝わるのではないでしょうか。事実を伝えつつ、次の提案につなげるといった細かな調整が、AIの質を高めます。

イメージイラスト

おわりに

 AIは、使い方次第で敵にも味方にもなります。

 「人間と置き換える」道具として使えば、顧客体験は損なわれます。しかし、「人間を補完する」パートナーとして育てれば、Web接客の可能性は大きく広がります。重要なのは、「何のためにAIを使うのか」という目的を見失わないことです。効率化のためではなく、お客様により良い体験を提供するためという軸がブレなければ、AIは強力な味方になります。

 次回は、AI時代の担当者の役割について、さらに掘り下げます。

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会員限定2026年09月20日 00時00分 公開

2026年09月20日 00時00分 更新

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