ソリューション
AIによる反復練習と自動評価で人を育てる!
成長を促す「振り返り」「ブレない指導」
採用難や問い合わせ内容の高度化・多様化を背景に、コールセンターでは教育担当者の負担が増している。とくに対人ロープレは準備やフィードバックに工数を要し、応対品質評価も限られた通話だけでは課題を捉えにくい。そこで有力なのがAIロープレとAIによる全量評価だが、量を増やすだけでは教育の質は高まらない。評価基準を組織で共有し、結果を指導へつなぐ仕組みをどう構築するかが問われる。
人手不足に悩むコールセンターで「教育DX」に耳目が集まっている。新人の早期育成に加え、在籍者の継続的なスキル向上を図るには、経験や勘に依存しない育成の仕組みが必要だからだ。その手段として導入が進んでいるのが、AIロープレとAIによる全量評価である。
AIロープレの利点は、教育担当者の工数確保を必要とせず、必要なときに反復練習できる点にある。従来の対人ロープレは、相手役の確保や事前準備、実施後のフィードバックに手間がかかり、練習量に限りがあった。一方、AIが相手役を担えば、オペレータは自分の習熟度に応じて繰り返し練習できる。共通のシナリオと評価基準を用いることで、教育担当者による指導内容のバラつきを抑え、研修の平準化にもつなげられる。ただし、反復練習の機会が増えるだけでは、品質向上につながるとは限らない。
まず、練習を確実に成果に結びつけるためには、練習結果に対するブレのない判定とフィードバックが不可欠だ。そのためには身につけるべきスキルを明確にし、実務に即したシナリオと評価基準に落とし込まれている必要がある。AIロープレを導入しているオリックス生命保険では、従来の対人ロープレをもとにシナリオを設計し、導入前にAIの応答や判定を繰り返し検証したという。
同社カスタマーサービス部 デジタルサービスチーム アシスタントマネジャーの山下順加氏は、「意図した基準で判定できるか、AIが不自然な応答をしないかを、実際の研修で使う前に何度も確認しました」と説明する。
次に、ロープレを実施した後のスキルの定着を促す仕掛けが重要だ。同社ではAIによる採点結果が示されるが、それを着台の合否判定には用いず、本人の習得状況やつまずいた箇所を確認する参考指標と位置づけている。点数そのものを評価の結論とするのではなく、どの場面で判断に迷い、どのスキルが不足していたのかを振り返る材料として活用する考え方だ。その結果をもとに、本人が次に取り組むべき課題を把握し、教育担当者が指導内容を具体化することで、個々の課題に応じたスキル向上につながる。
AIロープレを育成の仕組みとして機能させるうえでは、採点後の振り返りや指導までを含めた運用設計が欠かせない(図1)。

AIロープレが練習の機会を広げるのに対し、AIによる全量評価は、実際の応対からオペレータの傾向や課題を捉える役割を担う。従来のモニタリングは、評価者の負荷や、判断のブレが課題だった。一方、AIによる全量評価では、すべての応対を同じ基準で確認することで、個人ごとの課題に加え、問い合わせ別の傾向やセンター全体に共通する問題まで捉えやすくなる。
さらに、どの応対を、どのような根拠で判定したのかを本人が確認できることも利点である。カウネット CXデザイン本部 CX戦略部 部長の間宮賢治氏は、「なぜその評価になったのかを後から確認できます。オペレータ自身も実際の音声を聞き、判定内容と照らし合わせられます」と説明する。点数だけでなく、実際の応対と判定根拠を確認できるため、評価結果を振り返りや改善に生かしやすい。
ただし、AIによる全量評価の結果を育成につなげるには、明確な評価基準を定め、日頃の指導を通じて現場へ浸透させることが重要だ。AIの判定と教育担当者の指導に一貫性があってこそ、オペレータは納得感を持ち、自らの課題を次の改善行動へつなげやすくなる。求められるのは、AIの精度を高めるだけでなく、結果を読み解き、個人や組織の育成施策へ反映する運用体制だ(図2)。

AIの活用によって変わるのは、練習や評価の量だけではない。SVや教育担当者の役割も、AIが示した結果から個人と組織の課題を捉え、育成を設計する方向へと広がっていく。成長を支えるコーチとしてオペレータとの対話を深め、共感力や複雑な状況判断など、AIでは捉えにくい力を育てることが、これまで以上に重要になるだろう。
将来的には、全量評価で見つけた課題をAIロープレのシナリオに反映し、練習後の変化を実際の応対で確かめる循環へ発展させる余地もある。実応対で課題を捉え、改善の優先順位を明確にしながら練習を重ね、その変化を再び評価することで、個人や組織の課題に応じた育成を継続的かつ効果的に進めやすくなる。
こうした仕組みを機能させるには、AIを個別のツールとして導入するのではなく、研修、実践、評価を一連の育成プロセスとして設計する視点が欠かせないだろう。
では、実際の現場では、AIロープレとAIによる全量評価をどのように育成へ組み込んでいるのか。オリックス生命とカウネットの取り組みから検証する。
既存ロープレの知見をAIへ移植
採点と振り返りまで一連で設計
オリックス生命保険のカスタマーサービス部は、契約者や代理店から寄せられる問い合わせに対応している。主な内容は、住所・口座変更などの保全手続きや、給付金・保険金の請求である。同社がAIロープレ『exaBase ロープレ』を導入したのは、2025年度の新入社員研修からだ。背景には、研修を支える教育担当者の負担増があった。
生命保険の応対では、専門用語を理解するだけでなく、顧客に伝わる言葉へ置き換える力が欠かせない。従来の対人ロープレでは、顧客役への事前説明、実施中の支援、終了後のフィードバックに複数の中堅社員を要していた。新入社員が顧客役とオペレータ役を交代して1つのシナリオを実施すると、全体で1時間程度かかることもあった。また、Web手続きやボイスボットの普及で有人対応の難度が高まり、研修内容も増えるなか、教育担当者の工数確保は難しくなっていたという。
山下氏は、「支援者が常に付き添わなくても、全員が一斉に練習できます。研修中の空き時間や自習時間にも、繰り返し利用できるようになりました」と説明する。

導入にあたっては、従来の対人ロープレで用いてきたシナリオと評価基準をAIロープレ上に再現した。顧客の属性や問い合わせ条件、案内の流れを設定し、人が確認していた評価項目も反映。現在は、口座・クレジットカード変更、解約、給付金請求のシナリオを運用している。
ロープレ後には、評価項目ごとの判定とスコアが示される。受講者は自分の音声や文字起こしを確認し、案内が漏れた箇所や説明の組み立て方を把握したうえで、同じ条件に再挑戦する。ロープレから振り返り、再練習までを1人で進められるため、教育担当者のフィードバックを待たずに練習を重ねられる仕組みだ。新入社員へのアンケートでは、約95%が「研修に効果的」と回答している。
一方、現時点で対象としているのは一部の手続きに限られる。同社は5カ年計画で約100シナリオまで拡充する方針で、問い合わせ件数や現場の要望を踏まえ、研修での優先度を見極めながら対象を広げる意向だ。
こうした研修の拡充と並行して、同社ではAIによる全量評価も進めている。従来は数百件を抽出して人がモニタリングしていたが、確認に工数を要するうえ、評価者によって判定に差が生じることもあったためだ。全量評価では、まず会話の前後関係から判定しやすい「要望理解」「説明」「解決」の3領域から着手。AIによる評価に適さない要素は、人が担う運用としている。
オペレーションマネジメント部 コンタクトマネジメントチーム アシスタントマネジャーの熊谷有香氏は、「評価結果が蓄積されれば、苦手な問い合わせやつまずきやすい点を把握できます」と話す。今後は、AIによる全量評価で見えた課題を次の育成へ生かす取り組みを進めていく考えだ。
人の判定にAIを近づける
根拠まで遡れる仕組みに
オフィス用品通販サービス「カウネット」と、間接材購買管理システム「べんりねっと」を展開するカウネット。CXデザイン本部には、応対を担うコンタクトセンターグループと、顧客の声を分析する戦略グループがあり、年間約30万件の問い合わせに対応している。同社がAI分析サービス『Flyle』を導入したのは2025年12月。背景には、応対品質のモニタリングが一部の抽出にとどまり、評価のバラつきや工数の負担が生じていたことがあった。
従来は、QC担当者が応対音声の一部を抽出し、約20項目の基準に沿って、オペレータ1人当たり月5件を評価していた。約20名分を確認するには月100時間ほどを要するが、把握できるのは全応対の一部にすぎない。しかも、抽出された1件に課題があれば、その結果が月次評価を左右することもある。日常の応対実態と評価にずれが生じ、オペレータの納得感を得にくいことが課題だった。CXデザイン本部 CX戦略部 コンタクトセンターグループの倉科裕充氏は、「QC担当3名でカリブレーションを重ねていましたが、評価者による判定のバラつきは避けきれませんでした」と振り返る。

全量評価の構築にあたっては、従来のQCシートで使ってきた評価項目をAIに読み込ませ、AIの判定とQC担当者の評価を事例ごとにすり合わせていった。この過程で、従来の5段階評価を4段階に改めている。AIとQC担当者の判定をすり合わせる過程で、判定のバラつきが特定の段階に集中する傾向が見えてきたためだ。
「5段階評価では、AIが隣り合う点数を判別しにくいケースがありました。そこで中間点をなくし、4段階にすることで判定基準を明確にしました」(倉科氏)。
事例を重ねて判定基準を調整した結果、現時点では、人による評価と約8割一致する判定を返せるようになっているという。
評価結果はCRMデータとひも付けており、案件番号から対象となった応対履歴や音声まで遡って確認できる。間宮氏は、「どの応対の、どの部分が評価されたのかまで確認できます。弱点を指摘する際にも根拠となる履歴を示せるため、オペレータの納得感につながります」と説明する。
フィードバックは、AIの評価結果をQCやSVが確認したうえで本人に伝える仕組みだ。改善点は、複数箇所をまとめて示さず絞り込んで提示。指摘が多いと、優先順位が定まらず、改善行動につながりにくいためだ。一方、良かった点は幅広く伝え、モチベーションの維持にもつなげている。
「応対品質評価で蓄積した履歴データは、今後、ボイスボットの応対設計やVOC分析にも活用したいと考えています」と間宮氏は強調する。すでに商品部門や物流部門と連携し、問い合わせ内容や応対履歴から見えた課題を、商品やサービス、業務プロセスの改善に生かしている。
将来的には応対品質評価を、顧客接点から事業の課題を捉える基盤へと発展させていく意向だ。
会員限定2026年08月20日 00時00分 公開
2026年08月20日 00時00分 更新
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