<Interview>

矢島 カスタマーサポート領域の申請を振り返って、申請の内容や広がりをどう受け止めましたか。
渡辺 カスタマーサポート領域は初開催にも関わらず、思ったより多くの申請をいただきました。大企業だけでなく、中小企業、地方の企業にも多数参加いただいたことはかなり意外でしたし、とてもバラエティに富んだ素晴らしい取り組みばかりだったと思います。
今回、カスタマーサポートをテーマにしたのは、「この業務が存在しない組織はない」と思ったからです。政府としては、すべての会社、すべての業務にAIを導入することが重要だと考えていますが、カスタマーサポートは、その業務内容と生成AIの相性がよく、全産業共通課題である人手不足がより深刻化している職場でもあります。実際、事業規模の大小にかかわらず「工夫」に対する積極姿勢が垣間見えました。カスタマーサポートは、AIと人間、AIと顧客が接する「入り口」と改めて感じました。
矢島 審査会では、「本稼働しているか否か」が大きなポイントになった印象がありました。
渡辺 重要なのは、「ラストワンマイル」ということの表れだと思います。エンジンを作っただけでは快適な車にならないのと同じで、AIも基盤モデルだけでは成立しません。現場のキメ細かいとこで使うためにどうチューニングするか。1週間に1回だけ使うAIでは意味がありません。継続的に使う側が「これは使える」と思えるところまで作り込む必要があります。その点、受賞企業に共通していたのは、AIを「導入した」だけではなく、業務の中で使い切る姿勢だと感じました。(パートナーの)ITベンダー各社も重要な役割を担っていましたが、そこに丸投げするのではなく、現場のドメイン知識を持つ人が深く関与し、技術力を使いこなす。その差が、PoCで止まる企業との違いとして表れていました。必要なのは、AIとドメイン、そして現場の掛け算。ユーザー企業側にも、AIを理解し、コントロールする力が求められていることを如実に反映したのではないでしょうか。
矢島 今回は国産基盤モデルの検証を要件としていました。どんな狙いがあったのですか。正直、その要件を最初に聞いた際は「(活用が前提ならば)無理ではないか」と思いましたが。
渡辺 絶対に国産基盤モデルを使ってくれと申していたわけではありません。ただ、実働にはエコシステムを作る必要があると考えています。従って、(基盤レイヤーは)すべて海外依存でよいとも思っていません。日本語や日本文化に根ざした能力、特定領域に深く刺さるAIにも勝ち筋があるはず。例えば製造業の暗黙知やきめ細かさをAIに移植できるなら、それは日本独自の競争力がAIに宿るということです。
この視点は、フィジカルAIにつながります。安全性や信頼性が求められる領域では、データの質、システム統合、人間とAIのインタフェース設計まで含めた総合力が問われます。日本企業が長年蓄積してきた現場のノウハウを、どうAIに取り込むか。それが次世代の競争力の源泉となるでしょう。
矢島 現場の暗黙知をAIで継承するには、現場人材のAI人材化が必要です。一方で、日本と、例えば米国ではAIに対する投資額が官民ともに差がありすぎます。結果的に起きている人材流出は大きな課題だと思うのですが。
渡辺 優秀な人材、意欲のある人材が海外で経験を積むのは、とてもいいことです。その視点では、どんどん行っていいのではないでしょうか。そのAIを使う市場、産業が日本に存在すれば、海外で得た知見をベースにしたAIを日本で実装するという流れになる。一方的な流出にはならないと思っています。こうした循環、つまりエコシステムの構築は、政府として強く後押ししたいと思います。
矢島 確かに、受賞企業のほとんどは現場レベルでAI活用を推進する方が存在しました。今回の賞金も、そういった方々に有効に使っていただきたいですね。
渡辺 GENIAC-PRIZEには、優れた取り組みに賞金を出すだけでなく、現場で奮闘する人に光を当てる意味合いも強いプログラムです。次回(2026年度)のテーマは「エッセンシャルワーカー」です。コールセンターやカスタマーサポートも、「社会活動、消費活動に欠かせない存在である」という点ではエッセンシャルワーカーです。ぜひ応募を検討してほしいですね。
AIは、システムを作るだけでは社会を変えません。現場で使い切る人がいて初めて、技術は仕事を変え、産業を変えていきます。今後も開発・構築のレイヤーだけではなく「使う」ことを強力に支援したいと思います。
受賞企業3社の事例記事:
2026年07月21日 12時01分 公開
2026年07月21日 12時01分 更新