スーパーバイザーの教科書・Essential 第9回

2025年4月号 <スーパーバイザーの教科書・Essential>

寺下 薫

実践編

第9回

オペレータを護りセンターを守る
「カスタマーハラスメント」対策

最近、話題のカスタマーハラスメント(通称、カスハラ)。悪質なお客様の対応については、苦慮しているコンタクトセンターも多いのではないでしょうか。以前は、そのようなお客様であっても、こちらから切電することは許されず、我慢して対応していましたが、現在は、そうではありません。今回は、カスタマーハラスメントの対応ルールをSVがどう構築していけばよいかを解説します。

PROFILE
クリエイトキャリア 代表取締役社長
寺下 薫
外資系企業を経て、ヤフーやソフトバンクで長年、人材育成に携わる。問題解決養成塾「SV研究会」を立ち上げ、若手のSVを育成。現在は独立して、コンサルティングや研修、講演、執筆などを中心に活動中。2024年6月に「スーパーバイザーの教科書」を出版。

 カスタマーハラスメントに関して、各企業もようやく重い腰を上げ始めました。厚生労働省がカスハラ対策のマニュアルを作成したり、東京都がカスハラ防止に関して条例を制定しようという動きもあったりしたからです。何より、この採用難の中、オペレータがカスハラを受けて退職してくことを少しでも阻止したい、そんな思いがあったからです。私も縁あって、東京ガスカスタマーサポートさんのカスハラ対策方針の構築支援をさせていただくことになりました。

任天堂の宣言がセンターを変えた!

 元々は、任天堂さんが、カスハラに関してルールを公表したのがきっかけです。「社会通念上相当な範囲を超える行為に該当する行為としては、以下の7つであり、これらの行為があったと当社が判断した場合、交換または修理をお断りさせて頂く場合がございます。更に、当社が悪質と判断した場合には、警察・弁護士等に連絡のうえ、適切な対処をさせて頂きます」と宣言しました。その7つの行為は、下記の通りです。

・威迫、脅迫、威嚇行為
・侮辱、人格を否定する発言
・プライバシー侵害行為
・保証の範囲を超えた無償修理の要求など、社会通念上過剰なサービス提供の要求
・合理的理由のない当社への謝罪要求や当社関係者への処罰の要求
・同じ要望やクレームの過剰な繰り返し等による長時間の拘束行為
・SNSやインターネット上での誹謗中傷

 このルールは、コンタクトセンターに画期的な変化をもたらしました。なぜなら、これまでどんなに悪質なお客様であっても、我慢して対応してきたからです。

 私がいたセンターにもこんな悪質なお客様がいました。そのお客様はほぼ毎日のようにセンターにクレームの電話をしてきます。しかも、10分や20分で電話が終わるわけではなく、2時間近くにわたって対応者を罵倒し続けるのです。

 このお客様の対応については、センター内で何度も会議が開かれました。なぜなら、あまりの怖さに電話対応したオペレータは泣き出してしまいますし、エスカレーションを受けたSVも心労のあまり、休職に追い込まれてしまったからです。最後は、センター長対応になりましたが、センター長も毎日、長時間の電話をかけてこられては仕事どころではありません。

 そこまでのレベルあれば、威力業務妨害で警察沙汰にすればいいのではないかという発想も出てきますが、ことをあまり荒立てたくない企業としては、そうはしないのです。とくに相手が上客だと尚更です。ちなみに、そのお客様の家に何度か菓子折りを持って、もう電話をやめてもらうようお願いしに行ったこともあります。すると、1〜2日、電話はかかってこないのですが、3日もすれば、また電話してくるのです。そのお客様は、10年以上にわたってセンターに電話をかけてくる人でした。

 そんなお客様であっても無下にはできず、ずっと我慢して対応してきたのですが、ようやく、悪質なお客様はお客様として対応しないというルールができたのです。それがカスタマーハラスメントに関するルールでした。カスハラに関して、まだルールができていないセンターは、早急にルールを制定する必要があります。

対応ルール策定8つのステップ

 まず、(1)センターで「カスハラとはこのような行為である」という共通事項を具体的な事例から定めます。とくにカスハラとクレームが判別しづらいので、分かりやすい言葉で具体的に定義します。(2)の「現状の確認」では、どのような対応に困っているのか、注意すべき顧客の実際の言動や行為などを洗い出します。そのうえで(3)の「行為類型化」、いわゆるグループ分けです。整理していくにあたり、同業他社の分類や厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参考にするとよいでしょう。(4)では、「指針を作成」します。例えば、オペレータの誤案内があれば、まず丁寧に謝罪したうえで、それでもカスハラに該当する言動があれば、カスハラとして対応するなどの指針を明確にします。

図 カスハラの「対応ルール策定」8つのステップ
図 カスハラの「対応ルール策定」8つのステップ

 (5)の「対応ルール策定」では、何回までお客様に警告するのか、どのような発言であれば一発アウトで切電するかなどの対応ルールを決めていきます。そして、それらが決まれば、いよいよ(6)の「対応マニュアル作成」です。トークスクリプトも同時に作成していきます。そして、マニュアルが出来上がれば、センター全員に説明会を行います。eラーニングでも可能ですが、できれば対面で説明会を実施して、疑問点など解消しておくとよいです。それが終われば、ようやく(7)センター導入です。いきなりの本格導入はオススメしません。大きな問題などが発生した場合に収拾できなくなるからです。できれば「トライアルで導入」してみて、効果測定をするとよいでしょう。実際に運用をしてみると、思わぬ問題点が発生する場合があります。例えば、ルールでは、SVがカスハラかどうかを判断することになっていたはずなのに、オペレータが独自で判断してしまっていたなど、問題が出てくるのです。それらの問題を解消して、ようやく、(8)「本格導入」です。他部署との連携も必要なため、事前に他部署のキーマンに根回しをしておくといいです。一度、センターで、カスハラの対応ルール導入について、話し合ってみてくださいね。

2025年03月20日 00時00分 公開

2025年03月20日 00時00分 更新

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