コラム
第18回
4月に入社してきた新社会人も研修が終わり、そろそろ各職場での仕事に慣れてきたころかと思います。数号にわたり、二重敬語、尊敬語と謙譲語の混同、言葉癖、ルールなど、社会人としての言葉づかいについてお話ししてきましたが、同じことをお客様に伝えるのであっても、「言葉を選ぶ」ことは大切です。
国際線の長時間のフライトでは、多くのお客様がお休みになり、なかには周囲の方が耐えがたいほどの「騒音」を発する人もいらっしゃいます。
そう、「いびき」です。
「ちょっと、これじゃ眠れないよ。何とかしてよ」
隣のお客さまからこんな苦情が寄せられることは少なくありません。そのようなとき、どのように対応すればよいか、研修では教えてくれません。しかし長年の経験があれば、毛布をおかけしてお身体にそっと触れると、スーッといびきが止まることを学びます。
そのことを知っていればともかく、何も知らない新人が先輩に確かめることもなく、お客さまからのクレームに対応しようと、あわてて行動したらどうなるでしょうか?
「お客さま、失礼いたします。恐れ入りますが、いびきがほかのお客さまのご迷惑になっております」
そっと配慮する言葉を使ったとしても、そんな言い方をされたら、気持ちよくお休みになっているお客様は気分を害すに違いありません。
それは、いびきに限ったことではありません。ある夏の暑い日のこと、著名な企業の社長がファーストクラスにご搭乗されたときのことです。
とても暑いところからお帰りの便でしたので、社長は着席するなり、おもむろに靴を脱ぎ、靴下を脱いで足を投げ出しました。するとそのとたん、ファーストクラスの客室中に、プーンとすっぱい臭いが漂ってしまいました。
「他のお客様のご迷惑になる。なんとかしなくては」と思った男性CAが、その社長のもとに向かい、「失礼いたします。お客さま、御御足(おみあし)が臭うございます」などと言ってしまったから大変です。その社長は顔を真っ赤にして、「だったらどうしろと言うんだ!」と激昂されました。
いくら最上級の敬語を使ったとしても、失礼千万です。いかに相手を傷つけずに、恥をかかせることのないように伝えるか、しっかりと言葉を選ぶ必要があります。たとえば、「お客様、今日はたいへん暑い日でしたから、汗をおかきになったのではないでしょうか。よろしければ、こちらで御御足をお拭きになりませんか?」。そう言って冷たいおしぼりを差し出せば、それは注意ではなく、おもてなしの行為、心づかいになります。
皆さんのお仕事においても、何か言いづらいことをお客様や取引先に伝えることがあると思います。そのようなときには、その言葉をかけたら相手はどう思うか、しっかり考えて、口にしていただきたいと思います。
2024年10月20日 00時00分 公開
2024年10月20日 00時00分 更新