2022年6月号 <市界良好>

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

生産性向上を真剣に考えよう

秋山紀郎

 原材料価格や物流コストの高騰を受け、食品、日用品、家電、電気料金、鉄道など、幅広い分野で値上げの動きが広がっている。これまでは、賢い買い物術で生活費を節約する方法が美徳でもあったが、もうその範囲を超えているだろう。

 この30年間、主要先進国の賃金は上昇しているにも関わらず、日本の平均賃金は、ほぼ変わっていない。実際、日本のビックマック指数(各国のビッグマックの価格で総合的な購買力を比較するもの)は、米国はもちろんのこと、タイや韓国よりも低くなっているという。そうすると、この物価高への対応策はシンプルだ。物価が上がっても、それに見合う分の賃金が上がれば、実質的な家計負担は増えない。

 では、どうすれば賃金が上がるのか。こちらも答えは簡単だ。生産性を上げるのである。生産性向上は、社員一人あたりのアウトプットの質と量を増加させることである。業務効率化もその一つの手段であるが、ムダな仕事をなくしたり、やり方を変えることも重要だ。コンタクトセンター業界で人手不足への懸念が高まっているが、働き方改革で生産性を向上させ、労働人口の減少に対応するのではなく、生産性向上の成果を賃金に反映させる時にあると思う。

 コンタクトセンターで生産性を向上させるには、どうしたらよいか。先に言っておくと、呼量を削減するためにチャットボットへ誘導するという考えは良くない。仮に呼量が減っても、アウトプットとして顧客サービスの品質が上がったとはいえず、オペレータの仕事の生産量向上にも直結しないからだ。無理なく、オペレータの通話時間が短くなる取り組みが、生産性向上になる。この「無理なく」というのが重要だ。そのための方法を今回2つ紹介したい。

 まずは、ナレッジ強化だ。オペレータの知識を的確に補う内容にFAQシステムのコンテンツを見直すことで、保留時間を減らしたスムーズな対話につなげる。ナレッジ・メンテナンスに手が回っていないと自覚しているセンターは意外に多く、そのような場合、スーパーバイザーが過度に残業している傾向がある。センターのマネージャーや企画部門からのサポートが必要な状況であろう。もう一つは、スマート・ルーティングだ。コール内容の緊急度や必要スキルに基づいて、自動的にオペレータに割り当てる方法である。例えば、顧客のお困り具合に応じてオペレータへの接続性を上げたり、求められるスキルを持つオペレータに優先的につなげたりすれば、自ずと対話がスムーズになり、通話時間が短くなるのである。このルーティング、つまり仕事の割り振りを見直すことで、生産性はずいぶんと変わるのだが、ここに手を付けていない、気が付いていないセンターは非常に多い。

 ナレッジ強化もスマート・ルーティングも、ITによるところが大きい。オンプレミスの時代は、IT予算の大きい大規模センターだけが生産性向上を進めやすかった。だが、今はクラウドシフトの時代。小さいセンターであっても、月額費用に応じた機能提供が受けられる。生産性向上は、センター規模に関わらず可能であり、その恩恵は働く人の賃金にダイレクトに反映すべきだ。

2024年01月31日 18時11分 公開

2022年05月20日 00時00分 更新

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