2020年12月号 <インタビュー>

田中 達雄 氏

CSやNPSだけではつかめない!
正しいロイヤルティ/CXを測る「3つの調査」

野村総合研究所
金融DXビジネスデザイン部 上級研究員
田中 達雄 氏

カスタマーエクスペリエンス(CX)向上は、多くのセンター運営企業にとって命題とされている。しかし、その達成度合いを指標化できている企業は少ない。「CX経営」を提唱するNRIの田中達雄氏に、顧客ロイヤルティ指標の考え方と測定法を尋ねるとともに、コロナ禍におけるCXの変化を具体的に聞いた。

Profile

田中 達雄 氏(Tatsuo Tanaka)

野村総合研究所 金融DXビジネスデザイン部 上級研究員

2001年に野村総合研究所入社。以来、ITアナリストとして従事。専門はカスタマーエクスペリエンス/顧客チャネル戦略、デザイン思考、CLO/ロボ・アドバイザー/PFMなどのFinTech、APIエコノミー、Webサービス、セマンティックWebなどの統合技術、経営とIT、開発技術/開発方法論など。

──カスタマーエクスペリエンス(以下CX)やネット・プロモーター・スコア(NPS:フレデリック・ライクヘルド氏およびベイン・アンド・カンパニーが提唱したブランド調査)についての研究は、いつ頃からどのようなきっかけではじめたのですか。

田中 本格的に着目しだしたのは、米国の金融機関であるチャールズ・シュワブの取り組みを調べたのがきっかけです。同社は、2004年頃から顧客に不便や不利益を強いた結果としてもたらされている「悪しき収益」が全体の25%を占めると分析し、その撤廃に取り組みました。結果、10年後には預かり資産額がメリルリンチを超える318兆円を記録、NPSと類似したCPS(Client Promoter Score:チャールズ・シュワブ独自の顧客ロイヤルティ指標)を68ポイントも高めています。2004年当時はCXもNPSも、まださほど注目されてはいませんでしたが、CS(顧客満足)よりも経営指標として捉えることができるコンセプトのKPIと感じ、強く惹かれました。

コロナで安全欲求が未充足
CX向上は厳しい局面

──新型コロナウイルス感染症の拡大で直接的な顧客接点が希薄化しています。今後、企業と顧客の接点はどのように変化していくと思われますか。

田中 サービス業をはじめ「顧客体験」を提供する企業は厳しい局面を迎えています。ライブや演劇など「その場に行く体験」や密になるサービスは提供できなくなっています。

 人間の欲求を分類した「マズローの心理学」でいうと、下位レイヤーに分類されていた「安全の欲求」が揺らいだ結果、「まずは安全を満たしたい」という欲求を満たすことが優先されています。一方で、CX向上に必要とされていた視覚や聴覚、味覚、触覚などの五感を刺激する体験、つまり「感情的な価値」は低下しました。その結果、ECや通販、金融機関でのデジタルチャネル利用、コミュニケーションのデジタルシフトなどが一気に進んでいます。多くの企業が、従来の形態を貫くだけでは厳しくなっています。

──CXの考え方があまり役に立たなくなっていくと思われますか?

田中 逆です。CXとは「顧客体験」です。こうした経済状況ほど、その考え方は力を発揮すると考えています。状況は変わっても、「安いから」という合理的な価値の訴求だけではなく、「好き」という感情にアプローチをすることでロイヤルティを高め、収益を上げる。そうした事例は、コロナ禍においても三越伊勢丹や阪急交通社といったデジタルとリアルの融合、あるいは星野リゾートのような自然を楽しむサービスメニューなどがあります。

(聞き手・嶋崎有希子)
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