2019年9月号 <特集>

特集扉

“顧客経験”から抽出する
チャット対応「20のテクニック」

Part.1 <「20」のテクニック>

チャット前、対話中、終話後──
カスタマージャーニーに見る「理想の対応」

今年の「コールセンター実態調査」では、回答210社のうち、約30%が有人チャット、約20%がチャットボットで顧客対応を実践している。当然、チャットによる問い合わせ体験を重ねた消費者も増えているはずだ。安易な対応では、CS低下を招きかねない。Part.1では『チャット対応のカスタマージャーニーマップ』を描き、CXを高めるための窓口運用の20のポイントをまとめる。

 (1)オペレータにつながる、(2)オペレータが用件を聞き出す、(3)オペレータが解決策を案内する、(4)オペレータが顧客に共感する──チャット対応の顧客体験のうち、とくにロイヤルティに影響する4つのシーンについて応対のポイントを20挙げた(図1)。

 電話窓口同様、チャット窓口にも“つながるまでの体験”が存在する。電話窓口でいうところの、IVRや応答時間に類似した顧客体験もある。スムーズに有人チャットにつなげる、もしくはつながる前に解決するよう、コールリーズンごとにシナリオを設計することが重要だ。

 チャットは一文が短く、顧客の要求や困りごとの把握が困難になるケースが多い。電話と同様、リアルタイムにやり取りするチャットは“不明点を聞き返す”という工程を重視することが解決にも満足にもつながる。

 解決策を伝える場合、説明が長文になるときには、(A)最初に結論を伝える、(B)詳細を理解するうえで知っておくべき前提(仕組みやルール)について説明する、(C)結論に至った概要を説明する、(D)詳細や補足を説明する──といった手順でスムーズな理解を促せる。文章は端的で回りくどくないこと、的確な表現で誤解を防ぐことなども重要だ。最終的に提示した解決策は、メールで送信しておくと再問い合わせを防ぎCS向上にもつながる。

 コミュニケーションの全般にわたって重要になるのが、共感だ。テキストのみのコミュニケーションは冷たく捉えられがちだ。困っていることに寄り添う姿勢を見せ、温かみを示せなければ有人で対応する意味はない。

 また、チャットは相手の環境がさまざまで、移動時間や休憩時間を使ってコンタクトをとっている場合もある。状況によって、回答を急いでいる場合もあれば、顧客からの返信に時間がかかる場合もある。短い文章のやりとりでは環境を正確に把握することは難しいが、顧客の言い回しや返信スピードから、顧客が望む対応をイメージしそれを目指す必要がある。

図1 チャット対応のCXを高める20のチェックポイント

図1 チャット対応のCXを高める20のチェックポイント

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Part.2 <ケーススタディ>

電話やメールではなくボットでもない!
顧客の「期待値」を知り、超える3社の挑戦

チャットによるコミュニケーションを選択する顧客には、理由がある。電話をかける面倒さがなく、メールのように返事を待つ必要がない。かといって、ボットのような無機質感も敬遠する──そのような顧客に対し、迅速な問題解決とホスピタリティを発揮するには、さまざまな工夫が必要だ。人材育成やオペレーション設計で工夫を凝らす3社の取り組みを検証する。

CASE STUDY 1:freee

“チャットでテクサポ”の課題
『親身さ』と『シンプルさ』のバランス重視

 サポートセンターに問い合わせなくても使えるソフトウエア──クラウド会計ソフトを開発、提供するfreeeが目指す商品の姿だ。同社は、サポートセンターの対応ログをもとに商品を改善する他、FAQサイトやチャットサポートの充実を図り、同時にボットによる自己解決も促している。よって、オペレータが対応する問い合わせは、FAQでは解決できない個別の状況によるものや、専門的かつ高度な内容が多い。

 結果、顧客の要件を確定するまでに比較的時間がかかる。サポート&サービス本部 ユーザーサポートチーム マネージャーの木下睦子氏は「お客様のゴール(用件)がどこにあるのか、お客様は今どこにいるのか、そこから逆算してゴールにたどり着くためにはどうすれば良いのかを案内します」と語る。

 個別の状況を汲んだ対応が必要なケースが多いことから、テンプレートは基本的に利用しない。丁寧すぎない簡潔な文章を心掛けている。一方で、テキストコミュニケーションは冷たく捉えられがちなことから、「私たちが責任を持って最後まで対応するので、安心してご相談下さい」など、ユーザーの不安に寄り添った一文をオープニングに加えて、人による“温かみ”を添えている。木下氏は、「この一言の有無で顧客満足度も変わります」と強調する。

 チャット対応は、終話の判断を見誤ることがクレームになるケースがある。同社では基本的にオペレータからの切断は行わない。解決していることが明らかで顧客からの返信がない場合は、5分待って声をかけ、さらに5分待っても返信が来なければ終話と判断する。この場合は、問い合わせに対する回答をメールで送信するなど、フォローする気遣いも欠かさない。

 現在の課題は、待ち時間の対応だ。待ち時間が発生している場合は、有人チャットにつながるまえにおおよその時間を記載している。「いつでも気軽に聞ける」というチャネルであることから、待たずにすぐ切断する顧客が多いという。

 接続品質を維持するためには、自己解決率を引き上げ、問い合わせを防ぐことが第一だ。同社では、チャットへの問い合わせに至ったユーザーが、直前に見ていたページや動線を確認し、どこでつまずいたのかを分析し、FAQサイトやチャットボットの改善につなげている。

CASE STUDY 2:SMBC日興証券

顧客の事前期待を上回る
「親切・丁寧・速度・解決度合い」の追求

 証券会社の呼量は、相場の変動次第で乱高下が激しく、予測が非常に難しい。SMBC日興証券は、株式などの注文が全体呼量の40%を占める。相場の変動によって、全体で通常呼量の4倍に急増することもあった。

 そこで、同社では「呼量をコントロールする」取り組みとしてチャットボットを採用。自動化できる対応比率を高めることで、応答率の維持を図った。2016年から有人チャットを開始し、ボットの対応に反映するためのノウハウを蓄積しつつ、自動対応件数を増やしている。

 有人チャットを開設する際、まず実践したのが回答範囲の設計と模範回答の作成だ。利用するマニュアルやテンプレート、FAQは電話対応で蓄積されたデータをベースに作成した。想定される質問を正確に網羅したうえで回答を整備することにより、チャットでの回答はより効率的かつ的確になる。また、その対応ログはチャットボットのシナリオ設計やFAQの改善などに活用している。

 チャットには回答精度以外にも、次のような難しさがある。(1)問い合わせしているシチュエーションの把握、(2)電話対応並みのスピード感、(3)チャネル変更のフォロー、(4)終話の判断──。

 チャットを利用する顧客は、仕事の合間なので早い回答を欲することや、海外からの問い合わせでリアルタイムの対応が難しいこともある。会話のリズムや距離感、言い回しやリアクションの速度をもとに、電話対応以上に想像力を働かせ、期待されている対応に近づける必要がある。

 また、チャットはスピード感が重視されるチャネルだ。失礼のない言葉遣いを意識しながらも、より簡潔さと迅速さに重きを置いた案内を実施している。また、要件を把握するために行うやりとりを最小限にするため、案内を送る際は複数の選択肢を提示し、顧客がタイピングする手間を軽減することを心掛けている。

 また、個人を特定する必要のある質問については、チャットで対応することはできないため、顧客に電話への変更を“お願い”する必要がある。そういったケースでは、「ただいま電話がつながりやすい状況になっております」という一文を差し込み、迅速に解決する手段として電話を訴求している。

 終話の際の気遣いも欠かせない。顧客と会話が続く限りは、必ず顧客が回答に納得したかを確認するが、チャット対応は顧客の“既読スルー”が珍しくない。そういったケースは、必ず10分待って終話の文章を送り、そこからさらに10分返信がなければ終了する。終話のクロージングの文章は、また気軽に問い合わせできるよう、気遣いの言葉を忘れない。

CASE STUDY 3:ビッグローブ

電話へのエスカレーションを予防する
「コンタクトリーズン」分析に基づくチャット対応

 顧客は、そもそも電話で問い合わせたくないからチャットを選択しているケースが多い。電話へのエスカレーションは、問題を解決できたとしても不満を招く可能性が高い。ビッグローブは、チャット対応において、セキュリティの観点から電話にエスカレーションしていた“顧客特定(本人確認)が必要な問い合わせ”をチャットで完結させるための改善に着手。2019年5月末に顧客特定のフローをチャットオペレータの対応画面に組み込み、提供を開始した。

図2 顧客特定の実施による有人チャット解決率の変化(予測)とフロー

図2 顧客特定の実施による有人チャット解決率の変化(予測)とフロー

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