2019年8月号 <サービスのプロに聞く>

住吉 武宏 氏

<コーナー解説>
店舗など、コールセンター以外を含めた接客やサービスのプロにその心構えやノウハウを聞きます。

顧客との関係は「51:49」
ほぼ対等、だから“好意を伝える”ことを徹底

阪神タクシー
乗務員
住吉 武宏 氏

Profile

大学卒業後、25年間アパレルショップの販売員を務める。しかし、48歳のとき病気のため退職。2009年に阪神タクシーに入社。持ち前の明るさとトーク力を活かせる乗務員になった。2011年、兵庫県タクシー協会主催の第5回「タクシー乗務員接客コンテスト」において優勝した。

 「タクシーの乗務員にとって、極論を言えばサービスの“正解”はお客様を目的地まで安全・安心・快適にお送りすることのみ」と語るのは、阪神タクシーの乗務員、住吉武宏さんだ。

 住吉さんは、「乗務員接客コンテスト」で優勝した経験を持つほど、接客に定評のあるドライバーだ。その住吉さんをしても、「接客品質が営業成績に直結しづらい業界の現状」に葛藤を感じると言う。それでも、住吉さんは「乗車時間をいかに心地よく過ごしていただくかを追求し続ければ、そのお客様がまたタクシーを利用する際に、自身の元に戻って来ると信じています」と話す。

 多い日は1日に30〜40人ほど接客をする。そのたびに気持ちをリセットすることも重要だ。1日に何十人もの顔の見えない顧客とのコミュニケーションは、コールセンターにも共通する要素といえそうだ。

 住吉さんは、お客様に快適に過ごしてもらうコツについて、「距離感を掴み、必要な分だけのサービスを提供すること」と明かす。

 「PCを開いている方もいれば、おやすみになられる方もいます。働く方にとっての移動時間は、業務時間であり、ときには休憩時間でもある。後者の場合、自分の部屋でくつろいでいる時と同じように過ごしてほしい」と語る。

 もちろん、会話が必要な顧客には積極的に話題を提供する。例えば、野球が好きな顧客に対しては「あそこのローソンは阪神タイガース選手の御用達ですよ」などの案内も行う。

 必要なサービスを過不足なく提供することが、顧客満足度向上のカギといえるだろう。

 ときには乗車中にクレームが発生することもある。その際は、顧客が何に対して怒っているのかを傾聴し、「まずは怒らせたことに関して謝り、怒りを鎮めていただくこと」を徹底している。「こちらの不手際であれば真摯に謝罪をしますが、そうではない理不尽な苦情や、謝っても聞き入れてもらえない場合は、自分だけで解決するのではなく、一刻も早く会社に連絡する判断が大事」と説明する。

 「サービスの基本的な考え方は“51:49”だと思います。お客様との関係はほぼ対等で、こちらが少しだけ下、という考えです。だからこそ、理不尽を100%受け入れる必要はないと思います」(住吉さん)。

 しかし、「そもそも第一印象が良ければクレームを減らすことができる」とも強調する。「乗った最初の瞬間から『利用していただいてありがとう』という気持ちが伝われば、その後の関係は多少のトラブルがあっても心地良いまま続いていくものです」と語る住吉さん。「相手に好意を伝える」ことを重視すべきなのは、ビジネスに限らずすべての人間関係を良好に保つコツといえそうだ。