2019年6月号 <インタビュー>

池内 裕美 氏

カスハラからオペレータを守る!
「グッバイマネジメント」を会得しよう

関西大学
社会学部 教授
池内 裕美 氏

法律やコンプライアンス整備、ITの進化により、消費者の立場がますます強くなり、カスタマーハラスメントにまで発展するケースが増えている。関西大学 社会学部の池内裕美教授は、心理学の観点からクレームへの対処法を語り、悪質クレーマーには“縁切り”を宣言する“グッバイマネジメント”を推奨している。

Profile

池内 裕美 氏(Hiromi Ikeuchi)

関西大学 社会学部 教授

関西学院大学大学院商学研究科(博士課程前期課程)、同大学院社会学研究科(博士課程前期・後期課程)修了。博士(社会学)。2003年より現職。専門は、社会心理学、産業心理学。現在の主な研究テーマは、過剰な苦情行動やモノのため込み、買物依存といった「逸脱的消費者行動」に関する心理的なメカニズムの解明。

──カスタマーハラスメント事例では、消費者と企業でクレームの捉え方や見方がまったく違って見えます。まず、専門家の観点での「行き過ぎたクレーム」と正当なクレームの違いとは。

池内 法に抵触するような恐喝や暴言などはスタッフが対応できる範疇を超えており、刑事事件にすべき案件です。問題は、不当とは思いつつも明確に法に抵触すると言い難い“グレーゾーン”のクレームです。「普通ならば受け入れるであろう企業側の対処を一切聞き入れない」場合は、“行き過ぎたクレーム”と定義していいと思います。例えば、「返品はできないが交換は可能」と提案をしているにも関わらず、しつこく返品の要求を続けたり、感情をただ発散するために業務時間を奪ったりするような事例が該当します。

──行き過ぎたクレームは昔から存在していたと思いますが、インターネットの普及で消費者の発信力が強まったことでより発生しやすくなっている印象があります。

池内 集団での不買運動の呼びかけなど、SNSでの“炎上”は現代ならではです。今も昔も、苦情対応は初動が一番重要ですが、ネット上のクレーム拡散のスピードは非常に速いため、多くの企業が失敗しています。たとえ事実関係が正しくなくても、それを見た第三者が共感して拡散すれば、事実のように受け止められ広まります。こうして、「言ったもの勝ち」という風潮が醸成され、カスタマーハラスメントが横行する土台になっていくのです。

顧客の期待は天井知らず
“おもてなし競争”で疲弊する企業

──クレームの発生メカニズムに変化があるのでしょうか。

池内 サービスや購入した商品が、消費者の期待を下回った時にクレームになります。とくにサービスにおいては、最近は期待が高くなりすぎる傾向があると考えています。これは日本の“おもてなし”の風潮からくるものなのですが、各社で過剰な“おもてなし競争”が発生した結果、互いのクビを締め合う結果になってしまっています。例えば宅配サービスは細かく時間指定ができ、消費者には便利なサービスなのですが、それに慣れると「当然」と受け止められるようになります。すると配達時間が少し過ぎるだけでクレームにつながります。そもそもサービスは代価が必要であるにも関わらず、多くの消費者がプラスアルファのサービスを当然のこととして期待するようになり、企業は競合他社に負けまい、その期待に応えようと、さらなるサービスを付与します。結果、天井知らずの期待の高まりに企業が応え切れず、新たなクレームにつながるというわけです。

(聞き手・生嶋 彩奈)
続きは本誌をご覧ください