2017年6月号 <特集>

特集扉

AIとコールセンター
「期待」「現実」「近未来」

Part.1 <近未来への提言>

自動化だけがゴールではない!
勝つための“AIセンター戦略”

「先進事例」というブランディングや他社との横並びを目的とした導入は迷走のもと──アナリストや学識者は、現在のAIを取り巻く環境をこう指摘する。社会を変革する可能性すらある技術だけに、提供するサービスの方向性を定めたデザイン設計が必要だ。「AIが実現するコールセンターの近未来像」を検証する。

 1900年のニューヨーク5番街を走っていた馬車は、1915年にすべて自動車に変わった。20世紀前半、わずか15年で交通インフラの“常識”が変わった。「単純に馬車が車、御者がドライバーに変わったという話ではなく、都市のデザイン設計自体、もっと言えば社会全体のデザインが再構築されることになりました。人間の適応力の高さを表しています。AIも将来的にはこのような変革をもたらすものと捉えています」(楽天技術研究所 代表 森 正弥氏)

 こうした明るい未来を拓く可能性を持つAIだが、ガートナー ジャパンのバイスプレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明氏は「現在、注目を浴びるAIソリューションやサービスには本物のAIと呼べるものはほとんど存在しない」と現状に警鈴を鳴らす。

 AIの可能性はさまざまだが、“他社の追随になるか”“本当の先進事例になるか”の分かれ目は導入の前段階で決まる。

 導入の前段階に必要な「AIが実現するコールセンターの未来像」を描くポイントやセンターAIの新たな可能性を探る。

 

Part.2 <対談>

“人間と同じ”を目指すと可能性が狭まる
マシーン・インテリジェンスの未来像

グローバルで100名以上の研究者を抱え、AI領域もすでに実用レベルに達している楽天技術研究所。同所の森代表に、アビームコンサルティングの秋山執行役員がCRM、カスタマーサービスへの活用などについて聞いた。AIの最新動向から、普及の障壁に関する議論、ビジネスの現場における具体的な活用などを通じ、今後の可能性を示唆した。

森 正弥 氏

森 正弥 氏

楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表

1998年アクセンチュアに入社し、製造業・官公庁を中心にIT戦略策定、基幹システム構築、Webシステム構築、IT標準策定、先端技術研究所展開プロジェクトに従事。2006年楽天に入社し、楽天技術研究所の立上げおよびマネジメントを行う。情報処理学会アドバイザリーボード。APEC(アジア太平洋経済協力)Project DAREアドバイザー。

※楽天技術研究所とは
楽天の研究開発を担う。事業とは独立した組織で、所属する研究者の問題意識や関心に基づいた研究を推進。東京、パリ、シンガポール、ニューヨーク、ボストンの5拠点、100名以上が所属。研究領域は、かつては自然言語処理やデータマイニングなどが多かったが、最近はAIやドローン活用などに注力している。

秋山 紀郎 氏

秋山 紀郎 氏

アビームコンサルティング 執行役員プリンシパル

事業会社を経て、2000年にアビームコンサルティング入社。CRMの専門家として、20年以上の実績を持つ。消費財/食品/小売/サービス業などBtoCビジネスを中心にコンサルティングを行う。

秋山 研究者の立場で、昨今のAIのトレンドをどのように捉えていますか。

 ディープラーニングが実用化された影響は大きく、当社でもAI研究の約7割を占めています。

 ディープラーニングは、データが大規模でカオティック(無秩序)な領域に適しています。例えば、大量の画像データから特性を導き出すケースでは、人手で整理するプロセスを経るよりも、直接ディープラーニング技術を適用する方が精度の高い結果となることが明らかになりました。これまで、データ分析の前段階では、データサイエンティストがデータを整形するのが常識だったので、「人手を介すると精度が下がる」というケースの存在は、技術者にとっては衝撃的だったのです。

 もちろん、すべての領域でディープラーニングが万能なわけではなく、ベースとなるデータが少ないケースや、制限の多いサービスなどは人手で設計したモデルを分析する方が精度が高い傾向はあります。

(続きは本誌をご覧ください)

 

Part.3 <ITに見る現状>

オペレータ支援、チャット/LINEボット
AI活用は「FAQの見せ方」に集約

オペレータの業務支援にせよ、チャットボットにせよ、コールセンターなどの顧客接点におけるAI活用とは「FAQの見せ方」の最適化と言い換えることができる。主要ベンダー各社は、そのFAQの構築・強化に音声認識や自然言語解析で得たデータをもとにした学習機能を活用。オペレータの仕事を「全面的に代行する」のではなく、「一部を代行、支援する」効果を訴求している。

 コールセンターにおけるAI活用の“現状”は、(1)顧客とのやり取りをリアルタイムに認識し、それに即した各種ナレッジを表示するオペレータの業務支援、(2)Webサイト上で顧客の質問に回答する「よくある質問」の最適化(バーチャルオペレータ含む)、(3)チャットボット──の3通りに集約できる。言い換えれば「FAQの見せ方/活用法」に集約できるということだ。

 Part.3では、AIソリューションの分類をもとに、その機能と特徴を整理する。AIがAIたるゆえんは、「かつては正確な質問をしないと回答を引き出すことができなかったが、質問の意味をくみ取って、理解したうえで返答する」という点だ。ただし、そのためには人間による教育やデータの整備が欠かせない。主要ベンダー各社は、そのプロセスに特徴を持って訴求している。

 最も大きな話題を集めているチャットボットは、少なくとも現段階で「すべての問い合わせに対応すること」は不可能。事例各社も用件(コンタクトリーズン)を把握・分析したうえで対応できる用件を絞り込む、有人対応へのエスカレーション体制を整備するなど、「業務設計」を構築したうえで実践している。準備段階が重要なことは、今までのセンター運営と変わらない。

 AI活用の要諦は、FAQの充実、コンタクトリーズンの分析、チャネルをはじめとした業務設計──というセンター構築・運営の基本を踏まえることが重要。多数登場しているITソリューションの有効活用にもこの視点は欠かせない。

図 現在のAIとは何か?

図 現在のAIとは何か?

(出典:NTTメディアインテリジェンス研究所)
※画像をクリックして拡大できます

AIボット事例:KDDIフィナンシャルサービス

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3カ月間でチャットボットを構築

2024年01月31日 18時11分 公開

2017年05月20日 00時00分 更新

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