ファンベースカンパニー 佐藤 尚之 氏

2026年8月号 <インタビュー>

佐藤 尚之 氏

ファンベースカンパニー
取締役会長/コミュニケーションディレクター
佐藤 尚之 (さとなお)

(Naoyuki Sato)1985年電通入社。コミュニケーションディレクター/クリエイティブディレクターとして数々のコミュニケーション開発に従事し、2011年に独立。2019年5月、ファンベースカンパニー設立。「AIに選ばれ、ファンに愛される。変わる生活者とこれからのマーケティング」(日経BP刊)ほか、「ファンベース」(ちくま新書刊)など著書多数。

顧客に「ロイヤルティ」を求めるのは失礼!
“仲間”として長く付き合う『ファンベース』のススメ

消費者がAIを“相棒”として企業にコンタクトする時代、顧客接点はどうあるべきか──。コミュニケーションディレクターの佐藤尚之氏は、企業が進むべき道を「AIに選ばれること」と「ファンに愛されること」の両軸で示し、コールセンターは「エンゲージメントセンター」として顧客との関係性を育てる部門になるべきだと語る。

──佐藤さんが提唱する『ファンベース』の考え方を教えてください。

佐藤 企業やブランドが大切にしている価値や考え方を支持してくれる人たち、つまり「ファン」と長くいい関係を築いていく考え方です。安いから選ぶ人、便利だから使う人はファンとは呼びません。多少価格が上がったり、競合に便利なものが出たりしても、すぐには離れない。そうした人たちを囲い込むのではなく、「仲間」として向き合い、長期的に関係を育てていくことが基本です。AIが生活者の購買行動に深く関わる時代には、このファンとの関係性が、これまで以上に重要になると考えています。

──いわゆる「ロイヤルカスタマー」と同義と考えてよいのでしょうか。

佐藤 僕は「ロイヤル/ロイヤルティ」という言葉は使いません。これは、「忠実」という意味もあり、顧客に対して使うのは失礼だと思うからです。好んでくれて、支持してくれて、買い続けてくれる人たちは、囲い込んで刈り取る対象ではなく、仲間です。「ロイヤルカスタマーを作る」という言葉を使っている時点で、まだ「上から目線」の旧来マーケティングから抜け出せていないのではないでしょうか。

──ファンを「仲間」として扱うとは、具体的にどういうことですか。

佐藤 例えば、常連だからビールを一杯サービスする、というのは仲間扱いではありません。そうではなくて、忙しい時に「あの席にウインナーを持っていって」と頼むみたいなことです。そうすると常連は「店の人みたいだね」と喜ぶ。人は特別なサービスを受け続けると、それに慣れ増長していくものです。「VIP」にするのではなく、仲間として扱い、よい距離感で協力してもらう。それが長く付き合うための関係性です。

購買行動の起点は「AIへの相談」
“BtoAwithC”で変わる情報の価値

──今後、ChatGPTをはじめ生成AIサービスの普及によって、企業と生活者の関係が大きく変わると言われています。

佐藤 これまでのマーケティングは、情報を持っている企業から、情報を持っていない生活者に「一方的に伝える」ことで成り立っていました。こうした企業と生活者の「情報の非対称性」は、インターネットやSNSの普及によって生活者が受け取る情報、あるいは発信する情報の増加を背景として崩壊しはじめました。さらに、AIが生活者の「相棒」として普及しつつある現在、この崩壊はより決定的なものになったと感じています。

──大きな変化として、生活者が商品やサービスを選択する際、まずAIに「相談する」という行動が広がりつつあります。

佐藤 僕はこれを「BtoA with C」と表現しています。企業と生活者の間に、生活者の相棒であるAIが介在する。つまり、企業はまずAIに選ばれなければ、生活者の選択肢にすら入れない可能性があるわけです。しかも、AIは、企業の公式発信だけでなく、レビュー記事やクチコミ、ブログ、ニュース、採用情報など、インターネット上にある多様な情報を参照して、相棒である生活者にとって「不利益がないこと」を重視して提案します。企業が自分たちに都合のいい情報だけを発信しても、AIにはお見通しです。例えば、ホームページでは、「お客様第一」と謳いながら、「問い合わせてもなかなかつながらない」や「顧客対応が横柄」といったクチコミがある。そういう言行不一致をAIは見つけるのが非常に得意です。隠し事はできないし、開示しない企業は信頼できないと判断されます。

AIが「信頼する」情報の発信
重要性高まる個別の顧客体験

──企業の顧客接点は、これからどのように運営していくべきとお考えですか。

佐藤 AI時代の購入経路は、ここまでお話ししたAIに選ばれる「AIルート」と、ファンに選ばれ続ける「ファンルート」の2つに集約されます。これからは、この両ルートで考えることが重要です。AIルートは、企業にとって都合の悪いことも含めて、誠実に示していくしかありません。例えば、「ひざに優しいシューズ」というのであれば、「何をもって優しいのか」「他社と比べてどうなのか」など、きちんと数値などのエビデンスを示さなければいけません。また、「顧客対応がどれだけ誠実か」「実際に使った人がどう感じているか」なども、レビューやクチコミとして引用される可能性が高いため、顧客1人ひとりの体験や関係性の構築がより重要になります。一方、ファンルートは、AIが何を勧めようが「自分はこのブランドを選ぶ」と言ってくれる生涯顧客を育てる視点での対応が必要になります。

──両ルートでコールセンターはどのような役割を担うのでしょうか。

佐藤 商品やサービスを検討する中で最後の「1つ」を選ぶとき、最も効くのは、「その企業でどんな体験をしているか」です。1人の顧客が経験した、たった1回の最高の顧客体験でも、それがレビューやブログ、noteなどに書かれれば、AIが引用する情報となり、生活者の最終判断に影響する。さらに、この情報は、既存のファンのエンゲージメントをさらに高める要素にもなるキラーコンテンツとなり得る。そういう意味において、これからは、「問い合わせを処理する部門」ではなく、「ファンルートの中心プレイヤーの1つ」として、営業と同じくらい重要な役割を担うと思います。

“体験”の創出拠点へ役割を拡大
CX重視を体現する対話を実践

──その役割を担ううえで、コールセンターはどのように変わるべきだと考えますか。

佐藤 まず、「コールセンター」という呼称をやめたほうがいいと思っています。「早く電話を切れ」「何分で回せ」のような従来のコストセンターの発想から脱却し、わざわざ電話をかけてきてくれた人とどうエンゲージするか。クレームであれば、どうひっくり返してファンにするか。顧客1人ひとりによい顧客体験を提供することを重視した「エンゲージメントセンター」としての運営に変化していくべきだと考えます。そのためには、すべての問い合わせを一律に処理するのではなく、重要な接点を見極め、ハイパフォーマーが要所で対応する体制をつくるなど、大幅な組織変革も伴うでしょう。加えて、求められる人材要件や採用・育成のあり方も見直さざるを得ないでしょう。顧客との関係性を設計できる組織へ変わる必要があります。

──エンゲージメントセンターとして、どのような運営をすべきでしょうか。

佐藤 まず、良い対応を属人的な美談で終わらせず、組織知として生かすことが必要です。「なぜその顧客は電話をしてきたのか」「どの言葉や対応で気持ちが変わったのか」を、きちんと振り返り、組織で共有し、応対品質向上の底上げを図るべきです。また、クレーム対応も、単に「火消し」として処理するのではなく、ファンになる可能性のある重要な接点として捉えて対応していくべきです。センターで顧客の期待を超える体験をつくることが、BtoA with Cの世界においての「選ばれる条件」になり得ます。

── 一方、現在は問い合わせ削減の観点で「AIによる自動化・効率化」を進めるセンターが少なくありません。

佐藤 人の応対の質を向上するためのAI活用であれば、どんどん進めるべきだと思います。ただ、「全部自動化してしまおう」という発想は危険です。「CX重視」と言いながら、その体験において最も重要な顧客接点を全部自動化していたら、それこそAIに「言行不一致で信用できない」と判断される可能性だってあります。AIは業務を支援する相棒として使うべきであって、顧客との関係性そのものを手放してはいけない。これからは、“人にしかつくれない体験”を担う場所になるべきだと思います。

(聞き手・横田 麻生子)

イメージ写真
ファンベースカンパニーの概要
設立:2019年5月7日
代表者:代表取締役社/CEO/CHO 津田匡保氏
所在地:東京都千代田区丸の内三丁目3番1号 新東京ビル SAAI
事業内容:プロジェクト伴走事業/ファン研究事業/ファイナンス事業

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会員限定2026年07月20日 00時00分 公開

2026年07月20日 00時00分 更新

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