生成AI/エージェント型AI導入・活用の現在地

2026年7月号 <FOCUS/トピックス>

トピックス

企業と顧客、経営層と現場に「ズレ」
調査にみる生成AI/エージェント型AIの現在地

──アドビ「AI and Digital Trends 2026年版」

アドビの年次調査レポート「AI and Digital Trends 2026年版」からは、生成AI/エージェント型AIの活用をめぐり、企業の期待と顧客の許容度、さらに経営層と現場の認識に大きなズレがあることが見えてきた。AI活用を成果につなげるために、企業は何をAIに任せ、どこに人の価値を残すべきか。その現在地を検証した。

 生成AI、エージェント型AIは、顧客接点のあり方を大きく変えつつある。しかし、現状では、「企業と顧客」「経営層と現場」のそれぞれの間でギャップが生じており、導入・活用のボトルネックとなっている。アドビが毎年実施・公開しているグローバル調査レポート「AI and Digital Trends 2026年版」から、その実態が明らかとなった。

調査概要
 16回目となるグローバルの年次調査で、組織がお客様の興味を引き、ブランドロイヤルティを構築し、CXワークフローを強化するためにAIをどのように活用しているか、顧客がこれらの変化にどのように反応しているかをより深く理解することを目的とする。アジア太平洋地域、北米、ラテンアメリカ、欧州、中東の主要市場を対象地域として、Oxford Economicsがアドビとのパートナーシップにより、3000名のCX担当役員と実務担当者、および4000名の顧客を対象として実施。調査は2025年10月から11月にかけて、オンラインおよびコンピュータ支援電話インタビュー(CATI)により実施した。
 なお、調査レポート中の「エージェント型AI」は、従業員や顧客に代わって自律的または半自律的にアクションを実行することができるAIシステムを指す。「AIエージェント」は、単に回答を提供するだけでなく、代理でアクションを実行できる人工知能の一種とする。

 同レポートは、2024年版までは「Digital Trends」として調査してきたが、AI活用トレンドを踏まえ、2025年版より調査名称を変更。調査項目にもAIの視点が本格的に組み込まれた。全体の調査結果についてエンタープライズマーケティング本部 執行役員 本部長の今村康弘氏は、「企業の焦点は、『AIを使っているかどうか』から、『AIを前提に、顧客体験、データ基盤、組織、ROIをどう再設計するか』に移行している段階です」と解説する。

 調査によると、過去3年間は、生成AIを含む新興技術の急速な普及によって、多くの企業は主要なCXパフォーマンス指標の改善に成功している。具体的には、70%の企業が「パーソナライズ機能」、64%が「リードジェネレーション」、59%が「顧客維持」の改善につながったと回答した。

 一方、自社のデジタルCX成熟度を問う設問においては、「業界をリードしている」と考える企業は約3分の1にとどまり、半数以上が「同業他社と同等」または「遅れている」と回答。

 こうした控えめな自己評価の背景には、単発のAI導入は進んでも、組織横断で活用するための基盤整備が追いついていない実態がある。実際、「AIの責任ある倫理的利用を確保するためのガイドライン」「異なるシステムやソフトウェアを接続するためのツール」「顧客データ用の共有プラットフォーム」のいずれにおいても、生成AIについては半数以上の企業が取り組んでいるが、エージェント型AIのパフォーマンスを支える環境を整えている企業は40%を下回っている(図1)。

図1 企業におけるAI導入準備は、生成AIがエージェント型AIを上回る
図1 企業におけるAI導入準備は、生成AIがエージェント型AIを上回る

 とくに、顧客データが部門別、チャネル別に分断されたままでは、AIは正しい文脈を理解できず、誤った顧客対応をする恐れがある。今村氏は、「単発のツール導入ではなく、組織体制やデータベースを含めた統合的な再設計が成否を分ける」と見立てる。

「示唆」「提案」は許容
現状は「最終判断」が壁

 調査では、コンタクトセンター(カスタマーサポート)におけるエージェント型AIへの期待に言及している。「今後18カ月以内にエージェント型AIが直接対応すると予想される割合」を問う設問では、「やり取りの約半分」「やり取りの半分以上」「ほぼすべて」の合計で、カスタマーサポートが78%、購入後サポートが70%となり、上位2項目を占めた(図2)。続く項目も60%台で、企業の活用意向の高さが伺える。これは、コンタクトセンターの中核業務が「AI対応」が中心になることを意味する。今村氏は、「近くAIが顧客接点の入口となります」と予測する。

図2 企業はエージェント型AIがカスタマーサポートの大部分を処理することを期待
図2 企業はエージェント型AIがカスタマーサポートの大部分を処理することを期待

 ただし、企業の期待と、顧客の許容度には大きなズレが生じている。企業の49%は、顧客が最終的にAIエージェントを主要な接点にしたいと考えるようになると見ている。これに対し、それに同意する消費者は19%にとどまっている。

 とくに、AIエージェントに製品・サービスの最終決定を任せることに快適さを感じる消費者は21%にとどまった(図3)。「消費者はまだサジェスチョンベースで、AIエージェントの提示した情報を参考にはするが、最終判断は人にやってほしいと思っている」と今村氏は読む。このギャップは、AI技術の進化や消費者への個人AIエージェントの普及とともに、急速に埋まっていく可能性はあるものの、留意が必要だ。

図3 ブランドは、顧客の望まれない可能性のあるエージェント型AI活用を想定しているのか
図3 ブランドは、顧客の望まれない可能性のあるエージェント型AI活用を想定しているのか

 では、コンタクトセンターは何をAIエージェントに任せ、何を人が担い続けるべきか。今村氏は、「現状では、FAQなどの定型的な問い合わせ、注文状況や配送スケジュールの確認、購入履歴に基づくレコメンドなどが任せやすい領域。一方で、徹底的に人がやるべきなのは、クレーム対応など感情的なもの」と強調する。

 重要なのは、人とAIを代替関係で捉えないことだ。AIが定型処理や情報検索を担い、人はクレーム対応、アップセル提案、顧客の文脈を踏まえた支援などに時間を割く。「コンタクトセンターがコストセンターにとどまるのか、顧客理解と収益貢献の拠点へ転換するのかは、この役割設計にかかっています」(今村氏)。

AI投資の優先事項
異なる経営と現場

 企業と顧客のギャップと並んで見逃せないのが、経営層と現場の認識差だ。調査では、経営層は生成AI/AIエージェントによる顧客体験の改善など経営貢献につながる目標を投資の優先事項として挙げている。一方、実務担当者は、コンテンツ作成や業務アクティベーション、ワークフロー自動化など、顧客体験を実際に提供するための業務上の課題により目を向けている(図4)。

図4 経営陣と現場担当者で異なるAI投資の優先事項
図4 経営陣と現場担当者で異なるAI投資の優先事項

 現場がどの業務に時間を取られ、どこにAIを導入すればCXが高まるのかを一緒に見極める必要があるという。

 これらの調査結果を踏まえると、生成AI/エージェント型AI活用の成否は、ツールの導入だけではないことがわかる。必要なのは、顧客視点での活用設計、人とAIの役割分担、経営層と現場の認識合わせ、そして正確な顧客理解を支えるデータ基盤の整備だ。

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会員限定2026年06月20日 00時00分 公開

2026年06月20日 00時00分 更新

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