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2026年4月号 <ITの選び方&使い方>

 しかし、電話がつながらなければ顧客の不満は蓄積する。代表取締役社長の長谷川 貴一氏は「マイページ中心の展開を推進した際、入電が集中し悪循環に陥ったこともあった」と振り返る。最終的に同社は、電話を好む顧客層に合わせる方針へ転換した。

 もう一つの課題は「実態が見えない」ことだった。BPO2社を利用した委託運営の構造上、電話の用件や現場状況の把握には都度確認が必要で、全件確認は現実的ではなかった。結果、現場のメモや意見など、受け手の“温度感”で改善施策の優先順位が左右されやすい状況だった。個の主観に依存する構造が、目先の改善に偏り、本質的な課題特定を難しくしていた。

 そこで同社が選んだのが、対話型音声AI SaaS『アイブリー』による、AI活用を前提としたCTI刷新だ。狙いは単なる省力化ではない。長谷川氏は「効率化したコールセンターではなく、関係性を育てるコールセンターにしたかった」と強調する。通話データの蓄積・可視化はもとより、まず顧客と対話する時間を作るために、AIで“必要のない時間”を減らす──運営思想の転換が出発点だった。

代表取締役社長の長谷川 貴一氏
代表取締役社長の長谷川 貴一氏

受電の定義を変える
録音→折り返しの設計

 導入後、受電率は99%まで向上、解約率も約6割削減している。

 効果の要因を、長谷川氏は「無理に電話を取る運営からの脱却」と指摘する。これまでの受電率は、“つながったか否か”の評価だった。当然、つながらなければ、現場の心理的負担が増す。そこで、直接応対できない場合は用件を録音して折り返す体制へ切り替えた。受電の定義を「顧客が話して何かを伝えた時点で受電」と再定義し、電話を取りきることを優先する。これにより、顧客は必ず何らかのアクションを残し、コールセンターが100%それに回答する体制へ設計し直した。

 この構造変更により、オペレータも今までの電話とは違う捉え方をするようになった。受電率の改善は、単なるKPIの回復ではなく、運営の前提を「つながる/つながらない」から「必ず受け止め、必ず返す」へ移した結果である。

AI化しない領域を決める
顧客特性に合わせた分岐

 24時間365日の自動応答体制を構築するうえで、同社が最も重視したのは顧客のAIアレルギーだった。50代・60代が中心の既存顧客層に、いかにストレスなく自然に発話してもらえるか。何でもAI化するのではなく、顧客の用件に応じてフローの分岐やガイダンスを工夫している()。

図 自動振り分けフロー
図 自動振り分けフロー

 分岐は明確だ。ポイントの有効期限や配送日、パスワード関連など、有人でも同じ回答になる照会・確認系の問い合わせはAIが対応する。一方、解約や商品変更、定期便の停止・スキップといった顧客の真意や潜在ニーズを確認すべき内容はオペレータに転送するか、もしくは録音して折り返し対応とした。これにより、問題を抱えている顧客との親密な対話が実現し、解約予防にもつながっている。

 オペレーションでは、Zendeskとの自動連携で顧客情報取得を迅速化し、要約を含むACWの自動化を進めた。結果、現場の作業負荷を減らし、顧客との対話に集中できる環境を整えた。また、通話データの可視化では、自動テキスト化、要約を実現。データの集約と分析には、着電数や応答率の推移に加え、通話ごとの品質指標のモニタリングを可能にする『IVRy Analytics』を活用。データに基づいた課題発見と有効な打ち手を実践し、顧客との関係をさらに深耕する土壌を整備している。

 長谷川氏は、「受け付ける窓口」から「関係を育てるセンター」への転換を掲げる。AIで自動応対できる部分は積極的にAI化し、本当に困った時や相談したい時には人が“スペシャルな対応”を提供する。価値ある対話で顧客ロイヤルティを高めるセンターの実現を目指す。

2026年03月20日 00時00分 公開

2026年03月20日 00時00分 更新

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