実践編
第4回
オペレータは、毎日のように電話やメール、チャットでお客様対応をしていますが、実際のお客様や提供している商品・サービスを目にすることはあまりありません。すると、業務マニュアルを元に導入研修を受講しても、なかなかイメージがつかめず、案内に苦慮する場面も多く、誤案内も発生してしまいます。現場見学が、オペレータが業務イメージをつかめるきっかけになった事件を紹介します。
コンタクトセンターでは、電話やメール、チャットなどで、お客様対応をしていますが、商品や製品そのものに関する問い合わせを受けているにもかかわらず、意外と実物を確認せずに説明していたりします。最近では、実際の商品や製品をセンター内に置いて、いつでも手に取って確認できたり、実物を手に持った状態で案内できるようになっていたりしますが、マニュアルやスクリプトベースで案内しているセンターもまだまだ多いのが実状です。

以前、電力会社のコンタクトセンターで、こんな事件がありました。春先になると、お客様からこんな問い合わせが増えてきます。
お客様:「家の目の前の電柱の上に鳥が巣を作っていて、大丈夫なのか心配です。一度見にきてもらえませんか?」
オペレータ:「鳥の巣ですか?」
なかなかイメージがつかめない新人オペレータは、質問しなければいけない事項をきちんと把握できず、SVにエスカレーションすることになります。
事情をよく分かっているSVは、「それは営巣(えいそう)の問題だね」と言ってオペレータに説明しますが、その言葉を初めて聞く新人オペレータは「えいそう??」と聞いたことのない言葉のため、ちんぷんかんぷんです。しかも、SVが「それは電力会社の電柱? NTTさんの電柱かもしれないけど、それって確認した?」とさらに突っ込んでオペレータに確認するものですから、伝言ゲームのようにオペレータも、お客様に「その電柱は、当社(電力会社)の電柱でしょうか?」とよく分からないまま質問してしまい、お客様も「?」となってしまいました。
その後も対応に時間がかかり、結果、オペレータが巣の撤去の依頼を電話で受けてしまいました。しかし、それは誤案内だったのです。よく調べてみたら、他社の電柱で、電力会社の電柱ではなかったのです。お客様に鳥の巣の撤去対応ができないことを謝罪しないといけませんし、現地に向かった作業者にも謝らないといけません。
その事件以降も、オペレータは鳥の巣に関しての問い合わせは、マニュアルに書いてあるので、マニュアル通りの回答はできるものの、今ひとつ、的を射た回答ができなかったり、相変わらず誤案内も発生していました。
そこで、私は、現場の見学会を開催することを企画しました。実際にオペレータにヘルメットを被ってもらい、高所作業車に乗って実際の鳥の巣の撤去を見学してもらうことにしたのです。当然、オペレータ全員は連れて行けないため、対応件数や対応時間など、成績のよいオペレータを連れて行くことにしました。ある意味、大人の社会見学です。
そして、見学日当日。私もヘルメットを被って、一緒に行くことにしました。実際に高所作業車に乗ってもらい、自分の目で見てもらいます。オペレータは、「怖い、怖い」と言いながら、実際に電柱の上のほうに作業者と一緒にのぼって行きました。
オペレータは、口々に「なるほどー、巣ってこうなってんだ」とか、「こうやって作業者は確認していたり、撤去作業をしていたりするんだ」と言って、カメラで写真を何枚も撮っていました。
とくに春先になってくると、カラスやトンビなどが電柱に巣を作って、子育てを始めるのですが、そうすると、お客様より電柱に巣を作っているという通報の電話をいただくようになります。管轄エリアにもよりますが、年間で多いと、鳥の巣だけで2万件近い問い合わせをもらっているセンターもあります。電柱に巣を作ると、停電などの危険性が出てきます。鳥が巣を作るために枝やハンガーなどをくわえてきて、巣を作るからです。金属が電線に触れたりすると、ショートして、一帯が停電になったりするのです。電力会社では、それらを営巣と言っていたりします。

見学に参加したオペレータがセンターに戻ってきてからは、効果はテキメンでした。連れていったオペレータが写真を撮っていて、それをマニュアルに載せたり、新人オペレータに指導する際に写真を見せながら説明したりしているのです。電柱も電力会社の電柱とNTTの電柱の2種類があることも、電柱番号で識別できることも実際に自分の目で見た結果、理解できるようになりましたし、巣の状況により、撤去することもあれば、そのまま見守ることもあるということも理解できたようでした。
例えば、巣もすべて撤去しているわけではなく、停電などの恐れがない場合は、「この電柱の上に巣がありますが、問題ないため、巣立ちまで温かく見守ってください」という貼り紙がなされたりするのです。オペレータは、口々に「あれは実際に行ったほうがすごく理解できる」と自慢げに話すなど、何か武勇伝みたいな感じになっていました。その後、鳥の巣に関しては、SVにエスカレーションされることもほとんどなくなりました。すべてオペレータで完結できるようになったのです。「百聞は一見にしかず」とは、このことを言うんだと実感した事件でした。
2025年12月20日 00時00分 公開
2025年12月20日 00時00分 更新