コールセンター
BCP対策、採用難対策として有効とされるリモートワーク──しかし、セキュリティ、生産性、マネジメントの難度といった観点でリモートワークを忌避、あるいは一度導入しても出社体制に回帰するセンターも少なくない。リモートワークにおけるマネジメントのポイントや在るべき姿を専門家に聞くとともに、フルリモートを実施する2社に運用の工夫を聞いた。

コロナ禍で一気に進んだリモートワークだが、国内外を問わず出社回帰の動きが加速している。今年に入り、LINEヤフーはフルリモートを禁止、アマゾンジャパンも原則5日出社をルール化した。コールセンターでも同様で、リモートワークが可能な仕組みを構築したものの、フルリモートではなく「仕組みと制度を残す程度」という企業が圧倒的に多い。
災害が多く、かつ労働人口が減少する日本において、リモートワークはBCP対策としても採用難対策としても大きな武器となる制度だ。働き方の柔軟性をもたらす一方で、マネジメントの在り方に大きな影響を与えるのも事実だ。リクルートマネジメントソリューションズの組織行動研究所で主任研究員を務める武藤 久美子氏は、「従来の職場で自然と行われてきた声かけや雑談、相談といった、いわば“偶然”や“ついでの機会”を使ったマネジメントが機能しづらくなる」と指摘する。しかし、言い換えればこれはマネジメントの方法論を見直す機会になり得るということだ。武藤氏は、「リモートが中心になると、偶然やついでの機会が減ってしまうため、偶然とついでの機会に依存しないマネジメントが求められる」と指摘したうえで、「リモートワーク下ではこまめな声かけや雑談がなくともメンバーが個々に力を発揮できるよう自律性を高めると同時に組織とのつながりを維持する新たな工夫が求められています」と強調する。
以下では、(1)自律性の向上、(2)ロイヤルティの醸成という観点で人材育成の環境を見直し、フルリモートを実現するUSEN Contact Center(U-NEXT.HD)とアルティウスリンク、2社の取り組みを検証する。

USEN Contact Centerは、沖縄に2カ所と東京、計3カ所でコンタクトセンターを運営している。顧客増加に伴い人員確保が課題となったこと、同時にリモートワークが可能なシステム体制が整ったことでリモートワークを導入した。オペレータは基本的にフルリモートかオフィスワークのどちらかで固定されているが、家庭の事情に応じて柔軟に対応している。
デジタルBPO事業部 オペレーション推進部でマネージャーを務める後藤晃子氏は沖縄を拠点として全国50名のリモートエージェントをマネジメント。研修を担当し、モチベーションの高い人材を短期間で育成している。
リモートでもオフィスでもマネージャーの役割自体は変わらない。フルリモートでは各メンバーとの個別面談を積極的に増やす一方で、マネジメントや面談手法に工夫を凝らし、マネージャーの負荷を増大させることなく対応している。同社では、マネージャーの下にリーダーがおり、各リーダーが7〜8名のチームメンバーを管轄。リーダーは重点的に育成が必要なオペレータのフォローに注力し、パフォーマンスの高いオペレータにも新人サポートを任せている。段階的なフォロー体制を敷くことで、チーム全体でマネジメントの負荷分散を図っている。
アルティウスリンクでは管理者のコミュニケーションにメタバースを活用してフルリモートのオペレータのフォローや育成に取り組んでいる。総勢400名の大規模センターを完全在宅で運営しており、約40名の管理者が4拠点に分かれて管理、研修からOJTまですべて在宅で完結させている。フルリモートを導入したことで、採用地域が拡がり応募数は出社型センターと比較して4.2倍に増加したという。また、KDDI事業統括本部CRM第2本部コンシューマサポート2部在宅企画推進ユニット ユニット長の齊藤大志氏は「他部署からの退職予定者約15名を在宅勤務として受け入れ、人材確保に成功した」とし、離職防止にも効果があったことを説明する。
同社は、従来、管理者同士のコミュニケーションにZoomやTeamsを使用していたが、メタバースの導入後は、誰がどのような対応をしているかが可視化でき、気軽に声をかけられる環境が整備され、管理者によるコミュニケーションも円滑になっている。具体的には、管理者がメタバース空間内で移動し、ミーティングルームで会議を行ったり、「タップ」機能で肩を叩くように声をかけたりすることができる。また、KPIの状況も貼り出すことができ、通常のオフィスと同様の情報共有を実現している(図1)。

コールセンターの顧客対応は、ストレスフルで孤独感を抱きやすい。武藤氏がリモートワークに必要なマネジメント手法「リモートマネジメント」の1つとして挙げるのが、物理的距離が離れていても「心の距離が近い」ことだ。具体的には、定期的な1on1ミーティングを実施し、業務だけでなく心理的なサポートも行う。オンラインでの雑談や非公式なコミュニケーションの機会を増やし、孤立を防ぐ。メンバー同士の横のつながりを促進し、情報共有の場を設けるといった取り組みが有効だ。
USEN Contact Centerでは、オペレータへのフォロー体制として、①月1回 品質評価を実施のうえ、フィードバック面談、②週1回 管理者による面談、③日々の声かけと「3つの柱」を設けている(図2)。立場が異なる複数の人(管理者と品質評価担当)を相談相手とすることで、オペレータが話しやすい環境を作っている。

アルティウスリンクはZoomを活用した15日間の初期研修後、OJTを経て独り立ちする。OJT期間中は、出社している管理者がリアルタイムでモニタリングし、Teamsのチャットでフォロー。独り立ち後は、Teamsのチャットを活用した質疑応答できる環境を用意し、1名のオペレータに対して複数の管理者が回答する仕組みになっている。
在宅環境では顔の表情などから状態を把握することが難しいため、デビュー後のスタッフに対して毎日業務終了後にアンケートを実施、気持ちの状況を「晴れ・曇り・雨」のマークで選択してもらう。「雨」マークがついた人には早めにフォローを入れる体制を整えている。

リモートワークは、マネージャーと各メンバーの縦割り構造が強調され、接点のないメンバー同士の関係性が希薄になりやすい。
アルティウスリンクでは、この課題に対し、同時期に入社したメンバー同士でコミュニケーションを取る機会を設けている。とくに、初期研修中の座談会や、デビュー後5カ月間にわたる月次の座談会を実施しており、この取り組みにより離職率が約3%低減したという。
ほかにも、問い合わせが落ち着いている時間帯に2人でミーティングを繋いで交互に問い合わせを聞き合う時間を設けて、オフィスでは自然に得られるベテランオペレータの会話から学ぶ機会をリモートでも創出。「組み合わせを工夫することで、異なるタイプのオペレータ同士が学び合える環境を作っています」(齊藤氏)。
リモートワークを希望する求職者は多く、導入によって採用の間口が広がることは確かだ。しかし、準備もルールも未成熟なままで導入すると、孤独感やモチベーションの低下による離職や、顧客ロイヤルティやパフォーマンスの低下も懸念される。2社のような、きめ細かいマネジメント体制の構築と日常的なコミュニケーションがリモートワークの維持には欠かせない。
2025年11月20日 00時00分 公開
2025年11月20日 00時00分 更新