コラム
第30回
時間帯や曜日によってご搭乗いただく客層はかなり違います。それによってCAのサービス方法やお客様へのアプローチを変えるように配慮しています。
たとえば金曜日夜と月曜日早朝の羽田発着便は、機内で少しでも休もうと搭乗するなり目をつぶるビジネスマンが多くいらしゃいますので、なるべく静かにサービスすることを心掛けます。その一方、お休みにならず書類やパソコンを広げているお客様には、飲み物のカップにプラスティックの蓋をしてお渡しします。万が一何かが起きて書類やパソコンを濡らすようなことがあってはならないからです。
その人ご自身ではなくても、手前に座っている通路側の方がパソコンを広げていれば、窓側のお客様にお飲み物をお渡しするときは同じように蓋をするようにしています。窓側のお客様にお渡しする瞬間に飛行機が揺れて、手前のお客様のパソコンにこぼしてしまったりしては大変だからです。それがCAとしての配慮といえます。
このペーパーカップの「蓋」は、さまざまな場面で活躍してくれます。お子様に飲み物を渡すときにはこの蓋にキャラクターの顔を描いて差し上げるのですが、これがお子様には大人気!「あ、アンパンマンだ?!」「キティちゃん!」「ピカチュウだ?」と、泣く子も黙る偉大なおもちゃに変わるのです。
一部の上司には「著作権が……」などと言う人もいましたが、1人のお子様が喜んでくれる、幸せな気持ちになるのであれば、やはりそれは大切にしたいサービスだと信じて、私は油性ペンを常にポケットに忍ばせて、さまざまなキャラクターを描き続けていました。
この蓋(機内ではLIDと呼びます)に絵を描くと、お子様自身が喜んでくれるのはもちろんですが、何よりもお父様・お母様がとても感謝してくださいます。JALのCAは子どもにただ飲み物を提供するだけではなく、優しく声を掛けながら細かいところまで配慮してくれる、という評価をしてくださいます。
もう一つ、ストローも活躍します。蓋をしてそこに指すストローは赤、青、黄色、緑の4色があります。それをCAが無造作に取り出して差して渡す、のではなく、4色のストローをお子様に見せて「どれがいい?」と聞くと、笑顔を浮かべながら「これがいい」と一つの色を選んでくれて、そこでまた会話が弾むのです。
沖縄や北海道など家族連れが多い路線ではプラスアルファの言葉掛けや会話がそのまま良いサービスにつながります。これを「スポット・カンバセーション」と呼んでいて、後輩CAには「スポット・カンバセーションを大切にしましょう」といつも呼び掛けていました。
皆さまの職場においても、ただ必要な会話をするだけではなく、プラスアルファの言葉を掛けてお客さまとの会話を活性化させ、さらなるおもてなしの心を表していただきたいと思います。

2025年10月20日 00時00分 公開
2025年10月20日 00時00分 更新