市界良好 第162回

2025年10月号 <市界良好>

秋山紀郎

コラム

第162回

AIエージェント

 2024年から使われはじめた「AIエージェント」という用語は、今年になって開花した。ただし、この用語があまりに自由に使われ過ぎているので注意が必要だ。この問題は、日本だけで起きていることではない。例えば、チャットボットと何が違うのか、と疑問に思う人も多いのではないだろうか。

 コンタクトセンターにおけるAIエージェントとは、顧客とのコミュニケーションやオペレータの業務を自律的にサポートすることができる存在である。確かにチャットボットも、外部ツールやシステムと連携しながら顧客や従業員からの問い合わせ対応を自動化するため、似ているようだが、自律的かどうかが大きな違いである。

 これまで自動化とは、人の手による単純な作業や監視、判断業務を機械に置き換えることが主であった。自動化によって、人が価値の高い業務に集中できるようになる。最近は生成AIを適用することで、状況に応じて柔軟な判断ができるようになった。自動化のレベルが上昇し、自律したAIにいろいろお任せできるようになり、AIエージェントと呼ぶようになった。例えば、製造業におけるスマートファクトリーに適用することで、予知保全や品質検査の自動化が促進され、設備の稼働率や製品品質が飛躍的に向上し、需要変動への迅速な対応が可能になることが期待されている。ただし、AIエージェントに依存した生産システムには、サイバーセキュリティリスクやAIの誤判断による生産停止などのリスクもあるとされている。また、金融業界では、顧客とのインタラクション履歴分析、金融市場分析、支払業務、不正検知などのマルチエージェントを監督するAIエージェントが、顧客対応のパーソナライゼーションを実現している。しかし、与信審査や顧客対応の誤り、データ漏えいなどのリスクもあるため、ファイナンシャルアドバイザーは欠かせない。

 コンタクトセンターのAIエージェントも、任せっきりだとリスクがある。VOC分析や品質モニタリングなど社内利用であれば、AIエージェントがアウトプットした内容をSVが確認することでリスクをコントロールできる。顧客の要望を聞くAIエージェントであれば、意図確認といったプロセスが顧客とのやり取り上で必要になる。また、AIエージェントにはリスクがあるから、PoC(Proof of Concept)を実施したいという声も多く聞かれる。この点にも注意が必要だ。AIエージェントが適切に動作するには、大量に品質の良い本番データが必要である。そして、PoCをあまりに狭い機能で実行すると、データの品質、複雑なエスカレーション、想定外の利用者の行動などの課題が浮き彫りにならない。また、使いながら改善していく性質を持つため、完璧な状態でのスタートはできない。従って、ROIによって価値を証明することは困難であり、可能性を確認する程度にとどめておくことが求められる。つまり、PoCによって概念実証することは容易ではない。AIエージェントには継続的な学習と改善が前提だからだ。

 人材不足が深刻化するコンタクトセンターにおいて、AIエージェントへの期待が高まっている。とくにセンター業務の自社運営企業には積極的な取り組みを期待したい。

PROFILE
秋山紀郎(あきやま・としお)
CXMコンサルティング 代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

2025年09月20日 00時00分 公開

2025年09月20日 00時00分 更新

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