実践編
第3回
前回は、コールセンターにおけるマネジメントの要点のうち、「採用」に焦点を当てて解説した。今回は、新規採用者の「定着」の中でも初期の期間にあたるオンボーディングについて取り上げる。早期離職を防止するには、単なる初期教育ではなく、「職場との接続支援」と位置づけ、丁寧に設計することが必要だ。ポイントを、「内容」と「期間」に分けて解説する。
オンボーディングとは、新たに組織に加わったメンバーが早期に環境に馴染み、力を発揮できるよう支援するプロセスのことを指す。企業文化や価値観の共有、上司や同僚との関係構築、業務に必要な知識・スキルの習得支援など、多岐にわたる取り組みが含まれる。
新規メンバーに意欲が高い状態で長く働いてもらうためには、このオンボーディングを単なる初期教育ではなく、「職場との接続支援」と位置づけ、丁寧に設計する必要がある。
とくにコールセンターでは、「できるだけ早く戦力になってほしい」「業務を進めながら覚えてほしい」という期待から、業務の意義の理解や周囲との関係構築が不十分な状態でも、新規メンバーを現場に投入するケースが目立つ。
この場合、表面的には問題なさそうに見えても、「思うように業務をこなせない」「相談できる人がいない」などといった悩みや孤立感を抱えやすくなり、早期離職を招く要素になり得る。こうした課題の解消に向け、オンボーディングにおいては「心理的安全性」の確保が重要といえる。
心理的安全性とは、「自分の意見や感情を安心して共有できる」「失敗しても受け入れてもらえる」と感じられる状態のことである。どれほど手厚い研修を行っても、心理的安全性が担保されていなければ、新規メンバーは職場に適応することはできない。
こうした心理的安全性を実現するには、どのようなオンボーディングを行えばよいのだろうか。ここからは、オンボーディング設計のポイントを、「内容」と「期間」に分けて解説したい。
前回、人が組織に帰属する際に重視する価値基準や指向性を、4つの「P」に分類した(図1)。

このうち、「Philosophy」や「Privilege」はオンボーディングにて直接働きかけることは難しい。一方で、「People」や「Profession」は職場の工夫次第で伝えやすいため、とくに重視したいポイントである。
①People
新規メンバーは、最初に「この職場にはどんな人がいるのか」「自分は馴染めそうか」ということを気にすることが多い。だからこそ、まず取り組みたいのが、「つながり」をつくることだ。具体的には、「タテ」「ヨコ」「ナナメ」の3方向から、新人の関係構築を支援したい。
・タテ(上司との面談)
新人に期待と安心の両方を伝えよう。「困ったときはいつでも頼っていいんだ」という命綱のような安心感を醸成するのがポイントだ。
・ヨコ(チームメンバーとの交流)
業務外のコミュニケーションを通して、相互理解を促そう。雑談やランチなど、意図的に接点をつくることが大切だ。
・ナナメ(先輩社員との接点)
職場全体の雰囲気を感じてもらおう。メンバーの人となりがわかる自己紹介資料を活用するのが効果的だ。
②Profession
初期の業務のインプットを進めるうえでは、さまざまな人が入れ替わりで教えるのではなく、受け入れ担当を決めること、その受け入れ担当が、理解度や習熟度を一貫して確認し、PDCAを回してあげることが重要である。そして入社からの経過期間に応じて、新規メンバーとの対話内容を変えていくことが望ましい。
これを踏まえ、オンボーディングを設計する際は、コンテンツだけでなく、「いつ、何を確認するのか」という時期にも配慮したい。どのタイミングにおいても、画一的なアプローチではなく、個別の対話で一人ひとりに向き合うことが重要だ。
・入社から1週間
初期の印象や違和感をヒアリングし、軌道修正が必要かどうかを見極める。
・入社から1カ月
週次で、業務のキャッチアップ状況を確認する。必要に応じて上司が介入し、業務アサインの変更やマニュアルの整備などを行う。
・入社から3カ月
将来のキャリアについて、共通認識を形成する。当社では、キャリア形成においては自分の状況を「3つの輪」で捉えることが効果的だと考えている(図2)。3つの輪とは「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やるべきこと)」であり、それぞれを大きくして3つの輪が重なり合う領域を広げることで、キャリアを広げていくことができる。

新規メンバーを「早く一人前にしたい」という気持ちは分かるが、知識やスキルの習得に偏重したオンボーディングは早期離職を招きかねない。一緒に働く人を知り、業務の意義を理解することが、組織に馴染み、パフォーマンスを発揮する土台になる。次回以降は、新規メンバーがオンボーディング後も定着し、長く活躍してもらうためのポイントについて解説する。
会員限定2025年08月20日 00時00分 公開
2025年08月20日 00時00分 更新