ミスマッチを防ぐ「共感力」 選ばれるための採用面接 第1回

2024年10月号 <ミスマッチを防ぐ「共感力」 選ばれるための採用面接>

松下公子

実践編

第1回新連載

人材定着のカギは「出会い」にあり
ビジョンを伝え内発的動機を高めよう

根深い「人手不足」の課題。採用は売り手市場で、必要な人材の確保は至難となっている。採用面接のコツをおさえることで、人材確保、離職予防のいずれもかなう。本連載では、共感を重視した採用面接のポイントを解説。良い採用面接は、単なる選考の場では終わらない。面接を通じて応募者と企業側の互いの価値観やビジョンを共有し、働く仲間としての絆を築くきっかけを作っていく。

PROFILE
STORY 代表取締役
STORYアナウンススクール 代表
松下公子
1973年茨城県鹿嶋市生まれ。元テレビ朝日系列アナウンサー。2019年、STORYを設立。たった1人、たった1社に選ばれる話し方、伝え方を指導。1人に選ばれるプレゼン手法「共感ストーリー」をメソッド化。

 コールセンター白書によれば、「オペレータの年間離職率が10%以下」と回答した企業は37.6%にとどまり、「離職率30%以上」は28.8%にのぼる。一般的に、離職率3割以上は黄色信号と言われ、日本の平均離職率(13.4%)と比較しても高い数字となっている。

 離職の理由は多岐にわたるが、一般的には職場環境に対する不満、仕事内容への不満、人間関係の問題、給与や待遇への不満などが挙げられる。離職を防止するため、モチベーション向上を目的とした研修を行う企業は多い。しかし、それだけで離職を防止することは難しい。一時的に上がったモチベーションはまた下がってしまう。研修は一時的な解決策に過ぎず、長期的な視点での人材育成とサポートが不可欠である。

 離職を未然に防止したい、定着率を高めたいなら、入社前からの対処を始めてほしい。離職防止の鍵は、「面接」にある。

面接では「共感」を目指そう

 自社でどのような面接を行っているか、振り返ってみてほしい。「どれぐらいコールセンター業務に従事していますか」「クレーム対応の経験を教えてください」など、面接で質問ばかりしていないだろうか。「面接は質問する場であろう」と突っ込みがありそうだが、ここは大事なポイントである。採用成功のキーワードは、「共感」だ。

 面接では、質問を通じて応募者を理解するだけではなく、会社について理解してもらうことも重要だ。自社の魅力ついてどれだけ語っているだろうか。

 具体的に何を話せばよいのかを語る前に、心理学者のフレデリック・ハーズバーグが提唱した「ハーズバーグの二要因理論」について説明する(図1)。この理論によると、仕事満足度に影響を与える要因は「外発的動機」と「内発的動機」に分けられる。外発的動機とは、行動の理由が外から与えられる評価や報酬、強制などによるもの。例えば、給料の高さや企業の規模、福利厚生の充実などが外発的動機にあたる。一方、内発的動機は、行動の理由が自分の内面から湧き上がる意欲や興味、関心などによるもので、仕事の価値を感じたり、自己実現や成長の機会を求めたり、社会に貢献したいという気持ちなどが該当する。

図1 ハーズバーグの二要因理論
図1 ハーズバーグの二要因理論

 外発的動機は、時間が経つにつれてその効果が薄れてしまうことが多い。給料の高さや企業の規模といったスペックに魅かれて入社しても、慣れてしまいモチベーションが下がったり、「もっと良い会社はないか?」と転職をしてしまう恐れもある。

 これに対して、内発的動機は長期間にわたって持続しやすいという特徴がある。実際、「やりがいや充実した働き方をしたい」と転職活動をスタートする人は多い。

 社員のモチベーションを長く高く保ち続けるためには、内発的動機を重視した採用が鍵となる。応募者に「ここで働きたい」と思ってもらうために、会社が大事にしている価値観や今後のビジョンを明確に伝えることが重要だ。

 会社と応募者の価値観が一致していれば、社員の満足度が向上し、離職率の低下につながる。共感を重視した面接は、長期的な雇用関係の構築において非常に有効な手法といえる。

過去や未来をストーリーで伝えよう

 採用面接で、会社の未来、価値観やビジョンを語ることが重要だと述べたが、それだけでは応募者の心はつかめない。未来を語る前に自社についての過去から現在、そして未来へとタイムラインに沿って掘り起こしていくことが重要だ(図2)。そもそも、自社はどのような会社か(現在)。どのような経験をしてきて、今どうあるのか(過去)。どのようなビジョンがあるのか(未来)。これらを、しっかり掘り起すのだ。

図2 過去・現在・未来の関係
図2 過去・現在・未来の関係

 応募者に自社の魅力を自信をもって伝えることができるためには、自社の過去、現在、未来のタイムラインが1本の線につながっている必要がある。さらに重要なのが、採用担当者が、会社の代表としてストーリーに乗せて語れるかということである。

 ストーリー、つまり「昔、昔あるところにおじいさんとおばあさんがいました。」から始まる昔話のように物語形式で語れることが重要だ。

 ストーリーの名手と知られるアップル創業者のスティーブ・ジョブズが、2005年にアメリカ・スタンフォード大学の卒業式で行った卒業生へのスピーチ「ハングリーであれ。愚か者であれ」は有名だ。生みの母から養子に出されたことから始まり、大学中退時に出会ったカリグラフィの知見が、10年後、マッキントッシュの開発に役に立ったこと。30歳で自ら創設したアップル社から追い出されたが、それが人生でもっとも創造性豊かな時期であったこと。結果、アニメーション制作会社ピクサーを生み出し、再びアップルの経営者に舞い戻ったことなど、自身の生涯を語りながら、卒業生たちに大切なメッセージを伝えた。亡くなった今も、世界中の多くの人々の心を動かした、記憶に残るスピーチである。

 どのように小さな会社でも、人を共感させるストーリーを持っているはずだ。

 「仕事をする上で何を大切にしているのか」「今後の未来はどうありたいのか」──お互いの思いやストーリーを共有することで働く仲間としての絆を築く、最初の一歩を作っていくことになる。

2024年09月20日 00時00分 公開

2024年09月20日 00時00分 更新

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