焼鳥店の主役は、言わずもがな「焼鳥」だ。ジューシーな肉質、パリッと香ばしい皮、食欲をそそる炭の香りが、満足感をもたらす。店舗の売り上げを左右するのは、焼鳥を焼き上げる「焼師」の腕といえる。このため、エー・ピーホールディングスの焼鳥業態では、焼師が店長を務めることが多い。
池上佳宏さんは異色の経歴で、ホール担当から店長に就任した。売り上げに寄与する、高い接客スキルを高く評価された結果だ。
「接客は、飲食店の最終ランナー。食事を心から楽しめる環境を用意し、焼師から受け取ったバトンをきちんと届けることでご満足いただけます」と、池上さんは自信に満ちた表情を見せる。料理に満足した顧客のなかには、目の前にはいない焼師の仕事ぶりに感動して、帰り際に焼師へ感謝の言葉を添えて帰ることがあるという。焼師から受け取ったバトンを顧客に届け、お礼として焼師に返せるとき、池上さんはこの仕事の醍醐味を感じる。
池上さんが接客で心掛けているのは、「来店のストーリーを想像する」ということだ。
複数名で来店する顧客の多くは、最初の一杯で「お疲れ様」「おめでとう」などの言葉を交わす。そこから、どのような目的で集まっているのか仮説(ストーリー)を組み立てる。
どの顧客が誰を喜ばせようとしているのか。接待か、デートか。お祝いか、送別会か。誰かを「もてなしたい」「喜ばせたい」という気持ちを察知し、その想いが叶うよう手助けする。
「例えば、デートで男性が女性を喜ばせたいとしたら、あえて“なかなか予約がとれないお店なんですよ”と女性側に伝えます。自分のために苦労して予約を取ってくれたと知ることで、喜びが増すこともあるからです」(池上さん)
予約時に特別な接待だということを聞けば、当日までにいいワインを仕入れる。初対面が集まる会では、緊張をほぐすため、店や料理の説明をして会話のきっかけを作る。状況に合わせたアシスト方法で、ストーリーにマッチした演出を施す。
飲食店の接客は、チームワークも重要だ。池上さんは、他の接客スタッフと情報共有しながら、すべての顧客が心地よく過ごせるよう気を配る。
接客スタッフは、学生のアルバイトが多い。学生たちが社会に出ていく準備の場として捉え、池上さんは成長を促す声がけを行う。
人と接する接客業は、アルバイト同士でもめたり、顧客と行き違いになることもある。トラブルに遭遇したスタッフに、池上さんは、「見方を変えてみよう」と声をかけている。
「一方からのみ見ると、人のせいにしたり、相手が悪いと決めつけがちです。何か事情があったかもしれない。自分の言い方が誤解を与えたかもしれない。見方を変えることで、自身の成長や、次のトラブルを防ぐことにつながります」と池上さんは説明する。
前向きな見方を心掛けることは、相手を変えることにもつながる。飲食店には仕入れの業者も多く出入りするが、なかには商品を運ぶ仕事に徹しコミュニケーションをおろそかにする人もいる。池上さんは、返事をくれない相手でも一方的に挨拶を続ける。
「相手を小さく見て諦めたり、文句を言うのは簡単ですが、何も変わりません。実はすごくいい人、才能がある人といった可能性を捨てずに接すると、行動や関係性が変わっていきます」(池上さん)
実際に、挨拶を続けた結果、挨拶が返ってくるようになるという。
店舗は、渋谷の中心街にあり、インバウンドの来店も多い。欧州や中東の顧客は、日本語も英語も通じないが、池上さんの相手の事情を汲み取る接客は通じる。顧客がどうしたいのか、何を楽しみにしているのか、視線やしぐさから察知し仮説を組み立てる。
仮説がはまらないこともゼロではない。しかし、失敗も「失敗のパターンを1つ知れた」と前向きにとらえる。チャレンジは、必ず次の成功につながる。池上さんの思考は、常に前向きだ。
会員限定2024年04月20日 00時00分 公開
2024年04月20日 00時00分 更新
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