音声認識、オムニチャネル──
高度化する『VOC』活動
Part.1 <課題と実践度測定>
蓄積・分析・共有の体制と仕組みを測る
「15項目の実践度チェック」
コールセンターにおいて、顧客対応に次ぐ役割とされる「VOC(顧客の声)活動」。蓄積/分析/共有という3つのプロセスを経て、商品開発やサービスプロセスの改善に活かすこの取り組みが、カスタマー・エクスペリエンスの認識拡大と音声認識システムの普及によって高度化しつつある。事例各社や識者の見解から、現状と課題を掘り下げるとともに「実践度チェックリスト」をまとめる。
コンタクトセンター・アワード(編集部主催、イー・パートナーズ共催)で、はじめて「VOC」に関する活動が表彰されたのは2005年(松下電器産業:当時の社名)のことだ。一部の製造業では、それ以前からお客様相談室に寄せられた意見を商品開発や改善に活かす取り組みが実践されていたが、これ以降、業種や業態を問わず「コールセンターが経営に示すことができる最大の資産」という認識が広まり、多くの運営企業がVOCの分析・共有に挑戦した。
つまり、VOC活動がトレンド化してからはかなりの時間が経過しているということだ。しかし、俎上にあがる課題もまた、当時とほとんど変化がない。具体的には、「記録するオペレータの文章力や要約力に依存する」「専門的なスキルを持つ分析担当者がいない」「業務委託なのでブラックボックスと化している」「せっかく分析してレポートを経営陣に提出しても、関心を持ってくれたのは最初だけですぐに形骸化した」「経営陣は関心を持ってくれるが、関与すべき部署に無視される」──などだ。
VOC活動は、大きく(1)収集・蓄積、(2)分析、(3)共有(フィードバック)──の3段階に分類できる。
成否を分けるのは、「質」と「量」のバランス、そして共有の仕組み作りだ。本特集では、先進事例各社の取り組みから各フェーズにおけるベストプラクティスを最上位に設定した実践度チェックリストを作成している。
図 VOC活動の現状と課題
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Part.2 <ケーススタディ>
声の“量”と“質”を高める
先進3社の「IT」「仕組み」「組織」
VOC活動は、“活用できる声”の収集・分析に加え、その声の発生原因となった業務部門に“わかりやすく伝える”努力なしには実現できない。音声認識やテキストマイニングツールを駆使して大量の“声”に埋もれた改善の素材を拾い、確実に改善につなげるための「VOCの見せ方」を工夫している3社の事例を検証する。
CASE STUDY 1:資生堂ジャパン
コールセンター、店舗、SNS
“オムニVOC”で捉える消費者の「実像」
VOCをより正確に把握するには、店舗やお客さま窓口(コールセンター)に直接寄せられる要望や意見から抽出するだけではカバーできない。SNSに埋もれている“間接的な声”も集め、総合的に分析、判断することが必要だ。
資生堂ジャパンのコンシューマーセンター(同社のコールセンター呼称)が運営するお客さま窓口の電話、メール、チャットに加え、店舗、Twitter、Instagram、Yahoo!知恵袋公式アカウントで収集したVOC分析を行い、全社に情報共有。商品開発・改良やサービス改善への活用を推進している。
CASE STUDY 2:オリックス生命保険
対応要員の“気づき”をデータ化する
小さな声を逃さない「VOCAサイクル」
「苦情にはならないレベルの“小さな不満”は埋もれやすい」──オリックス生命保険 カスタマーサービス部長の渡辺展正氏はこう強調する。
同社は、CRMシステムにCA(コンタクトセンター・アテンダント:同社のオペレータ呼称)が応対履歴に入力した内容を分析する一般的なVOC活動と並行して、VOC分析の軸にCAの声を採用した「VOCA(Voice of CA)活動」を推進している。VOCA活動は、大きく(1)ヒント収集:CAヒアリング、(2)仮説立て:VOCAメンバーミーティング、(3)改善提案:事務部門定例会、(4)フィードバック:VOCA通信──の4ステップで実行。VOCA活動を開始して約1年半、VOCAに基づいた改善案は280件蓄積されている。
CASE STUDY 3:ヤマトコンタクトサービス
VOCをカスタマージャーニー・マップにプロット
サービスプロセスの「痛点」を洗い出す
ヤマトコンタクトサービスは、顧客の行動を絵解きしたカスタマージャーニー・マップにVOC情報をマッピングする取り組みに着手。「顧客満足度を下げる“マイナスの体験”」解消を図っている。
対象としているVOCは、テキスト化した電話応対のやり取りだ。
音声認識システムと要約ツール、テキストマイニングツールを活用。通話音声をリアルタイムにテキスト化し、要約ツールで要約文である「VOC会話」を生成、さらにテキストマイニングツールで分類とキーワード分析、話題検出を行い、事実情報とカスタマージャーニー・マップの「どのプロセスに含まれるのか」を自動判定し、“痛点”を洗い出している。
2024年01月31日 18時11分 公開
2019年07月20日 00時00分 更新