2021年11月号 <市界良好>

市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

選ぶ権利

秋山紀郎

 子どもにとって親を選ぶことはできないことを、「親ガチャ」というらしい。自分の置かれている状況を親の責任にしているような表現で好ましくはないが、どのような環境にいるお子さんが言っているのかがポイントだろう。人生において、どの子どもにも公平にチャンスがあるというのは理想だが、現実はそう簡単ではない。

 会社の中でも、人事異動によって嫌な上司に当たることがある。自分と性格が合わない上司の場合、皆さんならどうするだろうか。その間は出世を諦め、その上司に合わせて我慢し、どちらかが異動するまで待つのだろうか。それが辛ければ、異動願いや転職という選択肢もある。ただし、嫌だと思っていた上司も、いざ部下になってみると意外に良い点が見えてくることもある。

 さて、私たち消費者は、市場に提供されている製品やサービスから選ぶことができる権利を持っている。当然すぎて気付かないが、予算の中で自分にあったものを自由に選べるのは、幸せなことである。ただし、BtoBのケースで見られる事象だが、選び方の裁量権が小さいため、良くない選び方になっていることがある。価格が最重要決定要素になっているケースだ。仕様がまったく同じ大量生産品を選ぶのなら、価格が重要になるのはわかる。しかし、業務委託、コンサルティング、アウトソーシング、ITサービスなどは、まったく同一の提供内容にはならないから、価格の決定要素を強くすると失敗する。仕様書に記載された基準を満たせば安い方がよい。理論的にはその通りだが、あまり良い業者が選ばれずに後悔する発注者は多い。仕様書にすべての条件を書ききれないからだ。仕様書の基準を厳しくすると、1社も参加しないということにもなる。仕様書の記載内容を満たしていても、提供されるサービスには個性がある。その個性を見抜く力を担当者は持つべきであり、ある程度の価格幅に収まるのなら、あとは担当者に選ぶ権利、裁量権を持たせることが重要だ。その結果、責任をもって最後までやり抜くことにもつながる。

 コンタクトセンターのオペレータは、どうだろうか。原則として、担当SVを選ぶことはできない。インバウンドコールで、顧客を選ぶこともできない。だが実際には、ACDによって、そのオペレータに合うコールが選ばれているはずだ。それでは、顧客はどうか。多くのコンタクトセンターでは担当するオペレータを選ぶことができない。かつて私にパソコンのトラブルが頻発し、前回の問い合わせの続きだからと同じオペレータを指名してみたが断られた。引継ぎがあると言っても、トラブルの状況について新しいオペレータに共感してもらうまで、前回と同じ説明を繰り返す必要は生じる。通話時間は長くなるし、顧客体験も良くない。商品やサービスの複雑化に伴い、問い合わせ対応の難易度が上がっているのだから、顧客にもオペレータを選ぶ権利があってもいいのではないだろうか。とくにWebで解決しないような相談を主としたサポート対応においては、オペレータの個性が出て当然だ。オペレータ全員が同じサービスを提供するというのは、顧客が求める理想でなくなったのかも知れない。