2021年10月号 <わたちゃんのかすたま〜えくすぺりえんす>

わたちゃん

<著者プロフィール>
職業:顧客経験価値にこだわる戦略立案&業務改革コンサルタント
過去勤めたことのある企業:日本ユニシス、日本IBM、日本テレネット
週末の過ごし方:
<ケース1>隅田川あたりをぶらぶら散歩して浅草で飲んだくれたあと銭湯で汗を流す
<ケース2>スポーツジムでヨガレッスンを受けて汗を流す
最近の悩み:昔は痩せの大食いだったのが、最近は小食の小太りになっていること

「いきなり!ステーキ」
復活のカギは中長期のファン戦略

ISラボ 代表 渡部弘毅

 娘がまだ幼い頃、「豚肉はビタミンB1が豊富で健康に良い!」という名目で、食卓に牛肉が登場する機会が少なかった本当の理由を娘に突っ込まれてアタフタした、わたちゃんです。大人になった娘を時々焼肉屋に連れて行き、思う存分、牛肉を食べさせています。

 2013年12月に銀座に1号店を開店以来、快進撃を続けてきた「いきなり!ステーキ」が、苦境に立っています。2016年8月に日本最速で100店舗を達成し、2020年12月には会員が驚異の1500万人に達成したにも関わらず、2020年12月期の売上高は310億円(前期675億円)、営業赤字は40億円(前期0.7億円の赤字)、さらに最終赤字は39億円(前期27億円の赤字)と、非常に苦しい結果となりました。

 苦境の要因はさまざまですが、まずは、「過剰出店による採算割れ店の続出」と「異常なブームによる会員の激増による会員特典のコスト増」で採算が急激に悪化したことです。また、採算悪化をリカバリーするための「値上げ」が、「顧客離れ」を起こし、採算がさらに悪化し、また「値上げ」をするという負のスパイラルに陥りました。そしてとどめとして、会員特典である「肉マイレージ制度」を変更したことでファンが激怒し、さらなる「顧客離れ」になるという、最悪の循環をたどったのです。

 雑誌の社長インタビュー記事によると、この苦境を乗り切るための戦略や施策として、(1)ファミレスのような「居心地のよさ」を追求しない代わりに、高品質な厚切り牛肉を思い切った値段で提供するという原点に立ち返る、(2)大幅値下げによる負のスパイラルを断ち切り、顧客増と粗利額増を狙う、(3)肉マイレージ制度の一部復活によるファンの復活、獲得──をあげています。

 しかし、本当にこの施策で復活が可能でしょうか。規模を大幅に縮小した現時点においては、原点回帰した戦略に基づいて、ファンづくりの源泉を見直す必要があります。「肉マイレージ制度」をメインとしたファンづくりは短期的には有効ですが、採算も確保しながら中長期的にファンを増やしていく施策としては相応しくありません。「肉マイレージ」に頼らないファンづくりの施策を中期的視野で展開していくことが重要です。

 そのためには、原点回帰した戦略に基づいて、(1)価値を届ける顧客像(顧客セグメントとニーズ)を明確にする、(2)顧客像に合わせた商品と出店計画を再プランする、(3)ファンづくりの源泉として利用体験やブランド体験での顧客体験系の施策を展開していく、ことが重要です。とくに(3)は中期的視野に立って店内接客やさまざまなサービスメニューを根気強く実施していく必要があります。

 娘と孫娘に腹いっぱい美味しいステーキを食べさせてあげるためにも、是非「いきなり!ステーキ」の復活を願うばかりです。

図 苦境に陥った悪循環サイクル

図 苦境に陥った悪循環サイクル