2020年11月号 <特集>

特集扉

チャットボット、IVR、FAQ──
「自動化」の現実解

Part.1 <現状と課題>

理想は「問い合わせる前に解決」
「ボット+RPA」がもたらすIoT時代の顧客体験

顧客の利便性と企業の生産性向上を両立する手段。それが、「自動化」だ。ルール変更が多く、外部環境の影響を受けやすいコンタクトセンターは、自動化が遅れ労働集約から脱却できずにいる。成功に導くカギは、顧客視点でのオペレーションの見直しと、自動化すべき範囲の見極めにある。「ボット+RPA」「ボット+人」などのハイブリッド運用が実現する、新しい顧客体験を検証する。

 新型コロナ感染症の流行をきっかけに、企業のデジタルシフトは加速した。すでに進行していた人手不足を背景とした業務の自動化や、顧客の利便性向上を目的としたIT活用に加え、他者との接触を控える傾向からオンラインサービスのニーズが高まり、デジタルシフトの必要性はますます高まっている。

 コンタクトセンターにおけるデジタルシフトとは、対応プロセスを含むオペレーションの自動化と言い換えることもできる。その領域は、大きく分けると、(1)問い合わせ対応、(2)対応時のナレッジ検索や応対履歴の入力、手続き処理などバックヤード業務、(3)シフト作成やモニタリングなどマネジメント業務の3つ。とくに取り組み事例が多いのが(1)と(2)、つまりフロントからバックヤード業務までのオペレーション業務の自動化だ。

 具体的には、チャットボットやボイスボットの活用となるが、最近は、チャット/ボイスボットにRPAを連携し、問い合わせから生じた処理を自動化する事例が増えている。コールリーズンの特定までを自然言語処理機能を持つAIチャットボットが行い、解決まで導く一連の手順はRPAが担うといった仕組みだ。ボットとRPAを組み合わせて問題解決できるようになると、そのノウハウをベースに、将来的にはIoTとRPAを連携してトラブルの予兆とソリューションの提案が可能となる。つまり、“顧客が問い合わせる前に問題を解決する仕組み”の構築だ。これは、エフォートレス(苦労、不便を強いらない)という意味では、最上級のサービスといえる。

Part.2 <ケーススタディ>

「判断」「機転」をプログラムに落とす!
エフォートレス実現する現場の“地道な作業”

人手不足や3密防止をきっかけに、顧客対応の自動化を試みる企業が増えている。Part2では、すでにRPAやAIを活用してプロセスの一部の自動化に成功した、サイバーエージェント、ニッセン、セブン銀行の3社の取り組みを検証する。共通するポイントは、徹底した応対履歴の分析やワークフローの見直し、エラーの検証とチューニングなど、地道な作業の積み重ねにある。

CASE STUDY 1:サイバーエージェント

CX向上の鍵はチャットボットの「未解決」
新サービスの定着を支える“分析力”の強化

 累計投稿数25億超という国内最大規模のブログサービス、「Amebaブログ」を運営するサイバーエージェントは、ユーザー向けのサポートコンテンツの中軸としてチャット/チャットボットを用意している。とくに、2020年に入ってから注力しているのが、チャットボットによる問題解決だ。

 チャットボットで重視しているKPIが「解決率」だ。アンケートで入力を依頼した結果を集計している。そのなかで「未解決である“いいえ”となった問い合わせの内容」を精査、現場にフィードバックすることで精度向上を図っている。

 同社のチャットボットは、大きく2パターンある(図1)。シナリオを用意して選択してもらうカテゴリ型と、文言を入力してもらう自由入力型だ。解決率はカテゴリ型が高いが、利用者は自由入力の方が多いという。カテゴリ型は、目的の回答にたどり着くために、どうしても3〜4回の選択が必要となる。同社ユーザーはスマートフォンの利用率が高いため、自由入力の方がUIとして使いやすいことが影響しているようだ。

図1 チャットボットは「自由入力」と「シナリオ型」の2種類

図1 チャットボットは「自由入力」と「シナリオ型」の2種類

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CASE STUDY 2:ニッセン

メール、はがき対応は7割省力化
電話応対の自動化もテスト中

 ニッセンは、京都と仙台のコールセンターで、電話やはがき、メールなどの窓口を運用している。

 カタログ通販の最大手である同社には、現在も多くのはがきによる注文があり、その数は年間16〜17万枚におよぶ。はがきの注文量はカタログが届くタイミングに大きく左右されるため繁閑差が非常に大きく、1日あたり48枚から2394枚と、50倍の繁閑差がある。

 2018年にユニメディアのAI OCR「LAQOOT(ラクート)」、およびNTTアドバンステクノロジが提供するRPAツール「WinActor(ウィンアクター)」を導入。75%ものはがき注文処理の完全自動化に成功した。さらにメールをAI(ボット)が返信する取り組みも開始したほか、Webサイト上のチャットボット「みことちゃん」の精度向上も図っており、着実に成果をだしている。

 現在は、電話応対の自動化にも取り組んでおり、自動化すれば大幅な省力化が期待できる。早ければ来年度には本格導入できる見込みだ。

図2 はがきによる受注自動化の仕組み

図2 はがきによる受注自動化の仕組み

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CASE STUDY 3:セブン銀行

チャットボット+RPAで自動化
スピーディに手続き完了

 全国のコンビニエンスストアを中心にATMを稼働するセブン銀行。「PayPay」や「LINEpay」などの電子マネーへの入金にも対応しており、利用者を増やしている。

 2020年8月から一部の顧客対応を自動化する仕組みのトライアルを開始し、検証を行った。対象とした問い合わせ内容は、月間2000件弱ある「住所変更」だ。入り口はチャットボット。二段階のRPAプログラムを組んでおり、第一段階が認証(本人確認)、第二段階を住所変更としている。チャットボットのAIは、Studio Ousiaの「QA ENGINE」を採用。課題を抽出して改善を入れながら稼働させている段階だ。

 また、チャットボット対応による自己解決向上も図っており、7名の担当者がFAQをいくつか組み合わせてより詳しい内容の回答を作成し、定期的に精査している。

 現在、チャットボットの対応件数は1日あたり300〜600件。バラつきは、コールセンターへの問い合わせの繁閑を吸収している差といえそうだ。現段階では、口座開設の案内からATMの使い方まで一般的な問い合わせに答えているチャットボットだが、今後、対応の幅を拡充していく方針だ。

図3 住所変更手続き無人化実証実験

図3 住所変更手続き無人化実証実験

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2024年01月31日 18時11分 公開

2020年10月20日 00時00分 更新

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