2019年3月号 <特集>

特集扉

チャット対応の
KPIマネジメント

Part.1 <現状と課題>

メールとも電話とも違う!
正解の見えない品質・生産性管理の方法

電話が混み合っている際のバックアップ、あるいはサブスクリプション型の企業においてはメインチャネルと位置付けられはじめたチャット。しかし、「同期型と非同期型」の両方の性格を併せ持つだけに、これまでコールセンターで培ったKPIマネジメントが通用しないケースが多い。今後、対応件数が増えた場合に求められるであろう「数値管理」の現状と課題を整理する。

 チャットは、顧客のリテラシーや置かれている状況によって対応時間が大きく変わることから、AHT(平均対応時間)の算出や予測が難しい。また、1対nの対応が可能という特性もあるため、リソースマネジメントのロジックが確立された電話窓口と異なり、生産性の管理はどうしてもアバウトになりがちだ。

 しかし、今後コールを超えるメインチャネルになる可能性もあることを考えれば、今のうちからあらゆるデータを蓄積し、業務量の予測精度を上げるためのトライ&エラーを行ったうえで最適なKPIを模索する必要がある。

 にチャット窓口を経由するカスタマージャーニーとペインポイント、関連するKPIを整理した。CES(カスタマー・エフォート・スコア)をベースにペインポイントを洗い出せば、自社の品質管理指標として何が重要かを特定できるはずだ。

 本誌ではアンケート(有効回答数=35社)をもとに、チャットセンターのKPIマネジメントに関する実態調査も行っている。

図 チャットボット/チャット対応のカスタマージャーニーとペインポイント例

図 チャットボット/チャット対応のカスタマージャーニーとペインポイント例

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Part.2 <ケーススタディ>

「CS」「解決度合い」重視の一方
課題は“コントロールできないAHT”

顧客の都合で待機時間が発生し、「セッションの終わり」すらあいまいになりがちなチャットやLINE対応。しかも「1対N」の対応ができるだけに、従来(電話)のAHT算出と業務量予測を応用したリソース管理は難しい。先進事例各社は、「CS」をKPIに設定すると同時に、チャット独自のリソース管理を編み出すべく、苦労を重ねている。4社の取り組みを見る。

CASE STUDY 1:サイバーエージェント

コールリーズン分析をもとに
期待値を捉えてチャネルを最適化

 ブログサービスを運営するサイバーエージェントでは、メール、チャット、チャットボットの3チャネルで問い合わせを受け付けている。重視しているKPIは、チャネルごとの対応件数、チャットボットの回答精度、CS調査の結果だ。

 同社では、コンタクトリーズンに合わせて最適なチャネルをマッチングできるよう導線設計することで、チャネルごとの対応件数を最適化している。具体的には、操作案内など「FAQですぐに解決できる内容」はチャットボット、FAQの提示では解決できないが「オペレータがコミュニケーションをとればすぐに解決できる内容」は有人チャット、「テクニカルサポートなど解決策の提示に時間がかかる内容」はメールが最適であると想定。顧客がヘルプページで問い合わせたい内容を選んでいくと、チャットボットまたは有人チャットの窓口、問い合わせメールフォームのうち、最も適した窓口が表示され問い合わせできる導線にしている。

 結果、メールのみで対応していた頃と比べ、3分の1を自動化。今後は、チャットボットの回答精度を上げることでさらに自動化へのシフトを進める方針だ。

CASE STUDY 2:freee

リソース管理のベースは過去データ
予測件数×CPHで必要要員数を概算

 クラウド会計ソフトを開発・提供しているfreeeのサポートセンターでは、約80%の問い合わせをチャットで対応している。約50席(繁忙期は約100席)と、国内では珍しい大型センターだ。まずチャットボットで対応、解決しない場合は有人チャットにエスカレーションする。重視しているKPIは、件数とCPH(1時間あたりの対応件数)、接続品質、顧客満足度だ。

 満足度と待ち時間を相関分析した結果、「待ち時間=7分」「アバンダンレート=6%」を超えると不満が増えることがわかり、これらを閾値として接続品質を管理している。必要要員数は、予測件数を1人あたりのCPH(目標値)で割ることで算出。オペレータは手が空いているときはメールに対応するため、CPHの目標は3.6と低めに設定し、リソース不足を回避している。

 チャットボットの精度は満足度に加え、「総件数の予実差」からも判断。予実差が大きいほど自動化を推進できたと判断し、チャットボットの改善成果とする考え方だ。

 AHTではなくCPHをベースに必要要員数を概算したり、予実差をもとに成果を測るなど、発想を転換して新たなKPIマネジメントの手法を確立しつつある同社の取り組みは、規模拡大を図る多くのチャットセンターの参考になる事例といえる。

CASE STUDY 3:エウレカ

コミュニケーション増を目的に開設
CXを高めたうえで自動化も強化

 恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」を運営するエウレカでは、チャット/メールでユーザーからの問い合わせに24時間365日有人対応している。オペレータは45名が在籍し、このうち25名がチャットのスキルを持つ。1人あたりの同時対応人数は3人までで、AHT(平均対応時間)は8分30秒だ。

 有人チャットを開設した目的は、「問い合わせのハードルを下げることで顧客とのコミュニケーションを増やしたい」(執行役員 カスタマーケア部門責任者の安信竜馬氏)ことだったが、累計会員数(日本・台湾・韓国の総計)が1000万人を超えたことを受け、昨年末にチャットボットを導入して自動化を推進。1日あたりの対応件数は、有人チャットが約80件であるのに対し、ボットは600〜1000件におよぶ。自動化は同社のユーザーニーズにマッチしたチャネルといえそうだ。

 チャット窓口の開設を検討する際、電話/メールの件数削減を目的にチャットボットをまず構築する企業が少なくない。しかし、同社のように、まず有人チャットから始めて満足度を追求したうえで自動化を進める方法は、ネガティブな顧客体験を防ぐうえでよいアプローチだといえる。

CASE STUDY 4:TMJ

人材教育やナレッジの充実で
電話の2倍の生産性を目指す!

 TMJは、ベネッセコーポレーションが展開する小学生向け通信教育サービス「進研ゼミ小学講座」のサポート窓口でLINEを使った相談対応業務を行っている。顧客はチャットボットと有人対応を選べ、気軽に問い合わせができることから、利用件数は徐々に伸びている。

 東日本拠点BenesseCC事業部 第1セクション 3GのPM(プログラムマネージャー)を務める松本明子氏は、「チャット窓口開設の目的は、お客様の利便性向上と呼量削減の2つ。このため、使いやすい窓口の設計と生産性管理に力を入れています」と話す。

 “使いやすさ”を測る指標は、問い合わせ件数と満足度だ。IVRのガイダンスやWeb上の導線を工夫することでチャットでの問い合わせを積極的に受け付けるとともに、FAQの追加や修正、語彙や表現の見直しによって解決率の向上を図っている。

 生産性については、チャットボットでの解決率を向上させることで自動化を進める他、有人対応についても「チャットは電話の2倍の生産性を目指す」(東日本拠点BenesseCC事業部 第1セクション 3Gの岩楯敏生氏)として、電話からLINEへの移行が生産性向上に直結するAHTの目標を設定し、教育やテンプレートの充実を図っている。

 チャット窓口はツールが比較的安価なうえ、窓口を閉じることも容易なため開設の敷居が低く、目的があいまいなまま開設し成果検証ができないまま閉じてしまうケースが後を絶たない。開設の目的を明確にしたうえで達成度を測る指標を決めてPDCAを回す──同社の取り組みは、チャット窓口の開設/運用の基本を実践した手本となる事例だといえる。