SVのためのオペレータ指導要綱第1回



鉄は熱いうちに打て!
「後回し」で指導効果は半減する


業種業態を問わず、人材育成ほど難しい業務はありません。コールセンターでは、まだ社会人経験の浅い年齢層のSVが、数多くのオペレータを指導・育成する役割を担っているケースも少なくありません。手探りで実施しているものの、思うように育たないと悩むSVは多いのが現状です。本連載では、オペレータの指導手順やポイントを具体例を挙げて解説します。

著者:市場通信 石橋由佳
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 「コールセンターの品質はスーパーバイザー(SV)次第」とよく言われます。それほどSVが現場におよぼす影響力は絶大です。ところが実際には、「SVとして現場スタッフをどう指導したらいいかわからない」「これまでにSV研修を受けたこともなく我流のため、自信が持てない」という方が多いのではないでしょうか。

 この連載では、「コミュニケータ(オペレータ)指導要綱」として、SVのみなさまの日常の一助となればという思いでコールの現場でのコミュニケータ育成ポイントについて綴っていきます。

■指導はタイミングが重要

 コミュニケータを指導する上で、まず気をつけなければならないのは、「タイミング」です。SVは、日々のオペレーションの中で、個々のコミュニケータのくせや足りないスキル、修正が必要な言い回しなどに気づくものですが、その内容をすぐに本人に伝えているでしょうか。「今は他の業務で忙しいからあとで」「定例ミーティングのときにまとめて伝えよう」などと、先送りしていないでしょうか。実は、先送りをすることで、指導の内容自体は的を得ていてもコミュニケータが受け入れづらい状況になることが多いのです。

 コミュニケータの側に立ってみるとよくわかります。毎日数多くの顧客対応に追われているわけですから、数時間前、数日前のことを言われてもピンと来ません。「そんなことあったかしら……」「今そんなこと言われても、どのコールのことだろう……」という反応が返って来ることもあるでしょう。当然ながら、指導内容を理解し自分のコールを修正しようという気持ちには、なかなかなれないはずです。また、SVの方も、ちょっと先延ばしにしているうちに、「まあいいか。さっきの対応は良かったし」「どんな内容のコールだったっけ」というように、フレッシュさがなくなるものです。

 SVの気づきが新鮮で、コミュニケータ・SVの双方がそれについて共通の思いを共有できるうちに指導をすることが重要です。指導の「賞味期限」は意外に短いものだと思ってください。

 また、真面目なSVによくあるのですが、「きちんと伝えよう」と思うあまり、双方の業務時間の調整や、伝える内容の整理などに必要以上に時間を費やしてしまいがちです。それよりも、気づきが新鮮なうちにコミュニケーションを取ることを優先しましょう。そのコミュニケータの席に行ってひとことふたこと声を掛けるだけでも構いません。よくできている場合には、そっと肩をたたいて、アイコンタクトと「Good!」と手のサインで合図を送るだけでも言いたいことが伝わるでしょう。また、私がよく行うのは、コール中であっても、「笑顔」が足りない方には蛍光色の小さめのポストイットににこにこマークを書き、それをそっとモニターに貼ってあげるとか、自分が歯を8本みせた大きめの笑顔をして、「これこれ」と指をさして思い出してもらうことなどです。

■褒めるだけで終わらせない

 コミュニケータ育成の基本としてぜひ押さえていただきたいのが、やはりモニタリングです。コミュニケータごとの強み、弱みなどを把握するには、席の後ろに立ってコミュニケータの声を聞くだけでなく、一定の評価項目にしたがって、顧客との実際の会話をつぶさに聴くことが不可欠と言えます。そうすることで、センターが目指す方向に照らした適切な指導ができるようになります。

 そして、モニタリングをしたら時間をおかずにフィードバックを行ってください。モニタリングを実施するときには、あらかじめコミュニケータに目的(マイナス項目の指導や共有ではなく、あくまでも「○○さんが、お客さまから『真のありがとう』を今以上にもらえるため」など)を話しておきましょう。前向きに聞く気持ちにさせることで、フィードバックの効果はより高くなります。

 フィードバックの際に注意したいのが、「詰め込みすぎないこと」。いざフィードバックとなると、どうしてもあれもこれもと盛り込みたくなるものですが、指導を受ける側にとっては、一度に言われても消化しきれるものではありません。あらかじめ伝える情報を整理しておく必要があります(図1)。

図1 モニタリングのフィードバックのポイント


 また、人に指導をするということは意外に心理的な負担が大きいもの。できていることを褒めるだけで終わってしまう「なれ合いフィードバック」に陥らないように気をつけるのが大切です。こうしたフィードバックはどちらも嫌な気持ちにならずに済むので、気分的には楽ですが、コミュニケータの成長にはつながりません。良い点:改善すべき点=1:2になるように、改善点を積極的に伝えてください。筆者は、これを「愛のフィードバック」と呼んでいます(図2)。

図2 フィードバックのルール


■実践法を具体的に伝える

 最後に、指導内容についても触れておきます。よくあるのが、「○○のスキルが良くなかったので、次から気をつけてください」といった指導ですが、これではどう修正をしたら良いか具体的に理解できません。

 一例を挙げると、例えば早口を課題に抱えているコミュニケータは、とてもわかりやすい課題がゆえに、本人も改善しなければならないことを理解しているにも関わらず、なかなか改善できないということが多いものです。これに対して、「少しスピードが速いですね。スピードが速いと顧客は理解しづらいですし……」と概念的なことを言うだけでは足りません。

 例えば、早口を改善する方法としては、大きく口を開けて話すと改善されます。演劇の練習の「あえいうえおあお」のようなものですが、大きく口を開けると、物理的に速く話すことが難しくなるのです。そのことを伝え、ロールプレイングによって練習を繰り返すことで、どの程度のスピードがちょうど良いのか感覚的に体で体験するというのが一連の流れです。

 このように、実践方法までを伝えることこそが、指導の肝と言えます。コミュニケータに伝える内容を決めたら、課題と解決方法がセットで伝えられるように準備をしてみてください。

 今回ご紹介したポイントはどれも基本的なことですが、コミュニケータの指導上、とても大切な内容です。日常の指導の中にぜひ参考にしていただければと思います。

(コンピューターテレフォニー2011年12月号掲載)

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2024年01月31日 18時11分 公開

2013年02月22日 14時01分 更新

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