千客万来 百鬼夜行 第22回

2026年11月号 <千客万来 百鬼夜行>

多和田 元

コラム

第22回

担当外でこそ試される「接客力」

 いまだにバンド活動を続けている。コロナ禍などでしばらくは休止していたから、今回は久しぶりのライブとなった。2ステージで14曲と少し多めだったが、そこは変わらぬメンバーだけに手慣れたもの。初めて出演したお店だったが、お客様には喜んでもらえたようで、ほっとした。

 今回の最大の課題は機材だった。自前のピアノを用意する必要があったからだ。自宅からかなり離れた都内のお店まで運ばなくてはならない。そもそもピアノはかさばるし、長年使っている古い電子ピアノは、本体だけで重さは20キロ以上。ケースに入れて、スタンドなどを用意したら30キロを軽く超える。それを電車に乗せると周囲の迷惑になってしまう。それ以前に、抱えて階段を上り下りできるかどうかも怪しい。新しいのを買うことを決意した。

 運搬が最大のテーマである。だから、鍵盤の感触にはいささか不満があってもいいのだが、それでも、お客さまに聴いてもらうのだから、ある程度の表現が出来る演奏の感触はなくてはならない。音質も一定以上でなくてはならない。そんな条件と予算から、メモに各社の同じ価格帯のピアノを並べ、そこにインターネットで調べた重量も書き入れて、楽器店に出かけた。

 楽器を演奏される人にはご理解いただけるだろうが、自分の手になじむかどうかはとても重要なポイントだ。ひとつひとつ弾いては、綿密にチェックする。そして、実際に持ち上げて、重さも確かめていく。はたから見れば、何とも怪しげな客だっただろう。ほら、店員さんが寄ってきた。

 「何かお探しですか」と聞かれ、照れながらも、今回の用件を説明した。用意したメモを出して、課題を明確にできたのも良かったかもしれない。その店員さんは名刺をくださり、1時間以上もつきあってくれた。ただ、その日は購入できなかった。性能を取るか、重量を取るかで、最後に2つの候補が残ったためだ。それでも、その店員さんは嫌な顔ひとつしなかった。

 検討してようやく1つに絞り込み、次の休みに購入に行った。いただいた名刺の店員さんをお願いしたが、残念ながらその日はお休みされていた。それで感謝を伝えてほしいと言い添えて購入したが、手元の名刺を見て驚いた。その店員さんは鍵盤楽器ではなく、管楽器の担当だったのである。

 コンタクトセンターでは、専門外の用件を受けることも多い。得意なジャンル、不得意なジャンルもあるだろう。今回のように、通常とは違うニーズを持ってくる場合もある。そんな場合にこそ、お客さまの用件に寄り添い、かといって不要なことは言わず、必要な場合にお手伝いする、というスタンスが大切だ。当たり前のようだが、ワンストップサービスの提供は、ジャンルが多岐にわたるほど難しい。まして、複数の部署や関連会社などにまたがる場合は、どうしても1つの窓口では処理できないことがある。その仕分けが重要なのである。

 今回は、おかげで重量をかなり減らすことが出来て、無事に電車に乗ってステージに向かうことが出来た。近く、あの楽器店に立ち寄って、あの店員さんに、感謝と、ライブの成功をご報告したいと思う。

PROFILE
多和田 元
Receptech代表。報道記者として取材・編集部門を経て、コンタクトセンター部門へ。オペレータ、SV業務と同時にシステムも担当。現場経験を生かした新しいシステムの構築や、カスタマーハラスメント対策などに長年取り組んでいる。

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会員限定2026年10月20日 00時00分 公開

2026年10月20日 00時00分 更新

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