コラム
第165回
「AI」という文字を見ない日がありません。つい最近も、「米IT企業がリリースした生成AIが、有名なベンチマークのほぼすべてにおいて他社の生成AIの能力を大幅に上回った」などのニュースが流れ、さまざまなメディアで取り上げられました。私は仕事上、いくつもの長文を要約したり、英語でメールを送ったりすることも多く、AIの力を借りることがあります。それゆえ、短期間のうちにAIの精度がどんどん向上していることを肌で感じます。例えば、従来は複数の人から提出された評価レポートを1つひとつ読み、内容を確認しながら報告書にまとめていました。評価者はそれぞれ文体が異なるので、すべてのレポートの主旨を把握するのに時間を要していました。しかし今は、生成AIを使うと、多くの人が記載したレポートを見事に統一された文体で読みやすく要約してくれます。そして、要約を確認したあとに、個々のレポートを確認しAIの要約が正しいかもチェックしますが、近ごろはAIに「原文に忠実に」との指示をしているため、間違った要約はほとんどありません。英語でのメールのやりとりも、返信の数が増えてくると、過去の履歴を追うことに時間を要していました。しかし今は、メール画面の上部に「要約する」ボタンがあるので、それを押すだけで大幅に時間を削減できています。翻訳においては、テキストだけではなく音声による翻訳精度も向上していると感じます。
このように、人の能力をサポートする部分で、AIが急速に進化すると、サポート担当者の中には、「将来、自分の仕事がAIに置き換わる」と心配している方も多いと思います。しかし、顧客がサポートセンターに求めるものは、「正しい回答」だけではありません。顧客の悩み事に対する「共感や寄り添い」の姿勢、心のこもった「感謝」や「謝罪」の言葉、質問しやすい雰囲気を作ってくれたり、うまく質問ができない時に、顧客の真のニーズを引き出したりしてくれる対応などに求められる“人間力”です。顧客は人間ですから、年齢や性別など限られた情報だけでパターン化することはできません。感情は刻々と変化しますし、会話の流れの中でニーズも変わります。顧客の微妙な変化をくみ取りながら対応できるのがサポート担当者なのです。これらの人間力は、サポート担当者の一人ひとりが実際に顧客と話す機会を増やし、成功体験や失敗体験を積み上げなければ向上しません。AIは、サポート担当者が顧客と直接話す回数を増せるように支援し、人間力を効率的に鍛えてくれる強力なツールなのです。私の同期入社の社員には、「電話交換手」「和文タイピスト」などの資格をもった人がいましたが、数年で機械化され、その仕事はなくなりました。それは、人の技術や資格に特化した仕事だったからです。人間力を、AIで模倣することはできますが、人の心に響かせることは困難です。サポート担当者の知識をAIが支援してくれる今こそ、「顧客の心をつかみ、ファン化につながる人間力」に着目し、向上させるときです。
2025年12月20日 00時00分 公開
2025年12月20日 00時00分 更新