AfterCall~電話の後で 第163回

2025年11月号 <AfterCall〜電話の後で>

山田祐嗣

コラム

第163回

スマホの機種変更から学ぶ顧客体験の進化
有人サポートを隠すリスクと信頼を守る重要性

 私が利用するスマートフォンの新機種の発売が今年もあり、予約開始日に予約をしました。毎年、予約サイトは、予約開始時間に大混雑し、つながらなくなります。予約システムは改善され続けているようですが、やっとつながってもサイトの動きが悪くなるなどして、ここ数年は発売日に入手できない状況が続いていました。しかし今年は、予約開始後、数分で予約サイトにつながり、動作もスムーズと、新機種を発売日に入手することができました。これに対し、予約の段階から“顧客体験”を意識し、企業が改善努力を続けている結果だと感動すら覚えました。「まずは顧客体験から出発し、そこから技術にさかのぼって考えなくてはいけない。逆ではない」と語っていたスマホ企業の創業者の気持ちは、商品だけではなく、購買手続きの継続的な改善からも伝わってきます。

 さて、最近はアプリを通じてサービスを提供する企業が増えています。旧機種から新機種へのデータ移行では、これらアプリの移行も欠かせません。最近では、技術は進化し、新旧のスマホを並べて待つだけで、すべてのアプリが自動的に新機種へ移行でき、大変便利です。私も、銀行や証券口座、クレジットカード、QRコード決済、SNSなどの各種アプリを利用していますが、これらの多くはハッキング被害を防ぐため、2段階認証などのセキュリティ対策が施されています。対策方法は企業によって異なり、機種変更時に自動的に引き継がれるものと、そうでないものがあります。後者には、買い替え前のスマホで事前準備が必要なものがあり、それを忘れると大変です。実は今回、QRコード決済の準備を忘れたまま、古いスマホを初期化してしまいました。そのアプリは携帯番号に紐づいているため、番号を再設定しない限り使用を継続できません。サポートはチャットボットとFAQしかなく、思うような回答は得られませんでした。そこで、有人のサポートセンターに連絡をしようと試みましたが、いくら調べてもコールセンターの電話番号が見つかりません。そこで最近流行りの生成AIチャットに「当該サービスのコールセンターの電話番号を教えて」と入力したところ、なんと、箇条書きで電話番号が、しかも目的別に出てきました。肝心の修復作業は、確認項目が多く複雑でしたが、有人サポートならではの対応により、無事に新機種へと移行できました。

 最近、問い合わせには、AIチャットやFAQがすべて対応できる前提で、サポート窓口の電話番号の表記をWeb上から消したり、探しにくい場所にする企業が増えています。しかし、AIやFAQが、すべての困りごとに対応できるとは限りません。私の場合は、運よくAIでサポートの電話番号を見つけられました。しかし、多くの場合は解決に至らず、サービスそのものの継続利用を諦める人もいるでしょう。有人サポートをなくしたり、電話番号の表記を隠したりすると、顧客の信頼を失うだけではなく、他社に顧客が移ってしまう恐れがあるので注意が必要です。

PROFILE
山田祐嗣
HDI国際認定資格取得者:HDIイベント、認定トレーニング、格付けベンチマーク、メンバーネットワーキング、実態調査などを通じてサポート業界に価値を提供し、サポートセンターのサービス品質向上および地位向上を目指し活動をしています。

2025年10月20日 00時00分 公開

2025年10月20日 00時00分 更新

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