MentaRest
「感情労働」の代表例とされるコールセンターにおいて、オペレータのメンタルヘルスケアはマネジメントの課題の1つと言える。採用難で人手不足が深刻な現場で、貴重な人材をメンタル不調で失うことは大きな痛手だ。ストレスチェックや1on1でのフォローを定期的に行い、予防に努めるセンターは少なくない。
これに対し、「不調を感じていても、昇給や評価への影響を考えて正直に答えないケースは珍しくありません。また、“素人判断”でのケアは、反対に悪化させてしまうリスクもあります」と指摘するのは、MentaRest 代表取締役 CEOの飯野航平氏だ。体温や血圧のように可視化が難しいことから、不調に気が付くことが遅れるケースも少なくない。飯野氏は、「“ただの甘えなのではないのか”のような漠然とした不安や恐怖心から、不調の申告や受診をためらってしまう傾向が強いです」と説明する。
心療内科や心理カウンセリングといった専門機関を受診するハードルも高い。飯野氏自身も、過去にメンタル不調に陥った際に、それを体感している。そこで、インターネット上の顔が見えないコミュニケーションがもたらす自己開示の促進効果に着目。メタバース上でアバターカウンセリングなどを提供する法人向けサービス『MentaRest』の開発に至った。
MentaRestは、同社顧問の精神科医、所属する臨床心理士や公認心理師約40人によるカウンセリングを受けられる。企業に月単位で付与されるチケット数の範囲で、従業員個人が自由に予約して利用できる。企業には、「利用人数」「新規/リピート利用」「属性」「感想」といったデータを提供。メンタルヘルスケアに関する施策の立案、改善を支援する。利用者が希望した場合は、個人を特定した報告を行う。これにより、労働時間の調整を提案した例もある。
メタバース空間では、カウンセリングのほか、メンタル不調の未然予防を目的としたセルフケアプログラムやコーチング、ミニゲームなどのコンテンツを利用することも可能。「気軽にメタバースに“訪れる”仕掛けづくりにも注力しています」(飯野氏)。ミニゲームで息抜きしながらカウンセリングに行くかどうかを決めるような世界を目指しているという。
通常、企業の相談窓口の利用率は従業員数の1%未満だが、MentaRestは導入直後で平均2%〜3%、うまく活用している企業は10%を超えるという。将来的には、生成AIを活用した一次カウンセリングなど、利用ハードルをさらに下げる機能を実装する方針。飯野氏は、「予期せぬメンタル不調で仕事を失う人を減らしていきたい」と展望を語った。
2024年07月20日 00時00分 公開
2024年07月20日 00時00分 更新