「欲しがらせる」のではなく「成長を促す」
リピートを生む“遊び方”の提案
「さいとうさん、あそぼー!」
東京・原宿駅から徒歩10分ほどに位置するボーネルンド本店の日常は、元気な子どもの声にあふれている。同店は、世界15カ国から集めた遊び道具やベビー用品などを販売しており、毎日のように“子どもが親(保護者)を連れて”やってくる。「子どもたちの多くは近隣の幼稚園や保育園に通っていて、その帰りに顔を出しにきてくれています」。そう話すのは、店長の齋藤 廉さんだ。冒頭のように、遊び相手によく“指名”される。
子どもは、来店するやいなや、売り場のなかに設置されている「あそび場」にある遊び道具を手にとって遊び始める。齋藤さんをはじめ、店舗スタッフは遊びに加わったり、親子に遊び道具の使い方を教える。店内にはカフェスペースも併設されているため、親は子どもを見守りながらゆったりと過ごすことができる。2〜3時間滞在する親子も少なくない。
嗜好や発達に合わせて
提案をカスタマイズ
「親子の滞在時間=商機」だが、齋藤さんは「成長を促す“遊び方”を提案する時間」と捉え、売り場に出ている時間の多くを子どもや親との会話に費やしている。齋藤さんは、「遊び道具は、子どもにとっては生活の一部であり、発達を助けるもの」と強調する。提案は、成長を促すことを目的に行い、固定観念にとらわれないことを心掛けている。
例えば、以前、おままごとセットで楽しそうに遊んでいる2歳の男の子のそばで、「男の子なのに」と心配している母親から、別の“男の子向け”の遊び道具の提案を依頼された。齋藤さんは、「おままごとは、性別に関係なく社会性が身につく遊びですよ」と、成長の可能性に焦点を当てて説明。安心した母親は、男の子の「欲しい」という意思表示を受け、おままごとセットの購入を決めた。
一方、子どもに対しては、一緒に遊ぶなかで、遊び方の幅を広げる提案を積極的に行っている。例えば、八角形の透過性のある色付きブロックは、組み立てる以外に、ブロックを重ねて「赤と青を重ねる(混ぜる)と紫になる」といった色彩遊びもできる。水に浮かべれば、日光や室内灯の光の反射を楽しむことができる。
齋藤さんは、「遊び方次第で、さまざまな発達のサポートが可能です。遊び方が決まっていないシンプルな商品こそ、提案の余地があります」と意欲をみせる。遊び方にバリエーションが出ることで、購入後に長く使ってもらえる可能性も高まる。
齋藤さん個人を遊びに誘う“リピーター”の多さは、提案が子どもの嗜好や発達状況に合っていたことの証と言える。「お子さまが再来店した際、“(遊び道具を使って)こんなことができるようになったよ!”と笑顔で報告してくれる瞬間にやりがいを感じています」(齋藤さん)。
親のココロを軽くする
会話と「場」の提供
このように、齋藤さんのお店は単に「おもちゃを買える場所」というだけではなく、「子どもの成長を一緒に見守ってくれる場所」でもある。同店に信頼を寄せる親から、「同じ月齢の子と比べて発達が遅い気がする」といった育児の相談を受けることもある。一定の年齢に達すると発達の差が埋まっているケースは多いが、それでも我が子の成長に一喜一憂してしまうのが親ゴコロだ。齋藤さんは、多くの子どもと向き合ってきた経験をもとに、悩む親に寄り添った言葉を掛け、時には発達を促す遊び方をアドバイスする。「親御さんの心身の状態は、子どもの生育環境に直結します。話すことで、少しでもお悩みを軽くするご支援ができたら」と、齋藤さんは述べる。親が悩みや困りごとを共有する場として、イベントの整備にも着手。現在、1歳を迎える子どもの合同誕生日会「はじめてのお誕生日会」を1カ月に2回開催し、同月齢の親子の交流を支援している。
そんな齋藤さんは、今春1児の父親になる予定だ。我が子の育児を経験することで、持ち前の提案力に磨きがかかることが期待される。
会員限定2024年03月20日 00時00分 公開
2024年03月20日 00時00分 更新