藤島 誓也 

本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ 第10回

カスタマーサクセスを俯瞰し役割・スキルを整理する

Trend 連載

カスタマーサクセスは営業の一部!?
違いを俯瞰し役割・スキルを整理する

これまでの連載でカスタマーサクセスとカスタマーサポートと交わりや違いについて説明した。今回は、「カスタマーサクセス」と「営業」との相違点を取り上げる。従来、カスタマーサクセスが担う契約更新や契約拡大業務は、営業職が担ってきた。しかし、カスタマーサクセスはこうした従来の営業業務以外の仕事が発生しているように見える。両者の違いから検証する。

藤島 誓也
Writer
openpage 代表取締役
藤島 誓也
東大ベンチャー、大手出版社と共同でコンテンツマーケティング製品を推進。その後、ビズリーチにてCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームを立ち上げる。2018年、SaaSスタートアップから大手SI企業まで米国流のデジタルカスタマーサクセスの導入を支援するopenpageを設立、伊藤忠テクノロジーベンチャーズより資金調達する。note、Twitter、YouTubeでカスタマーサクセスの最先端情報を発信している。

 カスタマーサクセスは、Salesforceの法人営業部門を立ち上げた、初期の営業幹部であるデイビッド・ルドニツキー氏の営業スタイルが影響しているとされる。ルドニツキー氏はSalesforceのCEO、マーク・ベニオフ氏が幹部として採用した営業のプロフェッショナルのひとりだ。彼は1回の商談で大きな契約金額を獲得するのではなく、早期に商談を締結させて受注後に契約額を拡大するスタイルを採用した。その分、商談期間を短縮し、契約後の関係構築でトータルの売上額を拡大するほうが長期的、経営的によいと考えたのだ。この「受注後の取り組みで契約を拡大させる」のがいわゆる『カスタマーサクセス』の業務の原型だ。

 このほか、ルドニツキー氏は「営業活動をチームで行う方法論」をSalesforce社に導入した。いわゆる「THE MODEL」である。従来、「営業」とひとくくりにされてきた活動を細かく分業し、担当を分けることで効率化を図ったのだ。つまり「マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセス」と、ファネル(漏斗)のイメージで営業工程ごとに異なる役割の職種を作ったのだ。

 このように、歴史を振り返ってみてみると、カスタマーサクセスは営業活動の工程の一部を分業化してきたものだと分かる。これがカスタマーサクセスと営業、カスタマーサポートの違いを明確にするうえで外せないポイントとなる。

インサイド/フィールドセールス・カスタマーサクセス

 一方、従来広く「営業」として捉えられてきた業務内容は、狭義の活動へと認識が変化しつつある。具体的には、インサイドセールスとフィールドセールスのような顧客提案に特化して分業された職種を「営業職」と考える見方が進みつつある。

 インサイドセールスとは、商談化を図るための架電営業を主に指す。その業務内容は、自社が保有する連絡先リストに対して電話で連絡を行い、自社との商談機会を創出する。この創出の数を目標としている。そしてフィールドセールスは、インサイドセールスによって商談化された案件を受け、顧客との折衝を行い、受注するための営業を行う。昨今では、この2つを営業職として捉える考え方のほうが多い。

 カスタマーサクセスは、このフィールドセールスの後の工程を担っている。もちろん、受注した案件の契約を維持・拡大するための営業活動であり、営業的な名称をつけるとすれば、エクスパンション(契約拡大)営業とも言える。ただし、その業務内容は契約拡大のための営業提案活動だけではないため、「営業職」といい切るのがやや難しい。例えば、契約拡大のための提案とは別に、受注後の顧客からの問い合わせに対応するカスタマーサポート業務や、製品導入による業務改善のコンサルティング・プロジェクトマネジメントのような業務もカスタマーサクセス業務である。営業職経験者が多いが、さまざまなカスタマーサクセス部門を見る限り、現状では営業経験者だけの組織にはなっていない。

 openpageが展開するカスタマーサクセス支援業務でコンサルティングを行うカスタマーサクセス組織は、営業職・カスタマーサポート職・コンサルティング/プロジェクトマネジメント職の経験者が混在しているケースが多い。カスタマーサクセス自体、国内で登場したのは2010年代後半であるため未経験者が中心ではあるものの、業務範囲が類似する職種の経験者が集まっている。

カスタマーサクセスの目標指標はNRR

 カスタマーサクセスは、コストセンターではなくプロフィットセンターとして捉えて投資をなされなければならない。現在、米国を中心に普及しているカスタマーサクセスの業績指標は「NRR(売上継続率)」で、昨年契約した顧客の売り上げが1年後にどのようになっているのかを見るものだ。例えば、昨年の売り上げが1億円で、同じ顧客の今年の売り上げが7000万円であったとするなら、NRRは70%となる。既存顧客への営業提案の成否がNRRを左右する。

 カスタマーサクセスの主な役割は、このNRRを100%以上に保つことだ。例えばNRRが120%であれば、既存顧客のみで毎年+20%の売り上げが増え続けることになる。分かりやすい好事例はZoomで、NRRが120%以上ある企業として注目されている。Zoomを契約した顧客は、契約後に他部門での利用やウェビナーオプションなどの利用が進み、毎年、売り上げが向上し続ける仕組みができている。

 このNRRを高く保つのが、バケツの穴をふさぐこと。つまり解約阻止だ。顧客の利用をサポートしながら営業提案を行い、契約金額の拡大を狙う。つまり、カスタマーサクセス職種とは営業の要素が強く、契約金額を高めていくための提案を行う一方で、非営業的なカスタマーサポートやコンサルティングが融合されている。

 営業職からカスタマーサクセスに異動する場合は、カスタマーサポートやコンサルティングのスキルセット獲得が必要になる。営業職とカスタマーサクセス職の親和性はあるが、両者は同じものではなく、実態としては業務内容がやや異なるものと考えたほうがよい。

図 カスタマーサクセス登場以前と現在の違い

図 カスタマーサクセス登場以前と現在の違い

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(2023年8月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年07月20日 00時00分 更新

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