藤島 誓也 

本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ 第9回

CS従事者が持つべき「起業家マインド」

Trend 連載

製品開発からマネタイズまで考える!
CS従事者が持つべき「起業家マインド」

カスタマーサポートやカスタマーサクセス(CS)を「自社のコア業務」と捉え、戦略部門としている経営者は決して多くはない。目に見える成果(売り上げ)をもたらす営業部門や、新規獲得に貢献するマーケティング部門ほど重視されていないのが現状だ。9回目となる今回は、CS部門が企業の「コア」「軸」になるためのポイントを検証する。

藤島 誓也
Writer
openpage 代表取締役
藤島 誓也
東大ベンチャー、大手出版社と共同でコンテンツマーケティング製品を推進。その後、ビズリーチにてCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームを立ち上げる。2018年、SaaSスタートアップから大手SI企業まで米国流のデジタルカスタマーサクセスの導入を支援するopenpageを設立、伊藤忠テクノロジーベンチャーズより資金調達する。note、Twitter、YouTubeでカスタマーサクセスの最先端情報を発信している。

 「CS(カスタマーサポート、カスタマーサクセス)部門は会社のコア」と断言する経営者はまだ少ない。経営者に「CS出身者」が少ないという事情もあるだろうが、より売り上げに直結する営業部門の強化に投資するのは当然でもある。逆に言えば、CS部門への積極投資は優位性を獲得できる。実際、カスタマーサポートを重視し、喧伝した米国の通販会社にザッポスがある。同社は、経営戦略としてCS部門のポジショニングを強化することで差別化を図った。同社のようにCSが企業のコアになるには、既存顧客の売り上げを「本当に」伸ばす必要がある。

 既存顧客の売り上げが伸びれば、ユニットエコノミクスや営業利益率の改善に大きく寄与できる。結果的に新規顧客の獲得コストが減り、広告宣伝費や営業人件費を節約できる。これを実現するには、既存顧客に対する製品やソリューション設計、コミュニケーションを見直したうえでの価格戦略が重要になる。「CSが重要」が、「LTV」や「顧客満足」として捉えられることもあるが、たとえ新規顧客を獲得しなくても収益を伸ばすレベルに達する、既存顧客の売り上げ拡大が重要だ。

カスタマージャーニー延長・拡張で
売り上げの最大化を図る

 その一歩は、カスタマージャーニーを「カスタマーサクセス(既存顧客の売り上げ伸長)」まで意識して描くことだ。一般的なカスタマージャーニーは顧客獲得をゴールとし、バリューチェーンおよび対応する組織も顧客獲得段階でぶつ切りになっている傾向が強い。既存顧客の売り上げ最大化までのカスタマージャーニーを描き、CS部門がそのカスタマージャーニーを追いかけるアクションを担うことで財務に貢献できる。例えば、オンボーディング(製品の利用し始め)や、クロスセル・アップセルを意識したトークスクリプト設計、その成果をKPIとして設定する。ある大手通信会社は、カスタマーサポート部門に「オンボーディングチーム」と「セールスパスチーム」を設置。会員の初期オンボーディングをアウトバウンドでフォローする役割と、オンボーディング後の顧客に別製品をおすすめする役割に分けている。能動的にアプローチする役割をコールセンター内に設置することで、売り上げ拡大までのカスタマージャーニーをトラッキングできる。カスタマーサポートにアクセスの役割に持たせる業務がアドオンされる。

 そのほか、既存顧客との接客やコミュニケーション経験を活かして、「新しいカスタマージャーニー」を作るという発想もある。つまり、CS部門が「このようなユースケースでも使える」「こういった属性や嗜好を持つお客様にもニーズがある」「こんな場合でも満足させられる」と、これまで提供していたメインの顧客層やソリューションとは異なる提案をするということだ。

 このCS部門の声をヒントに、製品開発と営業やマーケティング部門、そのプロセスを調整し直すことで、自社の事業の「TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)」を再定義できる。例えば、20代の男性スポーツマンを狙っていた製品が、実は40代女性の美容にも受け入れられているとCS部門が先に気づけば、新しい対象顧客に対する製品開発やマーケティングメッセージの見直しで売り上げを高めることができる。また、市場を拡大した後の反応をCS部門が捉え、社内にフィードバックをすれば、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の担い手になることもできる。CS部門が、自社の事業の「TAMの拡大」と「PMF」を担うのならば、それはまさに企業の「コア」といえるだろう。

 このようにCS部門の従事者には、「起業家マインド」が求められる。起業家マインドとは、経営者のように製品開発から顧客提供、マネタイズまでを一貫して考えられる思考のことだ。製品を改善することでマーケットにおける自社製品/サービスのポテンシャルを高め、機能、ニーズ、提案で対象を拡張していく。そのうえで社内フィードバックを実践し、事業開発を加速する。経営に影響のある取り組みをCS担当者が起業家マインドを持って動けている企業は強い。既存顧客の声(VOC)の担い手として新しいマーケット開拓のヒント、新規顧客獲得、売り上げのネタを考える。単なる思いつきではなく、顧客を起点に経営アクションを推進できる。これは高い競争優位性を示すことになるだろう。

経営観点を持ちサクセスの
売上貢献の手法を探る

 CS部門が企業コアになるには、売り上げに貢献しなければならない。なかには、「CSは営業ではない」「CS部門は顧客満足のためにある」という意見もあるが、経営観点で考えれば売り上げ貢献は必然だ。新規獲得が難しい今、売り上げを最大化するには、効果的なオンボーディングと提案──顧客がもっと費用を支払いたくなる要素が必須といえる。CS部門は、これを実践してはじめて「プロフィットセンター」になりうる。これらのコミュニケーションスキルを持つカスタマーサクセスの対応および提案内容を社内で「翻訳」し、カスタマーサポートに取り入れることで、より売り上げに貢献するCS組織を築くことができるだろう。

図 CS部門がコアの役割を果たす方法

図 CS部門がコアの役割を果たす方法

(2023年7月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

2024年01月31日 18時11分 公開

2023年06月20日 00時00分 更新

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