「カスタマーサクセス」のリソースマネジメント 第2回
前回は、カスタマーサクセス領域におけるBPOの利用価値や、その恩恵について解説した。しかし、実際には「BPOを導入するのは不安」「CSの業務品質が下がるのではないか」という声も多く、導入をためらう企業は少なくない。そこで第2回では、BPOが敬遠される主な理由を整理し、それらの懸念を乗り越えられる「適切なパートナーの選定ポイント」について詳しく解説する。
カスタマーサクセス(CS)においてBPOが敬遠されるには、概ね、3つの理由がある。1つひとつ解説する。
1. CS業務の品質が下がる
「CSは自社にとってコア業務」という認識が強いSaaS企業では、とくに品質低下への懸念が大きい傾向がある。
公開されている事例不足もあって、外部にCS業務を委託するイメージを具体的に持ちづらく「本当に顧客との良好な関係を保てるのか?」という疑問が生じることも多い。
2. コスト効率が見えにくい
CSのKPIは、解約抑止・アップセル/クロスセル・顧客満足度向上・業務工数削減など、多岐にわたる。さらに、いずれも成果が出るまでに時間を要するものが多いため、BPOに支払うコストがどの程度のリターンに繋がるかが分かりにくい。
3. セキュリティとプライバシーのリスク
CS業務では、顧客の個人情報や製品利用状況など、機密性の高いデータを扱うことが多い。特に外部委託となると、(1)どこまでの情報を共有してよいのか、(2)外注先が情報漏えい対策をしっかり行っているか──といったリスク面が企業の不安要素となる。
BPOを導入する際には、情報の取り扱い範囲や権限レベル、セキュリティポリシーの整合性を慎重に精査する必要がある。
上記の懸念を払拭し、実際にBPOベンダーを活用して成果を出すには、信頼できるパートナー選定が欠かせない。ここでは、3つの重要な視点を取り上げたい。
1. 初期の要件定義・業務設計の品質
CS業務は領域が広く、企業によって進め方や重視するKPIが異なる。そこで、BPOを成功させるためには、次の点を重視したい。
●KPI設計(解約率、アップセル率、顧客満足度など)
●業務範囲と分担(社内と外部それぞれがどの領域を担当するか)
●運用スケジュール(業務設計〜運用開始の流れ、ROIの計測タイミングなど)
●セキュリティ対応(個人情報の取り扱い)
こういった初期設計があいまいなままでは、「想定していた成果が得られない」「品質が下がった」といった事態を招きやすい。外注先選定の段階で、要件定義や業務設計について具体的かつ実務的な提案力を見極めることが重要だ。
2. 業界・業務内容に応じて、ベンダーの“得意”を考慮する
BPOベンダーといっても、各社の得意領域は異なる。CS業務の場合でも、次のような分類が可能だ。
●業務範囲別
CS BPOに向けた業務設計から始めたい→コンサル系BPOベンダー
CS BPOの実務を依頼したい→オペレーション系BPOベンダー
●業務内容別
カスタマーサポート/機能設定をBPOしたい→サポート特化型BPOベンダー
既存顧客からのアポ獲得・アップセル支援をBPOしたい→インサイドセールスや営業特化型BPOベンダー
既存顧客向けのメルマガ・コンテンツ作成をBPOしたい→マーケ・コンテンツ特化型BPOベンダー
このように、それぞれ専門分野や成功事例を多く持つベンダーが存在する。自社が委託したい業務内容、重視したいKPIとの相性を見極めることで、より高い費用対効果を実現しやすくなる。
3. 長期で費用対効果を見極める
スタートアップの初期フェーズではオンボーディング支援や問い合わせ対応が中心だったものが、顧客数が増えてくるとアップセル施策や新機能・サービス開発などが重視されるように、CSの役割は事業フェーズによって変化する。こうした事業フェーズの変化に合わせて、BPOの業務範囲を段階的に広げたり、運用をアップデートしていけるかは、最終的なROI(投資対効果)に大きく影響する。
CS業務の設計から支援を受ける場合は、フェーズ移行時のオペレーション更新に柔軟に対応してくれるか、自走して追加提案をしてくれる体制がある、といった視点でベンダーを選ぶことで、長期的なコストパフォーマンスが向上する。一方で、すでに業務が定型化されていて「安価・短期で実行できればOK」という場合は、コストを抑えた短期導入を得意とするBPOを選ぶ方がよい場合もある。自社のCS業務が変動的か固定的かを見極め、最適なBPOを選定することが重要だ。
CS業務を内製するリソースが足りない、あるいは変動費化によるリスクマネジメントを重視したい企業にとって、BPOは強力な選択肢だ。次回は、CS BPO活用の際に直面しがちな課題や委託後の運用ポイントなどを解説していく。
(月刊「コールセンタージャパン」2025年7月号 掲載)
2025年06月20日 00時00分 公開
2025年06月20日 00時00分 更新