「カスタマーサクセス」のリソースマネジメント 第1回
カスタマーサクセス(CS)の重要性が急速に高まっている昨今、企業が自社のリソースを最大限に活用するために、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)を活用する動きが注目されている。しかし採用難、人手不足に悩まされ、機能不全に陥っている組織──とくに成長期にあるSaaS企業など──ほど、BPOに抵抗を感じる傾向もある。CSビジネスを展開、BPO市場をリードする著者が活用のメリット、課題を検証する。
採用難、人手不足に陥っているのは、コールセンターやカスタマーサポートだけではない。カスタマーサクセス(CS)領域もまた、その深刻さは同様か、それ以上といってもよい。
とくにSaaS業界をはじめとしたサブスクリプションビジネスにおいては、顧客との長期的な関係構築が事業成長のカギを握るため、CSの役割は広範囲になりつつある。しかし、一方で採用難や急速な市場変化に対応するための迅速なリソース確保は極めて大きな課題だ。連載第1回では、なぜCS領域でBPOが有効か、その「利用価値」に焦点を当てる。
企業がCS領域でBPOを導入する大きな利点のひとつは、必要な人材・スキルを迅速に調達できる点だ。
CS業務は、顧客対応やオンボーディング支援、アップセル施策など多岐にわたる。これらをすべて内製するためには、(1)希少性の高いCS適性のある人材の継続採用、(2)社内での教育制度構築、(3)業務効率化ツールやマニュアル作成などのサポート体制構築──が必要となり、多くの時間と投資もいる。
現在のように、CSの立ち上げ経験者を潤沢に採用することが難しい状況下では、限られた期間で十分な規模のチームを作り上げることは困難だ。BPOを活用すれば、こうした採用リードタイムを大幅に削減し、スピーディーに事業成長の速度に合わせたリソースの確保を期待できる。
2つめの大きなメリットと考えられるのが「(人件費の)変動費化によるリスク低減」だ。近年、生成AIなどの技術発展により、導入初期の機能説明や問い合わせ対応など、特定のCS業務は自動化されていくという予測が一般的になってきた。実際にチャットボットを用いた一次対応の自動化や、顧客データを元にしたデータ分析の示唆など、一部の業務については既に効率化・自動化が始まっている。
こういった状況下で、自社内ですべてのCS業務を運用し続けるのはリスクが高い。プロダクトや生成AIの進化により、CS業務にかかる工数が激減する、あるいは急速な市場変化で組織体制を一新しなければならなくなる可能性が高まるからだ。
BPOを利用することで、業務プロセスのコア領域以外のCS業務にかかる人件費や運用コストを“変動費”として扱いやすくなり、不測の事態があっても柔軟にリソース配分を見直すことができる。これにより、企業としては大規模な固定費を抱えるリスクを最小化しつつ、時流に合わせた運営が可能になる。
また、目まぐるしいスピードで進化していく生成AIのトレンドを常にキャッチアップしながら、プロダクト/サービスの開発と並行してCS業務の効率化・自動化を推進していくことも、マネジメントにとっては困難を極める。そういった中で、ITツールや生成AIの動向を追いながら、CS業務の効率化・自動化を推進できるBPOベンダーと連携することも有効な手段だ。
CS部門には、多くの定型業務(顧客データの整理・問い合わせ対応など)と同時に、売り上げにつながる戦略的な業務(アップセル/クロスセル施策の立案や、新サービスの開発・提案など)が存在する。BPOを活用すれば、定型的なタスクや大規模展開するオペレーションを外部の専門家に委託し、社内リソースはより“攻め”の施策に集中できる。これによって、CS部門の生産性を高め、アップセルや新規サービスの開発など、企業成長につながる活動に注力しやすくなる。
しかし、とくにSaaS業界では、「CSは事業のコアだ」という認知が広まっているからこそ、BPOへの抵抗感が根強い。
CS業務の中にはさまざまな業務があり、オペレーションが整理されていないゆえに、“なんとなく”不安に感じられているケースもある。ひと括りに「CSにBPOは不向き」と考えてしまうのはもったいない。
早期にCS BPOを導入している企業では、従業員がより生産性の高いCS業務に集中できるため、CSキャリアを形成する上でも有利に働き、結果、採用力強化にも繋がっている。市場の黎明期だからこそ、早期に導入した企業は先んじて最適化されたリソースマネジメントを構築し、企業として大きな優位性を得ることができるだろう。
第2回では、CS BPOの利用を敬遠してしまう主な理由と、その懸念を払拭するための考え方をさらに掘り下げる。
(月刊「コールセンタージャパン」2025年6月号 掲載)
2025年05月20日 00時00分 公開
2025年05月20日 00時00分 更新