白塚 湧士 第2回

本誌記事 寄稿 サポートからサクセスへの役割シフト 第2回

プロフィットセンターへのシフト
乗り越えるべき3つのハードル

カスタマーサポートからカスタマーサクセスへ変化するメリットは大きい。前回は、市場の変化に伴うカスタマーサポートに求められる変化と、カスタマーサクセスへのシフトによって何が変わるのかを説明した。今回は、カスタマーサクセスへのシフトによって生まれる具体的なメリットと乗り越えるべきハードルについて解説する。

白塚 湧士
Writer
KOMMONS 代表
白塚 湧士
1996年生まれ。京都大学を卒業後、三井物産に入社。CX領域の事業投資チームにてカスタマーサクセス・サポート領域の出資先との新規事業に従事。コールセンター事業会社に出向し、テクニカルサポートチームのマネージャー業務に従事。2020年に退職後、スタートアップでのカスタマーサクセスチーム立ち上げを経て、21年4月にKOMMONSを創業。

 前回は、市場の変化に伴い求められるカスタマーサポートからカスタマーサクセスへのシフトと、それにより生じる変化について解説した。今回は、このシフトにより生じる具体的なメリットと、シフトしていくにあたってどのような障壁が出てくるかを解説する。

 カスタマーサクセスへのシフトによるメリットの一つとして、継続率や既存顧客向けの売上向上による利益貢献が挙げられる。具体的な活動としては、解約や離反のリスクがある顧客に対する「基本操作のレクチャー」や、ロイヤル顧客への「利用促進強化」などが行われることが多い。こうした活動を通して、継続率の向上や既存顧客の売上向上につながっていくことが期待できる。これらはカスタマーサクセスを立ち上げる目的の中で最も多く挙げられる項目だ。

プロアクティブ支援で
問い合わせ工数を削減

 カスタマーサクセスの能動的な支援は、問い合わせ工数の削減にもつながるケースがある。コールセンターではパレートの法則どおり、問い合わせ内容の上位20〜30%が問い合わせ全体の70〜80%を占めるケースが多い。そうした「よくある問い合わせ」は、書類やWebサイトなどで掲載していても顧客が見つけられずに問い合わせにつながる場合が多い。こうした内容をメールや画面ポップアップ機能などを通して能動的に企業側から情報提供することで、問い合わせ削減につながるケースもある。

 VOC分析についても、対象が変わると異なる結果が出る()。カスタマーサポートは入電した問い合わせをVOCとするが、カスタマーサクセスが行う能動的な支援で得られるVOCは、「問い合わせをせずに離反する顧客」、いわゆるサイレントカスタマーの声も収集できる。このため、新規事業につながる発見や改善点を把握することができ、より深い顧客ニーズを把握できる。また、特定の顧客に絞った声を集めることができるため、「既存製品では解決できない課題」や「既存製品で解決している想定外の課題」に関する情報を得ることができる。新規事業開発にも活用できる情報を集めることができる点は、「既存製品を活用できずに困っている顧客」のVOCが中心となるサポートとの違いでもある。

図 カスタマーサクセスとカスタマーサポートのVOCの質の違い
図 カスタマーサクセスとカスタマーサポートのVOCの質の違い

“継続的”コミュニケーションが前提
サポートとは異なる「データ」の活用

 カスタマーサクセスの取り組みをはじめるにあたり、最初に考えなくてはならないのが自社のカスタマーサクセスの目的定義だ。「どの顧客に何を提供するか」を自社で選択し、何を目的として取り組みを行うか決めたうえで、どのような顧客にどのような支援を行うかを検討する。

 ここでハードルとなるのが「データ」活用だ。カスタマーサポートとカスタマーサクセスでは蓄積するデータが異なる。カスタマーサポートで活用される購買履歴や対応履歴などのデータは、問い合わせ対応の効率化や品質向上に活用されるものだ。また、顧客からの問い合わせにオペレーターが対応できた割合「応答率」、全体のコール数のうち対応できなかった割合「放棄呼率(放棄率)」などで応対品質を、オペレーターの「平均通話時間(ATT)」や通話終了後の後処理にかかる「平均後処理時間(ACW)」などで運用管理を行う。このため、1件ごとの問い合わせに対して、カテゴリや対応時間、担当者情報が蓄積される。

 これに対してカスタマーサクセスでは、1社(1名)ごとの顧客に製品活用度や支援ニーズの有無、利用目的などの情報が付加され、顧客軸でのデータが必要となる。加えて、目的に合わせて蓄積するデータを決め、データの取り方まで設計する必要がある。例えば、客単価が上位10%の顧客の継続率を1%向上させる場合、客単価以外に「継続見込み」が必要となる(どのような状態の顧客が継続見込みが高いのか別途定義し、メンバーで評価する必要がある)。このほか、3カ月以内の支援有無から解約理由として「支援していない」ことが原因であるかを絞り込むことが可能となる。目的に沿って必要なデータを定義し、取得方法を定めることとなる。

 次に行うのが担当者のマインドチェンジだ。カスタマーサポートにおける理想の対応は、コンシェルジュのように「迅速かつ正確に、顧客の質問に対する回答を提供する」ことだ。カスタマーサクセスでは顧客の目的に対して活用の進め方が適切かを一緒に考える家庭教師のような関わり方が求められる。ゴールや課題など、顧客を知ることが欠かせない。コミュニケーションを通じて顧客をよく知り、顧客にメリットがある情報を提供し、ともに目的を達成するパートナーとなる必要がある。

 カスタマーサポートからカスタマーサクセスへのシフトによるメリットと乗り越えるべきハードルについて解説した。両者の業務は類似する部分も多く、カスタマーサポートに関わる方々の能力を活用する余地も非常に大きい。今後、カスタマーサクセスのメリットを取り込むカスタマーサポートは増えていく可能性は大きい。

(月刊「コールセンタージャパン」2024年5月号 掲載)

2024年04月20日 00時00分 公開

2024年04月20日 00時00分 更新

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