いい生活
不動産市場向けSaaSを開発・提供する不動産テック企業「いい生活」。カスタマーサクセス本部では通常の顧客対応を行う「守り」の部分に終始せず、頻度の高い問い合わせをもとにQ&Aを作成、サポートサイトに追加するほか、サービス自体の改善に向けて社内他部門にVOC(顧客の声)をフィードバックするなど「攻め」の施策に注力している。
「テクノロジーと心で、たくさんのいい生活を」というミッションの実現に向け、「心地いいくらしが循環する、社会のしくみをつくる」というビジョンを掲げる「いい生活」。市場規模約60兆円とされる巨大な不動産市場において、不動産事業者にとっての経営課題を解決するシステム・アプリケーションを企画・開発している。問い合わせ対応では、不動産業に関わる専門用語が飛び交うため、顧客応対に携わるスタッフには豊富な知識と経験が求められる。
同社は、2023年9月にCS本部を「カスタマーサクセス本部」に改称し、組織のミッションを明確化。その中に「顧客サポート部」「カスタマーサクセス部」「契約管理部」を設置(図)。顧客サポート部は、通常の問い合わせ業務を担う「サポートチーム」が13名、技術的に難易度の高い問い合わせに対応する「テクニカルサポートチーム」が2名所属している。カスタマーサクセス部には、各製品のスタートアップガイドといったWebマニュアルの作成・管理、製品サポートサイトの運営、一斉メールの送信など、テックタッチ領域に特化した「コンテンツ作成チーム」を設置。オンボーディング支援は、より営業部門に近い「導入本部」が別途担当し、ユーザー企業の運用が定着した段階でカスタマーサクセス本部に引き継ぐ。
カスタマーサクセス本部 本部長の植木美香氏は運営方針について、「日頃からお客様の自己解決を促すコンテンツの発信やプロダクトへのフィードバックを通じて呼量削減を図ることで、これまで以上にプロアクティブな提案活動に多く時間を割けるようにしていく意識が大切」と強調。より良い提案に向け、VOCの収集と活用に力を入れている。
問い合わせの8割を占める電話対応は、リンクのクラウド型CTI/コールセンターシステム「BIZTEL」を活用し、通話内容を書き起こして管理している。重要なVOCはエンジニアに共有。業務の引き継ぎはCRMシステム「Zoho」を駆使し、ユーザーがシステムの導入を決定してから定着に至るまでの進捗状況の把握などに役立てている。
また、クラウドサーカスのCSマネジメントツール「Fullstar」を活用し、サイトのUI/UX改善を進めている。ノーコードで画面上に操作ガイドを設置できるほか、新機能など広く知れ渡ってほしいコンテンツをポップアップバナーとして設置することも可能だ。
BCPの一環として各支店(大阪・名古屋・福岡)にもスタッフを配置したが、2023年からは東京以外の支店に在籍するメンバーの研修も東京本社に集約。対象者は東京に2カ月程度滞在し、オペレーション業務の習得に加え、開発・営業部門と積極的にコミュニケーションをとっていくことで、良好な信頼関係を築く場として機能している。植木氏は、「各支店の営業担当者と気軽にやり取りできる環境をつくることで、『情報共有がスムーズになった』『安心感がある』との声が届いたため、各支店に少なくとも1人はCS担当者を配備する体制に見直しました」と説明する。
VOC共有は定例会議や月次報告を行うほか、日常業務の一部としても組み込んでいる。社内コミュニケーションツール「Slack」を通してリアルタイムにユーザーからのフィードバックを共有していくことで、他部門から「もっと詳しく聞きたい」「改善を喜んでもらえたことが分かって嬉しい」といったポジティブな反応が生まれるようになった。一般的にVOCの共有は、問題箇所の指摘となるために他部門からは反発が起こりがちだが、同社カスタマーサクセス本部では「前向きな声を広く発信していくことが第一」と捉えており、各担当者のモチベーション喚起につながっている。植木氏は、「日々のやり取りを通じて、エンジニアと信頼関係を築くことにより、例えば、システムに問題が生じた場合も社内エンジニアに率先して取り組んでもらえるような協力体制の“土台”にもつながっています。VOCは問題提起だけでなく、『アップデートによってさらに使いやすくなりました』といった、お客様から高い評価を得ている箇所を優先して他部門に届けるよう努めています」と説明する。
カスタマーサクセス本部では、本人の希望や特性に応じたキャリア形成にも前向きに取り組んでいる。スタッフのポテンシャルと意欲を考慮し、すでにカスタマーサクセス本部から商品企画部に3名が異動。今後は、UI/UXデザインや品質保証部門にも人材を輩出していきたい考えだ。「カスタマーサクセス本部での仕事は、業務知識とお客様視点の両方が培われるため、社内どの部署に配置転換されても大いに活躍できるでしょう」(植木氏)。カスタマーサクセス本部が顧客と直に接する唯一の部署として社内に広く認知され、同社の製品開発・改善の一翼として高い成果を発揮している好例といえる。
(月刊「コールセンタージャパン」2024年10月号 掲載)
2024年09月20日 00時00分 公開
2024年09月20日 00時00分 更新