本誌記事 トレンド 「Customer Success Day! 2025春」誌上レビュー

「Customer Success Day! 2025春」誌上レビュー

カスタマーサクセスはオワコンか?
役割・リソース・生産性の再考察

月刊コールセンタージャパン/CSMEDIA編集部は5月、オンラインセミナー「CustomerSuccess Day!2025春」を開催した。約300名が視聴するなか、識者による講演や対談、カスタマーサクセスを実践する事例企業とそれを支援するITベンダーによるパネルディスカッションが行われた。その模様を採録する。

カスタマーサクセスがキャズムを超える

背景と現在地を白書データから探る

山田ひさのり氏
日本カスタマーサクセス協会
代表理事
山田ひさのり氏

 基調講演に登壇したのは、日本カスタマーサクセス協会代表理事の山田ひさのり氏。協会が発行したばかりの「カスタマーサクセス白書2025」に基づき、カスタマーサクセス(CS)の現状を解説した。

 山田氏は、「顧客満足(CSAT)が商品やサービスへの満足感をベースにした考え方であるのに対し、カスタマーサクセス(CS)は顧客が望む成果を支援することに重点を置く」と前提をおいたうえで、「インターネットやシェアリングサービスの普及により、継続利用が利益を生むビジネスモデルが浸透したことでCSの重要性が高まっている」と説明した。

 現在、CSはSaaS事業者を中心としたアーリーマジョリティ層へ普及、非SaaS分野への浸透が始まろうとしている。その根拠として、カスタマーサクセス白書に収録したデータから非SaaS企業のCS投資意欲の高さを示した。「経営者の理解度が高く、CSツールへの投資を行っている企業ほどNRR(Net Revenue Retention)が高い傾向にある」と強調。また、SaaS企業ではオンボーディングの設計と実行が成功の鍵で実践企業も多いが、「非SaaS企業では指標の曖昧さに課題がある」と指摘。経営者が正しいCS理解を持つことが企業のサービス化成功につながる傾向があることを示しながら、正しい戦術と評価指標の設計の必要性を訴求した。

図 NRRごとの経営者のカスタマーサクセスへの理解(※グラフ中の数値は回答者数)
図 NRRごとの経営者のカスタマーサクセスへの理解(※グラフ中の数値は回答者数)

無形商材としてのCS戦略
AI活用で実現する次世代顧客体験

宇都宮 英氏
アダストリア
管理本部 カスタマーサクセス部 CS統括 兼 DX推進シニアMGR
宇都宮 英氏
鈴木 諒氏
Channel Corpration
Vice President of Operations in Japan
鈴木 諒氏

 事例セッションでは、衣料品・雑貨等の企画・製造・販売を行うアダストリアの宇都宮 英氏とChannel Corporationの鈴木 諒氏が登壇。アダストリアの次世代CS戦略について対談した。約750万人のアクティブ会員を抱えるECサイトを運営するアダストリアは、生成AIを活用した顧客サポートの自動化やVOC分析を実施。AIエージェント『ALF』の導入により、有人チャット対応が半減し、顧客の声を分析する『VOCポータル』でリアル店舗やWebでの改善活動に役立てていることを紹介した。

 宇都宮氏は、CSを経営戦略の中核に位置づけ、「コスト削減だけでなく顧客体験向上や収益化に向けた取り組みを展開している」と説明。AI導入にあたっても、「単なる効率化ではなく、顧客満足度を損なわずにサービス品質を高めることに重点を置いている」とし、その効果が得られたことを強調した。

CS×BPO化─相性はいかに
業務委託のメリットと最適活用術

 パネルディスカッションでは、ギグワークスアドバリューの宮本俊幸氏、OneBoxの鎌田貴史氏、ATOMica/KOMMONSカンパニーの白塚湧士氏が、BPO活用をテーマに議論した。白塚氏は業務の専門性や定常性によりBPO適性を4つに分類、専門性が高いスポット業務(CRM導入やスコアリング構築など)や低い定常業務(SMB層へのオンボーディングなど)が適していると指摘。鎌田氏はコスト削減ではなく、顧客単価を上げることに焦点を当て、立ち上げ期、成長期、成熟期といった事業フェーズごとにアウトソースすべきポイントが異なることを説明した。宮本氏は、BPOのメリットとしてコア業務への集中と経営リスク軽減を挙げる一方、デメリットについても、企業文化や理念浸透の困難さについて説明。さらに、オンボーディング、アダプション、エクスパンションの各フェーズでコア業務とノンコア業務に切り分け、業務フローの可視化と平準化が重要だと強調した。

 最後に、カスタマーサクセス業界最大のコミュニティを運営するCS HACKの藤本大輔氏、Channel Corporationの大貫竜平氏、コールセンタージャパン編集長の矢島竜児が鼎談。CSの課題と将来性について意見交換した。藤本氏は、CS人材が抱えるキャリアややりがいに関する課題について説明。その内容は「コールセンターのスタッフ、とくにSVと類似している」と3人の意見が一致。人材交流を含めたサクセス/サポート間の部署横断によるCX推進の重要性を説いた。

(月刊「コールセンタージャパン」2025年7月号 掲載)

2025年06月20日 00時00分 公開

2025年06月20日 00時00分 更新

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