本誌記事 インタビュー 日本カスタマーサクセス協会 山田 ひさのり 氏

インタビュー

「カスタマーサクセス」普及を担う新協会、発足
メソッドの体系化と“標準”の策定を図る

「カスタマーサクセスをよりメジャーな概念にすることが、日本社会を活性化する」──設立された日本カスタマーサクセス協会の代表理事である山田ひさのり氏は、こう強調する。立場の異なる二十数社の加入企業に対し、「メジャー化」という目的達成へのベクトルをどう打ち出すのか。具体的な方針を聞いた。

山田 ひさのり 氏
日本カスタマーサクセス協会
代表理事
山田 ひさのり
PROFILE
2013年からクラウド名刺管理サービスを提供するSansanに所属。2018から2021年、同社のカスタマーサクセスに従事、同組織の責任者も務める。2020年7月に、『カスタマーサクセス実行戦略』上梓。現在は、同社カスタマーサクセス部顧問の他、支援実績多数。イベント・カンファレンスでの講演活動を精力的に行っている。

──日本カスタマーサクセス協会が設立に至った背景について。

山田 カスタマーサクセスという概念は、日本でも認知度は向上してはいますが、捉え方が業種や業態、企業における立場(経営や現場など)によって多様化しています。その概念をよりメジャーなものにするには、まとめ役的な立ち位置の組織が必要ではないかと考えたのがきっかけです。

 そこで2024年の春から夏にかけて、協会の常任理事会社にもなっていただいたテックタッチと話し合いを開始しました。具体的に、経済産業省が発行している「DXレポート」のカスタマーサクセス版を出そうなどの取り組みの検討を開始、設立へ向けて動き始め、年末の設立に至りました。

顧客と企業が「共生」し
“持続的成長“をもたらす要素

──協会のビジョンについて。

山田 「カスタマーサクセスで、顧客とともに企業が持続的に成長できる社会を実現する」。ポイントは「持続的な成長」と「ともに」という点で、つまり“共生”です。その手段として、(1)カスタマーサクセスの概念のメジャー化、(2)カスタマーサクセス“標準”の策定、(3)非SaaSでも適用できるカスタマーサクセス手段の確立──を目指します。

──コールセンターやカスタマーサポートと比較して、(2)の標準が見当たらないと感じます。例えばカスタマーサクセスやオンボーディングの定義を聞くと、人によって見解が異なる印象が強い。これを(協会が)統一見解として打ち出すという意味でしょうか。

山田 カスタマーサクセスには、「顧客に成果をもたらす」という概念と、その概念を実現するメソッド(手法)が存在し、この2つは分離して捉える必要があると思います。これが一緒くたに語られているケースが多いということが、人によって見解が異なる大きな原因ではないかと推測しています。

 協会では、まだ名称は確定していないのですが「カスタマーサクセス憲章」を打ち出したいと思っています。まずは大多数が納得するコンセプトを打ち出し、すでに世の中に公開されているベストプラクティスやメソッドをコンセプトに紐づけて体系化する。こうした活動は、例えばカスタマーサクセスの実践企業やツールベンダーでは、実践しても収益にならないので、誰も手をつけません。それを協会が担って広めれば、標準化も可能だと思います。

──具体的に「顧客の成功」の定義化についてはどうお考えですか。

山田 私自身は、アウトカム(成果)の測定を可能とするメソッドは著書でも示しているのですが、国内で実践できている事例は数社しかないのは事実です。協会の活動を通じて、何がボトルネックになっているのかを掘り下げる価値はあると考えています。

すべてのステークホルダーをカバー
「12の目標」を打ち出す

──二十数社が加入していますが、かなり多彩な顔ぶれです。

山田 現段階では3つに分類できます。ひとつは、カスタマーサクセス市場で売り上げを拡大したい皆さま。具体的にはITベンダー、BPOベンダーやコンサルタントなどです。それからBtoBのSaaS企業が多いカスタマーサクセスの実践企業。最後が、これからカスタマーサクセスに本格着手したいと考えている方々です。

──3つめは、数社が加入しているSI企業のことですか?

山田 はい。協会では市場を明確に定義していませんが、このカテゴリーでのポジション確立は日本における今後の市場で大きな要素になると考えています。

 IT市場のクラウドシフトによって、SI各社もさまざまなベンダーのSaaSを組み合わせて提案するビジネスに移行しています。これまでは、納品後は保守契約に基づきトラブル時にサポートする、いわゆる“売り切り”に近いビジネスでしたが、SaaSやクラウドだと「納品後に使ってもらって定着する」というプロセスが不可欠です。それでカスタマーサクセス部門を立ち上げるSIも増えていますが、多くは自社で開発したプロダクトではないだけに、マニュアルに沿って対応すれば成立していた保守サポートとは勝手が異なってうまくいかない。この課題をうまく解決できるメソッドを整備できれば、カスタマーサクセスという概念はより深く定着するのではないかと考えています。

──立ち位置が異なるメンバーをどうまとめて、普及を図るという同じベクトルに向かわれるのか、考えを聞かせてください。

山田 実は、協会の「12の目標」を起案しました()。ここに、3つのカテゴリーの皆さまが求めている全要素を盛り込んでいます。加入企業にそれぞれの思惑があるのは当然のことですし、会費を原資としていただく以上、それらに応える活動を展開する方針です。

 まずは3月、「カスタマーサクセス白書」を発行する予定です。コンファレンスや出版などの啓発事業にも取り組みます。

図 JCSA(日本カスタマーサクセス協会)が達成したい12の目標
図 JCSA(日本カスタマーサクセス協会)が達成したい12の目標

(月刊「コールセンタージャパン」2025年2月号 掲載)

2025年01月20日 00時00分 公開

2025年01月20日 00時00分 更新

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