大村 康雄 

本誌記事 連載 “動ける現場”をつくる! 自律的組織の構築術 第5回

“動ける現場”をつくる! 自律的組織の構築術 第5回(最終回)

属人化がチームの成長を止める!?
ノウハウ共有と人材育成のポイント

属人化とは、特定の個人に業務や成果、ノウハウが集中し、その人がいなければ仕事が回らない状態を指す。最終回では、属人化がなぜチームの成長を止めるのかを改めて整理したうえ、個人のノウハウを組織の資産として蓄積・共有するための考え方と仕組みを解説する。教えるだけで終わらせない「育成」の設計を通じて、成果が続く組織づくりの具体策を提示したい。

大村 康雄
エッジコネクション
代表取締役社長
大村 康雄
慶應義塾大学経済学部卒業後、シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)入行。2007年、株式会社エッジコネクション創業。営業支援業を軸に人事・財務課題にも対応するコンサルティング企業として展開。これまでに1600社超を支援し、継続顧客割合は75%以上。2024年7月には「黒字持続化経営の仕組み」を出版。

 一見すると、属人化は効率的な運用に見える。「できる人に任せたほうが早い」という判断が積み重なることで、属人化は一時的には効率的に見えるためだ。しかし、その裏ではチーム全体の成長が確実に鈍化していく。

 属人化は成果創出の再現性を失い、育成や改善のスピードを著しく低下させる()。成果を安定して出しているチームほど、特定の個人に業務やノウハウが偏っていない。属人化がチームの成長を止める理由は、主に次の3点に集約される。

図 属人化がチームの成長を止める構造
図 属人化がチームの成長を止める構造

①成果の再現性が失われる:成果の出し方が言語化・共有されないため、他のメンバーが同じ水準に到達できない。結果として、育成に時間がかかり、改善のスピードも上がらない。

②チーム運営が個人依存になる:成果が出ている間は問題が表面化しないが、異動や退職、業務過多といった変化が起きた瞬間に、現場は立ち行かなくなる。これはリスク管理の観点からも大きな問題である。

③メンバーの主体性が育たない:判断基準や成功の型が共有されないことで、他のメンバーは「聞かないと分からない」「指示がないと動けない」状態に陥る。これでは自律性は育たない。

 属人化の本質的な問題は、個人の能力ではなく、ノウハウを組織に残す設計が存在しないことにある。成果を出せる人を増やすためには、まず属人化がチームの成長を止めている構造を正しく理解する必要がある。

ナレッジ共有を“仕組み化”する

 属人化を解消しようとする際、「ノウハウを共有しよう」「成功事例を展開しよう」といった掛け声が先行することが多い。しかし、単に情報を集めたり、資料を作成したりするだけでは、ナレッジ共有は定着しない。重要なのは、共有を個人の善意や努力に委ねず、日常業務の中に組み込み、仕組みとして設計することである。

 ナレッジが共有されない最大の理由は、共有しようと思ってもするための「方法がわからない」「時間がない」「インセンティブがない」など、さまざまだ。成果を出している人ほどこれらの理由のどれかが発生しやすく、暗黙知のままその人の中にのみノウハウが蓄積されていく。これを防ぐためには、全員で成果や失敗を振り返り、言語化するタイミングをあらかじめ決めておく必要がある。

 例えば、日次や週次のミーティングで「今日うまくいったトーク」「反応が良かった切り返し」といった具体的な行動にフォーカスして共有する。重要なのは、成功要因を感覚論で終わらせず、「なぜうまくいったのか」「どの条件で再現できるのか」まで掘り下げることである。

 また、ナレッジは蓄積されるだけでは意味がない。必要なときに、必要な人が参照できる状態で整理されて初めて機能する。そのためには、テーマ別、シーン別に整理し、スプレッドシートや共有フォルダなどにそれらのデータを保管し、誰でもアクセスできる形にしておくことが求められる。

「教えるだけ」ではダメ

 人材育成において、「教えること」は欠かせない。しかし、教えさえすれば人が育つかというと、答えは否である。

 教えるだけの育成は、受け手を受動的にしやすい。言われた通りにやるが、自分で考える力が育たない。その結果、想定外の状況に対応できず、成果が安定しない。

 一方で、「自分で考えさせる」ことを重視しすぎると、今度は何を基準に考えればよいか分からず、成長が止まる。経験の浅いメンバーにとって、判断軸のない自律は単なる放置になりかねない。育成に必要なのは、「教えること」と「考えさせること」の適切なバランスである。

 具体的には、まず成果につながる行動(トーク)の型を明確に示す。そのうえで、「なぜこの行動(トーク)が必要なのか」を伝えるとともに、「どの数字が変われば良い兆候なのか」といった判断基準を共有する。

「教育」と「育成」の違い

 「教育」と「育成」は似ているようで、本質的には異なる。教育は知識や手順を伝える行為であり、育成は成果を出し続けられる状態をつくるプロセスである。

 育成を機能させるためには、「行動」と「結果」を結びつけて振り返る仕組みが必要である。具体的には、教えた内容を実務で実行し、その結果を数字で確認し、次の行動を修正する。この一連の流れを繰り返すことで、スキルは定着していく。重要なのは、振り返りを感想や印象で終わらせず、「どの行動が、どの数字に影響したのか」を言語化する点である。

 リーダーの役割は育成の循環を止めないことである。

 メンバーが自分の行動を振り返り、改善点を見つけ、次の挑戦につなげられる環境を整える。具体的には、良いノウハウ共有を称賛するとともに、ノウハウの溜め込みには目を光らせるなど、挑戦→学習→ノウハウ共有→別のメンバーの挑戦という循環が止まらないようにすることである。その積み重ねが、属人化を防ぎ、成果が続く組織をつくる。

(月刊「コールセンタージャパン」2026年4月号 掲載)

2026年03月20日 00時00分 公開

2026年03月20日 00時00分 更新

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