白塚 湧士 第1回

本誌記事 寄稿 サポートからサクセスへの役割シフト 第1回

サポート部門を「サクセス部門」へ──
プロフィットセンター化のメリットと障壁(1)

生成AIの台頭で、あらゆる業務プロセスの自動化が急速に進んでいる。コールセンターをはじめとしたカスタマーサポート部門も変化を余儀なくされ、とくに「人が実践すべき業務」の洗い出しが必要とされている。カスタマーサクセスは、その一部として注目されつつある。顧客をより能動的に支援し、KPIも継続率などの収益性を示す指標に変化する──「プロフィット化」の進化と、その障壁について検証する。

白塚 湧士
Writer
KOMMONS 代表
白塚 湧士
1996年生まれ。京都大学を卒業後、三井物産に入社。CX領域の事業投資チームにてカスタマーサクセス・サポート領域の出資先との新規事業に従事。コールセンター事業会社に出向し、テクニカルサポートチームのマネージャー業務に従事。2020年に退職後、スタートアップでのカスタマーサクセスチーム立ち上げを経て、21年4月にKOMMONSを創業。

 2022年にOpenAIが公開したChatGPTをきっかけに生成AIへの注目度が高まり、問い合わせ対応の自動化に関する議論が活発になっている。生成AIに関しては個人情報保護の観点など、実用化に向けて解決すべき課題はあるものの、2016年頃から普及しはじめているAIチャットボットの進化が期待される。その一方で、「ヒトだからこそできるカスタマーサポート」も求められはじめている。

 そうした中、“ヒトだからできる業務“として注目されているのがカスタマーサクセスだ。カスタマーサクセスは、能動的な支援を通じて、売り上げや継続率向上に寄与する取り組みのことを指し、SaaS業界を中心に国内でも普及しつつある。

 カスタマーサクセスとカスタマーサポートは対照的なものとして比較されることが多いが、「課題のヒアリング」や「機能説明」など、具体的な活動だけをみると、それほど大きな違いはない。例えば、コールセンターにおける問い合わせ対応は「顧客の課題解決」をゴールとしているが、カスタマーサクセス部門という名称でも実際は同じように問い合わせ対応しか行っていない企業も多い。

 今回は、カスタマーサポートからカスタマーサクセスへのシフトがどのような変化と効果を生み出すのか、シフトしていくにあたってどのような障壁があるのか検証する。

コストセンターから
プロフィットセンターへ

 最も大きな変化として挙げられるのは、コストセンターからプロフィットセンターへの転換だ。コールセンターやカスタマーサポートチームには、「予算を確保しにくい」「評価につながりにくい」といった悩みを抱えているマネージャーが多い。売上貢献が見えない活動に投資するにはハードルがあり、必要最低限の費用は捻出できても「顧客満足度を高めるために積極投資を行う」という企業は少ない。もちろん、顧客満足度をKPIとするケースもあるが、他国と比較すると日本はサービス品質の期待水準が高く、顧客満足度の獲得に大きな工数も要する()。顧客満足度の維持・向上を限られた予算内で実現するのは容易ではない。

図 「顧客サービス」への期待値が高く、シビアな感覚の日本人
図 「顧客サービス」への期待値が高く、シビアな感覚の日本人

 これに対して、カスタマーサクセスのKPIは継続率や既存顧客経由の売り上げが設定されることが多い。カスタマーサポートの顧客満足度や平均処理時間などのKPIと比較すると、直接的に売り上げへの貢献を示すことができ、経営陣としても投資への抵抗が少ない。

 カスタマーサクセスへのシフトは、会社としての投資ハードルを下げ、持続的かつ高品質なサービス提供につながるはずだ。

「顧客」主導から「CS」主導
「汎用」支援から「個別」支援へ

 「売り上げに関するKPI」を設定することで、対象となる顧客が変わる。カスタマーサポートでは、「問い合わせをしてきた顧客」を対象にしており、顧客が問題を認識して問い合わせをした段階で支援を行うことがミッションだ。一方で、例えば継続率をKPIに設定したカスタマーサクセスの場合、顧客が問い合わせをするかどうかとは無関係に、「製品を適切に活用できず、利用を止めようとしている顧客」を対象に支援することになる。このため、顧客からのアクションを待つのではなく、カスタマーサクセス主導で顧客との接点を作っていく必要が生じるわけだ。

 また、支援の方法も変化する。顧客からの問い合わせを起点に支援を行うカスタマーサポートは、どのような顧客からどのような問い合わせが入るか事前に予測できない(もちろんIVRなどで問い合わせ内容を切り分けることは可能だが)。そのため、極力、網羅的かつ汎用的な支援を提供できるよう準備しておくことが求められる。

 これに対して、カスタマーサクセスは、対象顧客と支援内容がより細かく絞り込まれていることから、事前に説明する内容を詳細に準備して臨むことができる。「製品を適切に利用できず解約しようとしている顧客」には「初期設定や利用方法を一からご案内する」、「製品をよく使いこなしている顧客」には「さらに発展的な利用方法をご案内する」など、顧客の置かれた状況を事前に把握し、支援する内容を準備してから対応できる。もっとも、「どの顧客に何を提供するか」という戦略を検討する業務は新たに生じるが、「個別支援」をできることは、サポート部門のスタッフにとってもやりがいになり得るのではないだろうか。

 次回は、カスタマーサクセス部門を新設、あるいはシフトするうえでの障壁と解消法を解説する。

(月刊「コールセンタージャパン」2024年4月号 掲載)

2024年03月20日 00時00分 公開

2024年03月20日 00時00分 更新

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