白塚 湧士 

本誌記事 連載 「カスタマーサクセス」のリソースマネジメント 第5回(最終回)

「カスタマーサクセス」のリソースマネジメント 第5回(最終回)

CS向けBPOの実例から学ぶ
成果を生む共通点とベストプラクティス

カスタマーサクセス業務は業務委託(BPO活用)できるのか、実践するには何を留意すればいいのか──人手不足が加速する昨今、極めて大きなテーマに向き合った本連載も、最終回となる。今回は、実際に事例も多い、オンボーディング/マニュアルFAQ整備/商談機会創出という「3つの委託可能領域」の具体例を挙げつつ、成功のポイントを検証する。

白塚 湧士
Writer
ATOMica KOMMONSカンパニー
白塚 湧士
2018年に三井物産に入社。CX領域への投資業務を担当。りらいあコミュニケーションズに出向し、サポート・サクセスチームのMGR業務に従事。2020年に退職後、スタートアップでのカスタマーサクセス立上げを経て、2021年4月にKOMMONSを創業。累計200件以上のCS業務設計・BPO案件に携わる。2024年8月に同社を事業売却し、現職に就任。

 前回(第4回)は、失敗の多くが“期待値ギャップ”に起因すること、委託範囲の決め方・ベンダーとの関係構築・KPIマネジメントの三本柱がBPO活用の成否を分けると解説した。

 最終回となる本稿では、標準化しやすく、導入難易度も比較的低い為、CS(カスタマーサクセス)向けBPOの事例も多い3領域──①初期設定・オンボーディング、②マニュアル/FAQ整備、③既存顧客向けの商談機会創出──の実例をもとに、前回の要点を踏まえてベストプラクティスを整理する。

図 カスタマーサクセスBPOによる3つの定量貢献
図 カスタマーサクセスBPOによる3つの定量貢献

事例1:初期設定/オンボーディング
オンライン化、KPI、BPO化を一気に実施

 教育分野向けの学習アプリを全国展開するSaaS事業者では、対面によるオンボーディング業務の質が担当者ごとに属人化し、繁忙期の集中によってコア業務に専念しづらいという構造的課題を抱えていた。このまま顧客増加が続くと、対応できない顧客が発生し解約が増加するリスクもあった。

 そこで業務の棚卸しから、オンライン化の設計、KPI定義、BPO化までを一気通貫で進めた結果、品質を維持しながら、オンボーディング工数を大幅削減した。顧客やタスク管理もスプレッドシートから専用ツールである「Notion」へ移行、抜け漏れの抑止と可視化によってクライアントとBPOベンダー間のコミュニケーションが円滑化、運用効率も向上した。

 この領域でのベストプラクティスは、まず「誰に/どのタイミングで/何を実施し/完了をどう判定するか」を明確にし、その完了条件を数値で固定するところから始まる。さらに、棚卸しで可視化した作業をもとに工数を見積もり、KPIと併せて社内と外部の役割分担を定める。結果、分業の境界が明確になり、品質を保ったままCSのBPO化を進められる。

事例2:マニュアル/FAQ整備
テックタッチ強化で問い合わせ削減

 セキュリティ領域で活動しているSaaS事業者では、月平均約300件の問い合わせ対応がCSの稼働を圧迫していた。そこでFAQを整備し、想定約300件を上回る約850件まで1カ月で拡充。FAQの移管とチャットボット連携により、10〜15%の問い合わせ削減が見込まれている。

 ここでのポイントは、「量か質か」の二者択一を離れ、まず網羅性を確保してから検索性やUIなどの質を磨き込む手順を採ったことだ。具体的には、問い合わせの収集・分類を起点にFAQコンテンツを網羅的に作成し、その後に用語・文体・キャプチャの表記基準を整え、見出しやタグ、関連質問を設計して“自己解決率向上”に向けた導線を組んでいる。

事例3:既存顧客向けの商談獲得
的確な業務改善プロセスの構築

 士業向けに業務効率化ソリューションを提供するSaaS事業者では、オンボーディング後の新機能紹介やクロスセル提案が後回しになり、機会損失が生じていた。そこで、利用状況データからアップセルの余地をスコアリングし、トークスクリプトを整備したうえでBPOチームが架電を実施。架電数→有効接触数→商談数の遷移率を見ながら改善を重ね、商談機会は15%増となった。あわせて“再オンボーディング”の打診も行い、解約抑止にも寄与した。

 このケースの肝は、ホットリストの抽出条件を明文化したうえで、三段ファネル(架電→有効接触→商談)で定期的に仮説検証を行い、結果をスクリプトへ即時反映した“データ起点の改善プロセス”にある。データで当たりどころを見極め、アプローチ方法を継続的に更新していくことで、BPOの費用対効果を高められる。

成功事例に共通する“型”
BPO利用業務の解像度を高める

 3事例に共通するのは、まず BPOの業務内容の解像度を高めたことだ。「セグメント×タイミング×完了条件」をワンセットで言語化し、曖昧さを残していない。また、社内とベンダーの責任境界・判断権限・エスカレーション基準を手順書に固定し、誰がどこまで意思決定するかを明確にした。

 さらに、BPOのフェーズに応じてKPIを最適化することが重要であることもわかる。立ち上げは活動量、運用改善期は顧客の行動変容、効率化期は生産性を主軸に据え、測る指標を段階的に切り替えることで、期待値のずれを防げる。

 これらを支えるのがデータドリブンな運用であり、顧客の利用データやCRMデータの活用、オンボーディングや既存顧客向けインサイドセールスのファネル定義による定量的な効果測定の仕組み作りによって、改善サイクルを回し続けられる。

 最後に、BPOベンダーが事業KGIとCS組織としてのビジョンまで深く理解し、仮説提案を能動的に行えるパートナーシップを築くことが、再現性の高い成果の前提となる。

 BPOで結果を出すには、「定義の解像度・分業の設計・フェーズ別KPIという三本柱を、データを軸に回し続けること」に尽きる。オンボーディング工数の大幅削減、FAQによる問い合わせ工数の削減、既存深耕による商談増はいずれも、「定義→設計→運用→計測→改善」という地道なサイクルの産物だ。まずは小さく始め、勝ち筋が見えたら横展開する。適切な設計と共創姿勢があれば、BPOは単なる外注ではなく、事業を加速させる仕組みへと進化する。

(月刊「コールセンタージャパン」2025年10月号 掲載)

2025年09月20日 00時00分 公開

2025年09月20日 00時00分 更新

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